09 エクアトール学院
昨日迷いこんだ王宮の廊下の先に学院がある。昨日、カルネラとぶつかったところだ。
三人はその廊下へと向かった。見たところ、特に普通の廊下があった。
歩いてみるとわかる。窓からは王宮の中庭がみえる。直進して5つ目の窓からも中庭がみえた。6つ目の窓を越えたあたりから、雑踏に近い音が聞こえはじめ、外をみると学院服を着た生徒でいっぱいになった。
学院になった。逆に、5つ目の窓に戻ると王宮の中庭が見えた。
「なるほど、カルネラが迷うわけね。他の道はあるの?」
「一応、メイドが使う通路はあります。とはいってもこことは違い細い外の小道ですが」
学院から王宮に向かうメイドは、三十メートルの高さの螺旋階段を登ることになる。地理的には近いが高低差もあり直進する廊下だけでつながるものではない。
マリーはふと疑問に思った。《想いの力》は存在可能な世界を召喚する、この廊下はそのルールに反しているのではないかと。
「学院では、時間の圧縮ということになっています。学院と王宮に同じ廊下があり、学院から螺旋階段を使って王宮にいく、その間の時間が切り取られ、圧縮されてるのだと。結果、学院と王宮の廊下が繋がってみえる『現象』であるという見解です」
人の力が加わっていなく、人がそう認識するものを『現象』。そして『現象』を解明し再現する者を研究者。
エスカリエ王城の上空には、蜃気楼が展開され位置をずらして見せているが、蜃気楼という現象が解明され再現できた現象だった。
マーガレットも回復したようだし、マリーは学院の探索をはじめようとした。
しかしマリーは思う。自分はドレスだし、マーガレットは騎士鎧、カルネラは黒のマントだ。完全に目立つ。
マリーは壁にかけられていた狐の仮面をとった。
「とりあえず服を探しましょ。この格好じゃ嫌でも目立っちゃう」
エクアトール学院。エスカリエ随一の教育機関で、在籍数五十万人と言われている。
もっとも、学院に通えば《想いの力》を知ることになるので、門外不出を謳う王宮神官たちにより、学院である円形建造物の他に、卒業生を雇用するために設けられた施設が建てられ一つの都市を形成していた。
エスカリエ兵に守られた学門を抜けると大通りがあり左右には商店が立ち並んでいる。
レストランに仕立て屋、魚屋、とりわけ魚介類はここにしか流通していなく、海鮮を食べたければ学院に来るしかない。
商店街の先には噴水広間がある。その北に円形の建造物、エクアトール学院。西には、メイド養成学校、東には、騎士養成学校。
ただし、噴水広間の周りには噴水により意図的に蜃気楼がはられていて商店街から学院をみることはできない。
マリーは学院内にあるマーガレットの宿舎にお邪魔していた。王宮と比べると派手やかでないが、小綺麗な部屋だ。マーガレットのメイドの適正が伺えた。
「いかがでしょうか? マリー様」
「ちょっと大きいわね。とくに前の当たりがスカスカ……」
マーガレットのスペアの制服を着るマリーは、自分に対してため息を漏らすのだった。
マーガレットに衣服の調整を任せてる間、マリーは窓から外をみる。同じ位の歳の子たちが行き交ってるのが見えた。制服は同じだが専攻によって羽織るものが変わるらしい。
騎士なら甲冑、メイドならエプロン、学院の生徒はローブといった具合だ。
出来上がった制服に腕を通すと、学院のローブを羽織り、最後に顔を隠すために狐面をつけた。
噴水広間に向かうと、学院の研究服に着替えたカルネラが待っていた。
三人が揃った。学院服を着た近衛騎士ルイス・アステリカ、もといマーガレット・ルイス・アステリカ。研究服を着た近衛騎士カルネラ・アルスバーン。
そして、学院服を着た狐面の少女。
学院正面にある噴水広間で作戦会議をはじめた。雑踏は少なからずあるが、マリーに気づくものはいない。
「正面が学院、左はメイド、右は騎士か」
「自分の研究棟は学院の裏手にあります。裏手には学院の連絡通路をつかって行くことができます」
学院の裏手には研究棟が立ち並ぶ。棟というより塔だ。周りは整備されてなく雑草と木々が生い茂っている。王城につづく螺旋階段の塔もある。
マリーが後ろを見ると商店街がみえた。生徒数が多いので商売をするにはうってつけのようだ。
「うーん。そうね。まずはカルネラの研究室がみたいわ」
「了解しました。マリー様」
マリーの前にマーガレットとカルネラが跪いた。
「とりあえず跪くのやめて。せっかく変装してるのにバレちゃうから」
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