36 何でもない一日

「はぁああああああ」


 大きなため息と共にマリーはテーブルへと突伏した。

 

 エスカリエ王宮。テラスからは庭園が見え、幾ばくかの花のつぼみが散見された。マリーはぼんやりとその光景を眺め、椅子は三つあったのだが、傍らに立っていたマーガレットに愚痴をこぼした。


「退屈ねぇ……マーガレット」

「はい」


 小鳥たちのさえずりが聞こえた。


 結局、先の一件は王宮の神官たちにバレて、女王襲撃事件として扱われた。ロイス・カルエルは連行され、王宮の広間で裁判が行われてるだろう。取り巻きの男たちは最後に逃亡を図ろうとしたが、捕まったらしい。

 

 首謀者のフリーダ・ユスタナシアはというと、マーガレットとローズの進言のこともあったので、マリーはフリーダを庇護下に置いた。フリーダが王宮神官によって処罰されることはなくなった。


 風の噂によると、フリーダは画家の道を歩み始めたらしい。


 学院には、王宮と同程度の警備網が敷かれる話になったので、それまでの間、マリーは学院に行けないでいた。


『魂を食らう猫』の正体は、アルストロメリアで間違いない。ただ、学院に住まう黒猫ミーアがアルストロメリアであるという保証も、確かめる方法もなかった。ミーアはただの猫かもしれない。


 マリーは偽りのマリーを演じている以上、誰かを問い詰めるのははばかられた。


(まあ、いずれ分かる日がくるでしょう)


 ぼんやりと庭園を眺めるマリーの瞳から色が消え、もう一度、まるで蛍の光のように淡く光を取り戻した。


「…………」


 マリーはしばらく放心状態となり、庭園を眺めていた。


「……? いかがされましたか? マリー様」

「え? マーガレット? はは、そういうことか、やってくれたわね、カルヴェイユ。……いえ、なんでもないわ、マーガレット。私は大丈夫よ」

「?」


 マーガレットはマリーの身を案じたのだった。

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