第5話 『王宮』

ソニア一行の翡翠の女王に謁見するために荒野を抜ける。道中俺はこの世界に迷いこんだこと、神様もどき、舌なしエルフ、禍々しい甲冑のことを彼女たちへ伝えた。


妹君いもうとぎみは気の毒であったな。じゃが、愚かな義父に天誅を下したのじゃ。主は正しい事を成した。胸を張るがよい」


「どうかな、法の裁きを受けさせるべきだったかもって今でも迷ってる。甲冑着る前から狂ってんのかもしれねぇな。けど、ありがとよ」


舌なしエルフ--、マシロ(伽耶が髪が白いからと適当に付けた)はいまは怯えた様子もなく、黙々と俺に引っ付いて歩いている。

アミスとゲールが採ってきた野鳥の燻製を齧ると特有のえぐみあったが空腹を徐々に満たしてくれる。


けい、どうだいあたしの干し肉は? 当然、美味いだろう。採れたばかりだからね」


「ア、アミスのじゃなくてそれはゲールのお肉だよ。ほら、手羽の部分持ちやすくしてあるし」


「ヘー、ゲールのねぇ。なーんか響きがエッチだよ?」


「うっさいッ、アミスのバカ。年増エルフッ」


流石に収拾がつかない様子を見かね、ソニアがふたりの尻をひっぱたき場を収めた。


「お見苦しいところを......。普段は仲はいいんですけれど、--失礼」


ソニアはこっそり小瓶で酒を飲む伽耶の頬をひっぱたき、涙目の彼女から酒をぶんどった。


「いいかげんにしなさい。任務中の飲酒は固く禁じたはずですが」


「うぅ、ソニアの阿呆。貧乳エルフッ」


余程、頭にきたのだろう。ソニアは伽耶の目の前で小瓶を煽り飲み、空き瓶を伽耶の豊満な胸に差し込んでやった。


「ふぅ。あら、ちょうどいいホルスターがありましたわね」


伽耶は空き瓶を胸に挟みがっくりとうなだれている、

効果は絶大のようだ。


一方、マシロは黙々と干し肉を齧っている。

食感を楽しんでいるのか、場を楽しんでいるのか伺いしれないがその表情はとても落ち着いているようだった。


三日三晩、休憩しては歩き、談笑しては歩き、ついに彼女達の住処に辿り着く。

一見すると熊が冬眠する巣穴のようだがどうやらここが目的地らしい。

ソニアは先を歩き一行を先導する。というのも、外敵から身を守るために異常なほど罠が仕掛けられており、翡翠の女王が如何に用心深い性格か伺い知れる。刺客に脅されて案内を強制されても数多の罠で容易に撃退できるというわけだ。


「そこ足元注意して、返しが付いた毒針床だから。ここまで進んで5秒立ち止まって、壁から槍が突き出るから」


「相変わらず臆病者というか、行き来する者のことを小針ほども考えないのかのう......」


「マシロ、負ぶってやろうか? ほら、早く」


身をかがめ、妹にしたときのように背中を差し出すとマシロは勢いよく飛び込んできた。華奢な体に似合わず、柔らかな胸の感触が妙に心地いい。


「と、あぶねぇての。どうした伽耶? 」


伽耶は羨望のまなざしでこちらを一瞥し、別にと黙々と歩みを進める。


「兄上のことを思い出してのう。生きてれば今のお前様ぐらいの年齢じゃった。その......後で余も負ぶってくれるか?」


「しょうがねぇなぁ、代わりに昔話でも聞かせてくれよ」


「三日三晩では足らぬぞ。じゃが、約束」


差し出された伽耶の小指に指を絡めると、一瞬、嬉しいのか、泣いているのかわからない顔をするがいつもの気怠そうな表情になる。


「ゆ~びきりげ~んまん、うそついたら指と~ばす、指きった」


なんだか不安な約束をしたような気がするが大丈夫だろうか。


「この赤い扉の先よ、急に明るくなるから注意して」


ソニアの進む先、扉はあきらかに赤い扉ではなかったが赤い宝石が上部にあったから、なのだろう。


扉を開くと煌びやかな王宮の一室に出た。ソニア達の帰りを待っていたのかメイド衣装のエルフが一気に押し寄せてくる。口々に捲し立てるので要領を得ないが、

概ねは、

「帰りが遅いから迎えに行くとこだったわよ」

「翡翠の女王も心配してたわ」

「ウソ、人間の男よ......」などといった内容だった。


メイド長らしく片眼鏡をかけたエルフが手をたたくと蜘蛛の子を散らすようにメイドたちは離れていった。


「イレインです。以後、お見知りおきを。これからあなた方は女王の謁見となりますが、その前に衣服を革めさせていただきます。何卒、ご理解頂きますよう」


すっかり忘れていたが、野党からはぎ取ったボロ布衣装では女王に失礼ということか。


イレインの合図でメイド達は有無を言わさず襲い掛かり、

俺とマシロのボロ布をはぎ取ると大浴場へ投げ込んだ。

久しぶりの風呂にふたりして顔を沈めたり、背中を洗いあったりして過ごしたのであった。









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