第14話 亀甲縛りに憧れて

 「で、敵はどの辺にいるのよ?」

 「この辺りだったはずだが」


 停止した時間の中を歩いて俺は、さっき気配探知サーチで気配を感じた場所を指さした。

 試しに蹴ってみると壁とは違った鈍い感触があった。


 「間違いないな」

 「ふふ、神妙にお縄につきなさい!!【拘束バインド】!!」


 決めポーズと共にブゥゥゥンッと振り回された魔杖から放たれる【拘束バインド】により縛られたのか、二人の男の姿が浮かび上がった。

 プリ〇ュアの次は時代劇か……?

 うちに新しく来たテレビっ子の吸収力は海綿体レベルだった。


 「【解除ディスペル】」


 これまた指をパチンと鳴らして芝居くさく言い放つと【刹那阻礙フローズン・モーメント】で止まった時間が動き出した。


 「むっ……なんだったんだ今の間は?って亀甲縛りにされてるぅ!?」


 兎人族の女子を攫おうとしていた男たちは、自分たちの置かれている状況に素っ頓狂な声を上げた。

 まぁそりゃそうなるわな……。

 てか、拘束の仕方の癖の強さよ……もう少しなんとかならなかったのだろうか……?


 「なぁシャリス、何であの結び方なんだ……?」


 亀甲縛りは確かに江戸時代だと囚人を護送するときに用いられたらしいけど、今じゃ専ら緊縛師が大人向けのビデオの中で使ってるイメージなんだが……。

 

 「ほら……その…あ、あれよ、くノ一とかいう女忍びモノの時代劇を見てたら出てきたのよ。け、決してエッチなやつじゃないんだからっ!!」


 シャリスは、しどろもどろになりながら目線をさ迷わせて答えた。

 後半に至ってはもはや自白してますやん……。

 

 「つまりは想像ビジョンを間違えたと?」


 魔法は行使する者の想像ビジョンに大きく影響されるというが、まるで再現だった。


 「そうなのっ!!記憶魔法でバッチリ映像記録しちゃったから、頭から抜けなかったのよ」


 渡りに船とばかりに俺の言葉に食いついたシャリス、これはもうエッチなやつを見たってことで確定だな。


 「なんだがよくわかんないですけど、シャリスさんが変態なのはよく分かりました!!」


 会話からなんとなく察したらしいクロエが笑いながら言うとシャリスは、


 「あれは別にエロいうちに何か入らないわよ!!毎晩脳内で想像してるカナタとのイチャイチャに比べたら序の口なんだから!!」


 と墓穴を掘るのだった。


 ◆❖◇◇❖◆


 三日後―――――


 「エルフたちの身柄は無事、解放出来たし背後にいる団体も特定出来ました」


 クロエは嬉しそうに言うと一枚の紙を机の上に置いた。


 「約束通り、対価に情報の提供です」


 そう言われてシャリスと二人、渡された紙を覗き込み記された内容を目で追いかけると、肝心なところが抜けていたのだ。


 「なぁクロエ、これじゃあ全くもって役に立たないんだが?」


 そう言うとクロエはあからさまに目を逸らした。


 「【永劫絶頂エターナル・エクスタシー】を寸止めし続けて、身体にきいてあげてもいいのだけれど?」


 シャリスはあからさまに不機嫌になると、圧を込めた眼差しでクロエに言った。

 だがクロエはそれに屈するどころか目を輝かせた。


 「バッチ来いなんですけど!!あの日から夜しか寝れない身体になっちゃって大変なんですから!!」


 と身体を椅子から乗り出して食い気味に反応した。


 「シャリス、やめとけ」


 もう【永劫絶頂エターナル・エクスタシー】は意味ないから。

 むしろクロエを悦ばせるだけな気がする。

 

 「で、何をしたら肝心な部分の情報を開示してくれるんだ?」


 抜け目のないクロエは昔からこういった交渉には強気なのだ。

 初めからこれが狙いだったのだろう。


 「そうですね、背後にいる組織を潰してくれれば、私たちの知る限りの情報を公開します」

 「その言葉に嘘偽りはないな?」


 シャリスじゃないが、やや高圧的にそう訊くと


 「このうさ兎耳に誓って嘘偽りは無いですよ?」


 クロエはそう言ってモフモフな耳をぴょこぴょこさせたのだった。

 あまりにも緩く感じるその約束はしかし、兎人族にとっては自身の身体でもっとも大事な部分をかける重たい約束だった。

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