第17話 どっちがヤクザか分からん

 ギルドで人身売買を斡旋している組織のアジトについて尋ねたところ、すぐに教えて貰えた。

 なんならギルドの掲示板に依頼として組織の殲滅が領主の名前で出されていた。

 なぜ領軍が動かないのかと言えば、組織には元上位冒険者や傭兵崩れが多数いて手を出せないのだという。


 「居らんのか!?はよ開けんかいゴラァッ!!」


 シャリスはブルーノファミリーのアジトの扉を魔法で強化した腕で殴った。

 プリ〇ュアの次は時代劇でその次は大阪〇警か……。

 日本への適応能力ヤバいな……。

 

 「ふふっ、さすがにこの『どっちがヤクザか分からん』の前には相手も出てきてくれるんじゃないかしら?」


 シャリスの殴った扉は分厚い木製だったが、グシャリとひん曲がっていた。

 

 「もう一発いっとこうかしら?」


 そう言うとシャリスは再び拳に魔力を纏わせて叫んだ。


 「はよ開けんかいゴラァッ!!」


 バコォォンと殴った扉は、ついに留め具が外れて弾け飛んだ。


 「開けてもらう必要なくなっちゃったわね」


 シャリスはどこか不満げにそう言うと、扉の向こうから声が掛かった。


 「随分と威勢のいいネエチャンじゃねぇか、オォン?」


 やっぱりこっちは本職の人か。


 「大人しく武器を下ろして投降してくれたら、命は取らないでいてあげる」

 

 シャリスはそれが精一杯の譲歩だとでも言わんばかりだった。


 「飛んで火に入る夏の虫、地獄へ踏み入ったのはテメェらだとまだ気付かなねぇのか?」


 扉の向こうは大きなエントランスホールで二十人くらいの敵さんが各々の武器を構えていた。


 「シャリス、もう交渉の余地はないらしいぞ?」


 敵の魔導師は魔杖を構えると


 「【上級防壁グレートウォール】」


 防御魔法を唱えて俺たちと自身たちとを隔てた。

 なるほど油断はしない、ということか。

 確かに【上級防壁グレートウォール】ともなれば、並大抵の魔術師では破ることはできない。

 だがシャリスは勇者パーティの一員として、選抜された世界最強クラスの魔術師なのだ。

 

 「ケツの青いガキどもにわからせてやれ!!」


 サングラスで葉巻をふかすオッサンの一声で、居合わせた男たちが一斉に仕掛けて来た。


 「ちょっと見せ場をくれないか?」


 相手は【上級防壁グレートウォール】ごと突っ込んできている。

 いくらシャリスの魔法でぶち破れるレベルであったとしても、魔力消費が多いのは間違いない。

 となればやはりここは、聖剣レーヴァテインの出番だろう。


 「助さんやっておしまいなさい!!……格さんはそのうち見つけておくから」


 とまぁなんともしまりのない感じにOKを貰ったのでレーヴァテインをアイテムボックスから取りだした。

 傍から見たら何も無い虚空から剣を引き抜いたように見えるんだろうなぁ……。


 「テメェ、どっから剣を抜いた!?」

 「ここじゃないどこかだな」


 俺でも上手く説明できない勇者の能力アビリティの一つ『アイテムボックス』。

 ちなみに最近部屋の片付けをしたので、片付けたときに出た物なんかもとりあえず入れてある。


 「巫山戯やがって!!」


 男たちは間合いへと容赦なく突っ込んできた。

 とりあえず戦意喪失させてやるとするか……。

 かくして後に俺たちが『下町の英雄』と呼ばれることになった戦いが始まるのだった。

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