自分の想いの、再確認

やっぱりこの男達は怪しい。こんな格好の人たちがなんで森にいるんだ?とずっと思っていた。用心しておかないと。


「ほら、飲み物。こんなものしかないが、飲んでみてくれ」

「何からなにまでありがとうございます」

「全然いいってことよ」


飲み物?中に睡眠薬でも入ってんじゃないか。だとすると飲むのはまずいか……。だとしても飲まないのは勘付いていることがバレるかもしれない。じゃあ飲んだふりをしよう。それが最善策だ。と思う。


「では、頂きます」


やはり沙織は飲む。すると沙織は喋る暇もなく寝てしまった。僕も飲んだふりと寝たふりをした方がよさそうだ。


「……こいつら寝たか?」

「あぁ多分寝たぞ」

「なら大丈夫だな。ふぅ〜こんなところに人がくるなんてなぁ」

「まったくだ。しかもなんも勘付かれすにくるとはな」

「あいつらもばかだなぁ」


悪党がしそうな笑い方で思いっきり笑う強盗たち。やっぱり。これから何をされるかはよくわからない。すぐに逃げられるように準備はしておこう。でもすることは何一つとしてない。


「それでこれからどうするんだ?」

「そうだなぁ、首でも切ってサッカーでもするか?」

「グロすぎだろww」

「じゃあ鍋で煮て食うか?」

「俺食ってみたかったんよね、人肉」

「じゃあ俺ら野菜とってくるわ」

「だれか水沸かしとけよ、鍋にしよーぜ」

「じゃ俺やっとくわ、おまえらいってこい」

「りょうかい、それじゃいってくるわ」

「おう」


お、1人になったか。じゃあ逃げられるかもな。ただ1人に見つかってしまったら仲間に連絡されて意味がない。本当にどうしようか。鍋がぐつぐつという音をたてながら煮たっている。あ、そうだ!お湯を沸かしてる今ならあいつをお湯の中に押してその隙に逃げるか。あの人には申し訳ないが、そうしよう。


今だっ!寸分の隙を見計らって僕は飛んだ。


「うわっ、あつつつっ!」


鍋の中に押し込んで男が動かなくなったのを確認する間もなく、沙織を背負って急いで走った。しかし、出てみると大勢の男がちょうど帰ってきた所だった。


「おいあいつなんで起きてんだ⁈」

「おい逃げるぞ、とにかく捕まえろ!」


僕は全速力で逃げた。キノコの欠片を落としておいたから道が分かる。落としておいてよかった。とりあえずあの小鳥遊の家まで行こう。そうすれば人がたくさんいる。


「はぁっ、はぁっ」


流石に沙織を背負って逃げるのは辛い。もう距離も縮まってきてそろそろ追いつかれてしまいそうだ。


「えっ、なになにどうしたの」

「おいこら待てぇ!」

「あ、沙織、起きた? ちょっと急いで小鳥遊んちまで走れる?」

「う、うん、分かった」


よし、これで全速力で走れる。一応陸上部なので体力も走力もある。沙織も体力はあるので逃げ切れるだろう。

やっと小鳥遊の家が見えてきた。見ると、玄関には小鳥遊のお父さんがいる。大声で呼んだら聞こえるだろうか。


「おーい! 小鳥遊さーん!」

「ん? あ、司君と沙織ちゃんじゃないか。キノコ狩りはどうだったかい?」

「ちょっと今それどころじゃないんです。盗賊に襲われてるんです」

「そうか。じゃあ家の中に隠れてな」

「っ、、はい!」


とりあえず家の中には避難した。というかなんで盗賊に襲われてるって言ったらすぐ聞いてくれたんだろう。


「なぁおじさんよぉ。その家の中に男1人と女1人いなかったか?」

「そんなもんいないね。俺は1人でここに住んでるんだから。あー、でもさっき走って行った男女はいたね」

「っ!どこいった⁈」

「確か君たちは体の大きさを変えられる杖を盗んでいたよな?」

「なっ、なぜ知っている」

「さぁ。じゃあその杖を使って大きくなってみてくれないか」

「そしたら教えてくれるか」

「あぁ、もちろん」


ん?もちろん?できたら教えるつもりなのか?そして体の大きさを変えられる杖?よく分からないパワーワードが聞こえてくるが、、、、、、まぁいいか、とりあえず息を潜めて待っていよう。


「おい、杖をだせ」

「んっ。これがその杖だ」

「じゃあ大きくなってみてくれ」

「ほらこの通りだ」


といって杖を振るとみるみるうちに大きくなっていった。そんなものがこの地球上に存在したのか。すごいな……。


「おぉ、確かにその杖は本物のようだな。では今度は豆のように小さくなれるか」

「教えてくれるんじゃねぇのかよ!」

「これができたら本当に教えてやろう」

「よし、分かった」


そして大きな体で大きな杖を振ると急にいなくなってしまった。そしてなんなんださっきから……。僕の知っている世界ではない。


「それではちょっと手のひらに乗ってくれ」

「………………」

「分かってるわ」

「………………」

「もちろんだ。取るわけないだろう」


そうすると手の上に葉の上から豆のようなものが歩いて小鳥遊のお父さんの手の上に登ってきた。すると小鳥遊のお父さんは豆の中から器用になにかを奪い取って口の中に放り込んだ。そして硬い音をしながら咀嚼をした。


「よし、もう出てきていいよ」

「「ありがとうございました!」」

「あぁいや、これは僕の責任だよ」

「え? なんでですか?」

「この体の大きさを変えられる杖を作ったのは僕なんだ。この家で研究していてね。それを嗅ぎつけたあいつらがこの杖を盗んで行ったわけだ。隠しカメラで部屋を撮っていたから顔は覚えていたんだ」

「じゃあそれを警察に届ければいいんじゃないんですか?」

「いや、僕がこの杖を作ったことを世間に知られたくないからね」

「そうなんですか……」


こんな話を続けていると小鳥遊と大星が帰ってきた。カゴのなかには多くのキノコが入っている。


「あれ? 沙織ちゃんと司じゃん。キノコは?」

「話せば長くなる。夕食の時に話そう」

「そうだね。とりあえず家に入ろうか」


◆ ◆ ◆


「それは大変だったね〜! でもお財布が戻ってきたんだし、よかったじゃん? ねぇ沙織ちゃん!」

「あ、う、うん…」

「司もよく走ったな。でも大会近いしちょうどよかったんじゃねぇか?」

「一回同じことしてみる? ホントに辛かったよ。いつ逃げるかとか緊張ヤバかったし」

「まぁ助かったんだしいいじゃないか」

「まぁそうですけど……」

「そうそう! このあと花火やらない? 買ってきたんだ〜」

「俺が、な」

「でもお金私が出したじゃ〜ん」

「俺よりお前の方がお小遣いあるんだから当然だろ」

「えーけちー」

「んじゃ俺風呂入ってくるわ。司も、行くぞ」

「あ、あぁ分かった」

「じゃあ私たちもいこっ!」

「あ、うん」



お風呂に行ってみると、物凄く大きかった。なんか大浴場みたいな感じだ。しかも男風呂と女風呂が別れてるらしい。この家大きすぎるな。


「おい、告ったのかよ」


急にそんな話をしてきた。そう、今日は僕のために開催された合宿だったのだ。僕は正直に言うと沙織のことが好きだ。好き、と分かってしまった瞬間から僕は沙織と話し辛くなってしまった。だからお互い話しかけなくなってしまったのだろう。そこで小鳥遊と大星に沙織のことを好きな事がバレ、この合宿が開催された。そしてせっかくキノコ狩り(?)で二人にしてもらったのに別れて探すことになってしまった。


「いや、うん、知ってる通りだよ」

「え〜せっかくこのキャンプやってんだから今日中には告れよ〜」

「うん、そのつもり」

「言ったな? 今日ふたりきりにしてやろうか?」

「そ…うだね、お願いしてもいいかな」

「お、やる気でた?」

「うん、ちょっと今日しかタイミングないな、と思って」

「おっけ〜頑張れ!」

「うん」


今日こそは、今夜こそは絶対に告白しようと思っている。早く自分にケリをつけた方がいい、早く沙織に自分の想いを伝えた方がいい、僕はそんな気がした。

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