第9話 アレは持ちましたか?


 「お兄ちゃんたち、どっか行くの……?って何ですかその格好!?」


 あ、見られた……。

 流石にこれは怒られても文句は言えないか……?

 何しろ俺とシャリスは今、絶賛サイバーパンクな仮装をしていた。


 二人してジャンプスーツにサイバーヘルメットという出で立ち。


 「コミケはまだだいぶ先ですよ……?」


 なんか憐れむような目で見られてるんだが?


 「えと……ほら、ちょっと異世界を救いに行く的な?」


 もう隠そうにも適当な言い訳が見つからず素直に打ち明けると心春は、


 「異世界を近所のスーパーかなんかと勘違いしてないですか?」


 と、真顔でツッコミを入れてきた。


 「時間的にはむしろ異世界の方が早く到着出来たりするかもな」


 異世界間通路(仮名)を通ればものの数秒、おじゃる○の満月ロードもかくやという時間でミットガルトのロストック王国王都郊外に行けるのだ。


 「気の緩みはいつか失態となって自分に帰ってくるんですよ?シャリスティアさんはともかく私はお兄ちゃんが心配です!!」


 そう言うと心春は、何かを思いついたような表情をした。


 「アレを持って行ってください。異世界モノのアニメ作品どおりなのでしたら魔法も万能ではないでしょうから」


 しっかりしているうちの妹は実は生粋のアニメオタクで、部屋はベッドとグッズの類いしかないという具合なのだ。


 「アレってなんの事だ?決まってるじゃないですか!!」


 待っていてください、と心春は言うと納戸に消えていった。

 しばらくして戻って来た心春の両の手には、そこそこ重そうな袋があった。


 「非常持ち出し袋です。シャリスティアさんの分も気の利く母が用意してくれてありましたから」

 「礼を言うわ。ありがとう」


 シャリスティアはそれを受け取るとアイテムボックスに仕舞いこんだ。


 「兄さんのには、……が入ってますから……。どうしてもシなきゃいけない展開になったらそれを使ってくださいね」

 

 心春の言葉は肝心な部分がよく聞き取れなかった。


 「何が入ってるって言ったんだ?」


 そう聞き返すと心春は赤面して、やけくそとばかりに叫んだ。


 「コンドームですよ!!コンドーム!!なんかムカつくから厚めのやつにしときましたけどね!!」


 後半は恥ずかしさを怒りで紛らわせたみたいな口調になっていた。

 てか、シなきゃいけない展開ってなんだよ……。

 粘膜接触の方が魔力譲渡の効率が良くなるとかそういうやつか?

 てか、粘膜接触必要なら壁作っちゃダメだろ……。

 

 「ふふっ、気の利く妹ちゃんね」


 シャリスは微笑ましそうに心春と俺とのやり取りを見つめていた。


 「ありがたく使わせて貰うわ」


 シャリスは俺に同意を求めるように視線を向けつつ、心春に言った。


 「渡したからってむやみに使ったら怒りますからね!!」

 「安心してくれ心春、お前の想像してるような事態にはならないと思うから」

 「なら、そういう展開にしてみようかしら?」

 「お前は余計なことを言うな!!」


 間を割って余計な口を挟んできたシャリスを黙らせると、心春の目をみて誠心誠意、要らない心配はしないでくれと伝えた。


 「それって……NNがイイってことなのぉぉぉぉぉぉッ!?」

 「どうしてそうなるぅぅぅぅッ!?」


 どうやら俺の思っている以上に、うちの心春は性への造詣が深いらしかった。

 お兄ちゃんは、心配だよ……。

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