第7話 決意表明

 「うい〜やっと帰ってこれたぜ!!」

 

 ひと仕事終わって上機嫌な俺とは正反対にシャリスはうかない顔をしていた。


 「どうしたんだ……?」


 思えばシャリスは、ロストック王国軍を追い払ったときから口数が少なくなっていた。


 「ねぇ……巻き込んでしまってごめん」


 らしくもないどこか他人行儀な言葉。


 「私たちの都合で貴方を勇者にして、用が済んだら厄介払い。挙げ句の果てに私はカナタをまた頼ろうとしているわ……」


 胸の前でキュッと拳を握ってシャリスはそう言った。


 「契約のことは、シャリスや昔の仲間たちが決めたことじゃない。それに最後に付いていくと決めるのは俺の自由意志だ」

 「それはカナタが優しいからそう言うことを言えるのよ……ミットガルトに貴方が自分の命を犠牲にしてまで守る程の価値はないわ……」

 

 シャリスの瞳は悲しげに揺れていた。


 「俺は、勇者として召喚されたことに感謝してるんだ。召喚されたことで普通だったら経験できないようなことを経験できた。召喚してくれなかったら間違いなく平凡なガキのままだったろうな。それに素敵な仲間にも出会えた」


 そう言うとシャリスは俺の顔を揺れる瞳のままに見つめた。


 「でも、あなたはそんな危険を冒す必要は――――――」


 言いかけたシャリスの唇にそっと人差し指を押し当てる。


 「守る価値がないなんてのは間違っているぞ?そんな世界でも争いが起きればシャリスやシズカ、エレオノーラが悲しむだろ?俺は頑張ってる仲間たちの悲しむ顔なんてのは見たくない」


 ともに戦場にたち魔王討伐という人族の悲願を果たした仲間たちは、今は別の形でより良い方向へと国を動かそうとしているだろう。


 「彼女たちのこと、信じてるのね。嫉妬しちゃうわ」

 「お、おう……なんか悪いな……」


 ときおりシャリスが俺へと見せる純粋な好意。

 日頃、ちょっと重すぎないか?とも思うことは、あるがそれでも不覚にも可愛いと思ってしまうのだ。

 

 「でも決めたわ!!」


 吹っ切れたような顔でシャリスは言った。

 何をだ?と思ったが、シャリスの表情は明るく、間違いなくいいことなのだろうから聞くまでもないだろうと判断した。

 

 「聞いてくれないの?」


 シャリスは蠱惑的な視線を向けてきた。


 「聞いて欲しいのか?」

 「決意表明になるから聞かれなくても言うつもりだったけどね」


 そこまで言うなら一応、聞いておくか。


 「決意って何のことだ?」

 「むふふ、よく聞いてくれたわね!!」


 嬉しそうにそう言うとシャリスは、俺を優しく抱きしめた。

 咄嗟のことで反応する間もなく、されるがままだった。


 「一度しか言わないんだからよく聞きなさいよね」


 耳元をシャリスの声が優しくくすぐった。


 「他の女の子が目に映らないくらい好きにさせてみせるから、覚悟しなさい」


 実はこのときシャリスは顔が真っ赤でそれを見せたくないがために俺を抱きしめたことなど知る由もなかった。


 「シャリス……ッ!?」

 「だからさ、楽しみにしててよ」


 どういうわけか、シャリスはしばらく俺を抱きしめたままだった。

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