42 偽りのマリーの終わり
マリーは教授室を出ると少し考え込んでいた。
メイドの幽霊の謎を解き明かそうと、《想いの力》による人体の召喚の話を聞き、世界線係数、そしてなぜか自分がこの世界の存在でない可能性を知った。
見知らぬ花畑で目覚めて以来、偽りのマリーを演じてきたが、この世界の存在でないという可能性は、マリーの存在意義を大きく揺るがした。
そして、それはあまりにも突然に、そしてあっけなく、マリーに訪れた。
ボーアの研究室から連絡通路を抜けたあたりから、雑踏と人の声が聞こえ始めた。石畳には生徒たちが聴衆として集まり、取り囲むようにエスカリエ兵が置かれていた。
雑踏からは「おい、女王マリーが聖戦の演説をするらしいぞ」とか「最後の戦争がはじまるのね」とか「ってか、聖戦が行われると訓練兵の俺たちってもう用済みになるんじゃ」なんて声が聞こえてきた。
「?」
マリーは疑問符を浮かべた。
雑踏が集まり、マリーも雑踏の一部となった。聖戦が最後の戦争を意味するなら、エスカリエの戦争は終わるってことだろうか。
いや、それよりも女王マリーの演説とは何のことだろう。マリーが必要ならヴィルヘルムから通達を受けるはずだった。今回は何も知らされていない。
マリーの嫌な予感は的中した。
マリーと同じ赤茶色の少女が石畳にあがった。ちょうどマリーと同じ背丈であり、甲冑を施した鎧ドレスが翻った。その頭には黄金の冠がある。
「……マーガレット、カルネラ?」
マーガレットもカルネラもマリーの声が聞こえていた。それと同時に、この時間にはマリーが二人いる事実に直面していた。
「我こそは、マリー・ルーン・エスカリエである! この世界を完全なる世界にすべく降臨した神だ。ならば汝、残酷な世界を望むか? 凄惨な世界を望むか? 否、我が求めるのは、輝かしい完全なる世界である!」
マリーを自称する少女を前に三人は固まっていた。その冠をした少女の側にいた神官長ヴィルヘルムが少女に何かを囁いた。
「……え? ああ、そっか、確かそんな感じだったわね。じゃあ、仕切り直しね」
冠をした少女は雑踏の中から、狐面の少女を探しだし、マリーと目が合った。そして右手の人差し指と二本指をマリーに向けたのだった。
「え……?」
その指に光が収束した。それは《想いの力》の詠唱、カルネラでさえ見たこともない《想いの力》の行使だ。
「マリー様!」
「《
冠をした少女から放たれた光は、マリーに向けられた。光で視界が白くなっていく最中、カルネラがマリーを庇っているように見えた。
だが、その光景もまるで一枚の紙が燃え尽きるがごとく、蒸発していった。
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