第16話 一緒になれない理由
「ムスッ」
翌朝、シャリスは不機嫌だった。
「ほら、飯食い行くぞ」
「ムスッ」
目線は合わせてくれないし、何か声をかけてもろくな答えが帰ってこない。
でも大衆食堂に行くと言うと黙って俺の袖を摘みながらついてくる。
「さっさと食べて人攫い連中の基地を潰しに行くぞ」
「食べさせてくれなきゃ嫌」
ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙……めんどい。
「はい、あ〜ん」
さしずめ雛鳥に餌をやる親鳥になった気分だ。
「なぁ……頼むから機嫌を直してくれよ」
「なんで私が不機嫌か分かる?」
結局昨日の夜、俺に残された選択肢はシャリスとイチャコラするか寝るかだった。
そしてヘタレチキンの俺が選んだのは寝るという選択肢だった。
正確には緊張で寝れず、寝たフリをしていたのだが。
魔王討伐をしていた頃は、シャリスはこんなんじゃ無かったんだがな。
「昨日の夜のことか……?」
「わかってるじゃない。据え膳食わぬは男の恥って言葉がカナタの国にはあったわよね?」
「あったな……」
「昨日は据え膳になったつもりだったんだけど?」
「悪かった」
そう返すとシャリスはため息をついた。あ
「カナタの奥手なとこも好きよ。そういう人ほど不貞はしにくいんだから。惚れさせてみせるといった手前、ここで退くつもりは一切ないのだけれど、今後のために何が足りないのか教えて欲しいわ」
そう言うと真面目な顔でシャリスは俺の言葉を待った。
「俺は知っての通りのヘタレチキンだから、多分……責任が持てる身分になるまではそういうことはしないと思う。万が一なんてことがあったらそれは問題だろ?」
俺は一介の高校生に過ぎず収入は無い。
「ミットガルトに住む気は無いの?」
確かに勇者時代に稼いだ遺産がミットガルトには山ほどある。
そして頼れる人達も仲間もいる。
だが、ミットガルトを終の住処にするつもりは今のところなかった。
日本での暮らしに何かあれば、ミットガルトに避難することはあるかもしれないが。
「案外しっかりと考えてくれているのね……嬉しいわ」
シャリスはそう言うと微笑んだ。
「でもね、私は二百年以上生きていて今ほどトキめいているのは初めてなの。だからカナタのことは今すぐ自分のものにしたいし、ましてや誰かに取られたくはないの」
聞いている俺が照れてしまうようなことをシャリスは恥ずかしげもなく言ってみせた。
でもな……二人で一緒になったら俺は間違いなくシャリスを不幸にしてしまう気がした。
なぜなら―――――エルフは悠久とも思える長い時間を生きるが俺は只の人族なのだ。
人生百年時代とは言え、急速に老い衰えていくし長くは生きられない。
一緒になればシャリスにとって辛い思いをさせてしまう時間の方が長い、そんな気がしているのだ。
「何か不景気なことを考えてるみたいだけど?」
「何でもないから気にするな」
そう言ってもシャリスにとっては全てがお見通しらしかった。
「カナタの悩みについてはおいおい考えていけばいいわ。手が無いわけではないし」
そう答えたシャリスの瞳には、何か強い決意のようなものが揺らめいていた。
「そうなのか……?でもシャリスが後悔するような決断はしないで欲しいんだ」
「カナタと一緒になれたらこの生涯に悔いはないと思うけれど?」
シャリスはそう言うと食べ終わった食器を置いた。
「この話はここまで、仕事に取り掛かるわよ」
シャリスはそう言うとそれ以上、この話をすることは無かった。
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