第8話 シャリスの高校デビュー

 「ほんじゃぁ朝のショートホームルーム始めるぞ」


 教室に入るなり気だるげに言い放ったのは、うちの担任である英語教師の藍沢だ。


 「んで、その前に転校生の紹介するぞー。入ってこーい」

 

 思い出されるのは今朝の記憶。

 シャリスはウッキウキで制服の袖に手を通していた。

 マジで編入試験突破しちゃったのか……。

 ちなみに本人曰く、記憶魔法で学校で使う全ての教科書や参考書の内容を記憶したので定期テストも問題は無いどのことだった。


 「皆さんこんにちは、今日からお世話になります。シャリスティア・アルデンヌと言います」


 普段の口調はどこへやら、お淑やかさ全開でシャリスは挨拶してみせた。

 そんなシャリスにクラスメイトたちは色めきたった。


 「なんというグラマラスな肢体なのだ!!」

 「めっちゃ綺麗ッ!!」

 「彼女に蔑まれてみたいッ!!」

 「俺をなじってくれェッ!!」

 

 変な奴も混じっていたが総じてシャリスは人気らしい。

 そんな様子にホッと一息つくと


 「何か一言みたいなのはあるかー?」


 藍沢がクラスの様子をみてそんなことを言った。

 するとシャリスは考える間もなく、前から決めていたかのように


 「私はカナタと付き合っているから、カナタに色目を使う人がいたら容赦はしないわよ?」


 目元が笑っていない笑顔を振りまいたまま爆弾発言を投下してみせた。


 「ヒィッ!?」

 「キャアッ!!」


 何人かの女子生徒が悲鳴をあげた。

 

 「あの野郎、女っ気ないと思ってたのに……」

 「ぐぬぬぬぅ……」


 男子生徒は恨みがましい表情で俺に視線を向けた。

 てか、言葉に魔力纏わせて威圧するのやめろよ……。


 「お、おう……んなら、席は月城の隣でいいか。月城ー、あとは任せたぞ」


 面倒くさそうな顔で藍沢は俺に丸投げしたのだった。

 てか、普通カップルを隣同士にはしなくないか?

 

 ◆❖◇◇❖◆


 「ふふふ、心の中を覗いてカナタに好意をもっている女を炙り出してからのご挨拶、上手くいったわ!!」


 帰り道、シャリスはご機嫌だった。


 「俺に好意を持ってるやつなんてホントにいたのか?」

 

 何しろちょっと前まで勉強を頑張るアニメオタクだった。


 「カナタは気づいてないようだけど、私たちと魔王討伐をしている間にだいぶ変わったのよ?筋肉がついて男らしい体つきになったし顔は精悍になっているの」


 まぁ確かに、風呂に入ってて自分の体をみゆとあ腹筋割れてるなぁとか思うもんな。


 「そうか……」

 「だからもう少し自信持ちなさいよ。でもそれで他の女がカナタに興味を持つのは癪ね……こうなったら早いとこ既成事実をゴニョニョ」


 後半は何を言っているかは分からなかったが、表情からしてろくでもないことを考えていそうなことはよく分かった。

 

 「なぁ話は変わるんだが一つ提案があるんだ」


 これ以上、シャリスが良くないことを考えないように強引に話題を変えた。


 「何かしら?」


 考え事に耽っていたらしいシャリスがキョトンとした様子で俺の方を見た。

 真ん前から近距離で見つめられると、いまいち居心地の悪さというか恥ずかしさみたいなのを感じるのは二年たっても変わらない。

 早くなんとかならないかな……。

 そんなことを考えつつ話を切り出した。


 「今後、俺たちはミットガルトに干渉していくことが増えると思う。だから見た目を変えないか?」


 俺たちの姿は、あちらの世界で戦場にいた者の中ではある程度知られてしまっている。

 先日、出くわした連中が俺たちのことをよく知らないのは例外だったが、さりとてこの顔のままではシズカやエレオノーラに迷惑をかけてしまう可能性があるのだ。 

 何しろ俺たちの行動はきっと反体制的なものになるだろうから。


 「それもそうね。同じことを私も危惧していたわ」


 どうやらかつての仲間に迷惑をかけたくないのはシャリスも一緒のようだった。


 「それについては私に任せてくれないかしら?」

 「いいのか?」

 「まっかせなさい!!」


 具体案があるわけでもなし、シャリスの申し出をありがく受けることにした。

 嬉しそうに言うシャリスは気がかりだったが……。

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