第11話 絶賛☆発情期☆

 「こんばんわぁ♡今なら女の子つきで3000マールぽっきりだよ!!お兄さんは見た目がかっこいいからぁ〜アフターできるかも……って失礼しましたァァァァッ」


 シャリスの放つ圧力に屈した客引きは文字通り脱兎のごとく逃げ出した。

 てかカッコイイって言われても、褒められてるのはこのサイバーヘルメットなんだよなぁ……。

 

 「これだから嫌なのよ……」


 やって来たのは兎人族セレノイドたちの故郷、リエージュだった。


 「お兄さ〜ん、私とイイことしませんかぁ?彼女さんと一緒に3Pでも……しませんよぉぉぉぉぉぉッ!!」


 こんな感じに声をかけられるのはリエージュに来てから何度目だろうか。

 通りを一本進むと声をかけられ、その度にシャリスに撃退される光景がエンドレスで展開されている。


 「いっそ、街ごと燃やそうかしら?カナタに色目を使った雌兎どもには、お望み通り気持ちよくなれる永久絶頂の魔法でもかけてあげるのもいいかもしれないわね」


 シャリスは酷く不機嫌で、物騒なことを口走っている。

 永久絶頂の魔法なんてあるのか……今後は逆らわないようにしとこ……。

 背筋の冷える思いをしたところでようやく目的地へと到着した。


 「いるかー?」


 見たところは普通の一軒家の扉を手で叩く。

 この家に接触を図りたい人物はいるはずだった。

 

 「はーい、いますよ〜って男ぉぉッ!?」


 扉の向こうから返事があったかと思った瞬間、扉からピョコっと耳が飛び出した。


「はぁはぁ……♡ いい人が現れるまでってずっと我慢してきたけどもう限界ッ!!一夜限りの過ちなんですよぉぉぉッ!!」

 

 対象の人物がガバッと俺に抱きついてきた。


 「交尾しか頭にない発情ウサギのくせしてカナタに触らないで欲しいわ!!」

 

 その頭にシャリスが問答無用の手刀うちをお見舞いした。


 「はらほろひれ〜。酷いですよぉ……」


 尻餅をついた発情ウサギことクロエは、兎人族の諜報組織の一つを束ねる長でもあった。


 「ふふっ、私の未来の夫を誘惑した罪は重いわよ?」


 シャリスはサイバーヘルメットをとるとクロエを睨みつけた。


 「未来の夫が誰かは知らないですけど、シャリスさんがいるってことはそこの雄はカナタさんなんですね!?」


 雄って……せめて男とか男性とかって表現しようよ……。


 「久しぶりだな……お前も発情期なのか……?」

 「勿論ですよ!!てか、いい人現れちゃいましたッ!!怒りっぽいシャリスさんのことは放っておいて私の疼きを鎮めるのを手伝ってくれませんか?」


 シャリスに睨まれてるのによく平気でいられるな……。


 「流石にこれ以上は看過できないんだけど?」


 漫画の描写でいったら『ゴォォォォ』みたいな感じにシャリスは魔杖に魔力を纏わせた。


 「へ?」


 唐突に襲ってきた悪い予感にクロエは間抜けな声を上げるが時すでに遅し。


 「【永劫絶頂エターナル・エクスタシー】」


 名前そのまんまやん……。

 でも効果は絶大らしく


 「んほぉぉぉぉぉぉぉッ♡」


 とりあえず不適切な描写&表現になるのでここから先は割愛しておこう―――――。


 ◆❖◇◇❖◆


 「さっきのは凄かったです!!じゅんじゅんしちゃいました///」


 相当な責め苦だと思うのだが、発情期で有り余る肉欲がシャリスの魔法の効果をも上回ったらしく、クロエはケロッとしていた。

 ちなみに最後はシャリスの方がを上げるという意外な結末だった。


 「それで本題に入るんだが、今の大陸情勢についての情報が欲しいんだ」


 そう切り出すとクロエは人差し指をピント立ててチッチッチと動かした。


 「情報は兎人族にとっては輸出品なのです。つまりは対価を払っていただかなければ、元勇者である二人の頼みとはいえ引き受けることはできませんね」


 これでも諜報組織を束ねる長なんです、とクロエは豊かな胸を張った。


 「分かった……出来ることがあれば何でも協力しよう」

 

 情報の確度において右に並ぶものがいないと称される兎人族の持つ情報は喉から手が出るほどに欲しい。


「今、何でもって言いましたね?言質取っちゃいましたからね!?」


 クロエはニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべた。


 「シャリスさん、カナタさんを借りてもいいですかぁ?」


 疲れた表情を浮かべて沈黙していたシャリスは、その問いかけにシュバッと魔杖をクロエの喉元に突きつけた。


 「オークの前に手足を縛られた状態で放り出される覚悟があるのなら構わないわよ?」

 「ぴえん」


 この時期、フェロモンを撒き散らす兎人族の女性が盛りのついたオークに襲われる被害が多発するのは、それを題材にした薄い本が出版されるほどに有名な話で、オークは兎人族の天敵だった。


 「でもエッチなこと以外なら何でも構わないわ」


 そう言うとシャリスはクロエに興味を失ったのか、クロエの出してくれたハーブティーを口にした。


 「わかりました。ならこちらで対価は考えておきますね」


 交渉はそれで終了、どんな対価になるかは分からなかったが一応話は纏まったのだった。

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