第3話 『贄達』

禍々しい瘴気、むせ返るような悪臭。

床には獣達の臓物が散乱している。

小屋の隅で意識を取り戻した女が震えながらこちらの様子を伺っていた。


「......無事だったか」


「〜〜ッ⁉︎ 〜ッ!」


声にならない絶叫を叫び、女は昏倒してしまった。

彼女に伸ばした右手が返り血で真っ赤に染まっていたことに気づく。

滴り落ちる鮮血がみるみる瘡蓋のように体にこびりつき、異様な甲冑が姿を現す。

この世の暴力、憎悪、怒りを混ぜ込んだような形状のそれは、自身が存在してはいけないナニカに成り果ててしまったことを痛感させたのであった。



オドは確かにこの辺りで感じたわ。あなたはどう? 」


「一人は微弱だね、もう一人は......人外。助けられる見込みは薄いかも」


「儂は反対じゃ。どうせ助からんて、早く酒でも飲みいこうぞ」


「わ、わたしも反対。怖いし寒いしおなかすいた」


4人のエルフはそれぞれ意見を交わすがリーダー格ソニアは周囲を何者かに囲まれていることに気がついた。それを察して全員は口をつぐむと、

ソニアは直剣を目にも止まらぬ速さで引き抜き、

ゲールはリボルバーをホルスターから素早く抜き、

伽耶は鞘から腰を切るように抜刀し、

アミスは弓を構えた。

立木の枝に一羽の鳥がいた。

一見すると梟のようだがその半身は腐りかけており、首が狂ったように回転をしている。


「贄贄贄贄贄贄贄贄贄贄贄贄贄贄贄贄贄贄贄贄ッ、捧げろ捧げろ捧げろ捧げろ捧げろ捧げろ捧げろ捧げろ」


「なんじゃ、この奇怪な鳥は。梟の化け物か」


「似たようなものね。何者かが取り憑いてるのかも」


「贄、捧げろ?意味はわからないけれど、気色悪いわね......」


「み、みんな周りを見て」


周囲の木陰からヒタヒタと野党の死骸が辺りに悪臭を放ちながら近づいてくる。

梟同様にその半身は腐り、目は濁り、生きた屍のようだ。

屍の一人がこちらを指さしながら語りかけてくる。


「エ、エウフ。ジョウモノッ、ジョウモーー」


伽耶は躊躇なくその屍の首を刎ねた。


「試刀にもならぬ。まとめて去ねや」


一斉に襲いかかる腐肉を散らしながら、

4人は梟を目指し突き進む。


ソニアは剣を背中に振りかぶり、横薙ぎ一閃。

飛び散る腐肉の隙間を縫うようにゲールが頭を撃ち抜いていく。

伽耶はアミスに目配せすると一気に駆け抜け、

下段から抜刀し屍共の脚を切断する。

アミスの弓から放たれた矢は梟の回転する頭部を穿ち、屍達は糸が切れた傀儡のように倒れ動かなくなった。


オドが弱ってきてるわ。アミス、梟の頭部は回収しておいて」


「うげぇ〜、無茶言わないでよソニア。伽耶代わってよー」


「知らん。酒の肴にもならぬわ」


「みんな薬莢拾うの手伝ってよね。大切な資源なんだから」


一行は小屋へと向かうのであった。




















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