第15話 バッドエンドな二者択一

 「このホテル、ちょうどいい感じだと思わない?」


 転移してきたのは人族の国、ヴィッテンベルク王国。

 ここに兎人族を誘拐している組織の拠点があるのだという。

 ヴィッテンベルク公国の首都ルターシュは以前にも来たことがあり、リエージュからものの数秒で来ることができた。

 ちゃっちゃと人攫いの組織を叩いてさっさと帰還するつもりだったのだが、シャリスはどうやら違うらしく、強引に腕を引かれて最初に行ったのは宿探しだった。


 「なんかメルヘンチック過ぎやしませんかねぇ?」


 変なネオンに彩られた看板と、不似合いな南国感。

 ホテルの名前は、『愛の宿り木亭』

 料金表にはご休憩料金から宿泊料金まで事細かに記されていた。

 そして最大の売りは、玩具の品揃えとレンタルコスチューム、そして魔法で自動化された無人の受付なのだという。


 「なぁここって……あれだよな?」


 どっからどう見てもラブホだろコレは……。

 魔王討伐で様々な街を巡って来たが、ミットガルトでラブホを見つけたのは初めてだった。


 「そうよ?今から私たちはイチャイチャするの」


 蠱惑的な笑みを浮かべているだろうシャリスの顔が、サイバーヘルメット越しに見えた気がした。

 未来戦士的な装いの男女が、ラブホの前に立っているというシュールな絵面が展開されていた。

  こういうところは人目を忍んで来るイメージ(ラブホ初心者)であり、これからこの格好で活動する俺たちがこんな目立つ格好でラブホの前にいていいのだろうかという疑問が浮かんだ。


 「なぁ、あの二人……コスプレして来てるのか?」

 「すごいやる気の入りようね」


 道行く人たちの好奇の視線。

 

 「ほら、みんなが私たちを見てるわ」

 「ぐっ……」


 外野に外堀を埋められたというのか!?

 ここでラブホに入らなければ、俺は傍から見ればヘタレだと認識されてしまうだろう。


 「ぬぅ……」


 天秤にかけられたのは、ヘタレの汚名を被るのか或いは、後々俺たちがラブホにいたと世間様に知られてしまう恥辱という二択。

 どっちに転んでもバッドエンドは確定なのか!?

 それなら……ッ


 「行こう」


 俺はシャリスの手を引いてラブホへと踏み入ったのだった。


 「私と一緒にイクのね!!」


 サイバーヘルメット越しでも感じるシャリスの熱っぽい眼差し。

 なんか勘違いされている気はしたが兎にも角にも支払いを済ませて部屋へと向かうのだった。


 ◆❖◇◇❖◆


 「はぁ……もう我慢できないッ!!シャワー浴びてくるわ!!」


 ジャンプスーツを脱いだシャリスは下着姿でガラス張りのシャワールームへと入っていった。

 はぁ……勢いで入っちまったがどうするか……。

 行為に及ぶなど、ヘタレな俺には踏み出せないステップだ。


 「冷静になれ元勇者……ッ!!」

 

 落ち着かないので手近にあったリモコンみたいなものを弄り回す。

 すると、映像水晶が光った。

 あれ……なんかスイッチ押しちゃったか!?

 壁のスクリーンに映し出された映像に全てを察した。


 「な、なんでこんなものが発達してるんだよぉぉぉぉぉっ!!ミットガルトのバカヤロォォォォォッ!!」


 壁に映し出された男女の戯れの映像に思わず俺は叫んでいた。

 

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