第5話 二人はプ〇キュア(迫真)

 突如として戦場のど真ん中に現れた俺とシャリスとに、ロストック王国軍とそれを迎え撃つエルフたちは動きをとめた。


 「何奴だ!!」

 「退かねば貴様らごと片付ける!!」


と、敵意を剥き出しにこちらを誰何するロストック王国軍。

 エルフ達の反応はというと対照的であり


 「姫様が救援に来てくださったぞ!!」

 「姫様の隣の男はもしや、先の勇者様であらせられるか!!」


 とまぁ好意的だった。

 中には何故か


 「シャリスティア様を誑かす下郎が来たぞ!!」

 「囲んで叩け!!」


 とか言う過激派もいたが……見なかったことにしよう。

 

 「蒙昧なロストックの者共は私達の正体が分からないようね」

 

 シャリスは芝居くさい言い回しで言うと既視感のあるポーズを取った。

 

 「光の心と光の意志、すべてをひとつにするために!!キュア・ルミナス!!」


 決まったぜ!!みたいな満ち足りた表情でシャリスは俺の方を見ると小声で言った。


 「私にだけ恥をかかせるつもり?カナタもやりなさいよ!!」


 一応恥ずかしいとは思うのか……ならやらなきゃいいのに。

 そう思ったがそれは口にしないでおくことにした。


 「朝見ただけなのによく覚えてたな」

 「ふっ、記憶魔法でバッチリよ」


 割としょうもないことに能力をフル活用しるんだな……。


 「さぁ早く、私にカナタのかっこいいとこ見せなさいよ!!ぶっちゃけこのポーズ保つのキツいんだから」

 「わかったよ……もう二度とやらないからな?」


 今朝はあんまりよく見てなかったので、それっぽくシャリスに合わせることにした。


 「光と対をなすは闇、光と闇との交わりは森羅万象を司らん!!キュア・ダークネス!!」


 厨二病臭くなったがギリギリ許容範囲だな。

 ついでに演出で、勇者時代に使っていた聖剣レーヴァテインから光を放っておいた。

 ちなみにレーヴァテインは本来、王国に返すべきだったんだがレーヴァテインがそれを嫌がり俺以外の人間では鞘から抜けなくなってしまったがために、報酬として王国から頂いたという過去がある。

 ハリー○ッターで杖が人を選ぶように、この世界の聖剣もまた人を選ぶらしかった。


 「で、結局誰なんだ?」


 ロストック王国軍の面々は首を傾げるばかり。

 まぁそうなるよなぁ……。


 「大道芸なら他所でやってくれ」

 「剣は随分と先代勇者のレーヴァテインに上手く似せて作ったらしいが、ここはモノマネを披露する演芸会じゃないぞ?」


 耳をピクピクと動かしロストック兵の会話を聞いていたシャリスは、


 「全くもって私たちの正体に気付いてもらえてないわね」


 と、残念そうに言った。

 いや、まぁそれが普通だと思うぞ……?


 「もう普通に名乗ればいいんじゃないか?それで双方剣を引いてくれればいいんだし」

 「そうね」


 シャリスはポーズをとるのを辞めると魔杖に魔力を纏わせた。

 それに機敏に反応したロストック兵達は身構える。


 「私は先の勇者パーティが一人、シャリスティア・アルデンヌよ!!」


 どうだ、恐れ入ったかぁッ!!といった風にシャリスが名乗りを上げた。


 「ちなみに俺は先の勇者の、カナタ・ツキシロだ。なぜロストックがエルフの森に侵攻するんだ?」


 魔王討伐のときは肩を並べて戦ったはずだった。

 そう問いかけるとロストック兵達はどよめいた。

 そして一人の少年とそれに続いて三人の男女が前へと出てきた。


 「お前らに話すことじゃねぇな。それとそのレーヴァテインをさっさと返したらどうなんだ?」


 少年は剣を抜いた。

 剣は見るからに俺のレーヴァテイン同様、聖剣だった。

 なるほど、新しい勇者ってのがこいつらってわけか。


 「返すも何もレーヴァテインは、王家から貰ったはずなんだが?」

 「はん、武器に選ばれるだァ?ならよ、お前が消えればそのレーヴァテインは所有者を失いリセットされるってわけだ」


 コイツは何を言ってるんだ?

 所有者を失いリセットされたところでお前がレーヴァテインに選ばれるかは別問題なんじゃないのか……?


 「ミサキ、俺にありったけのバフをかけろ。元勇者はここで倒して俺がレーヴァテインの所有者になる!!」


 今、魔術師の一人をミサキって呼んだな。

 つまりは勇者パーティを丸ごと日本から召喚したってわけか。

 確かに全員日本人って顔してるしな……。

 そりゃ異世界転移魔法がキャパオーバーになって異常をきたすわけだ。


 「誰に何を吹き込まれたかは知らんけど、レーヴァテインに固執し過ぎなんじゃないのか?」


 代々勇者が使ってきたレーヴァテインが俺に下賜されたとき、確かに反発が多かったと記憶している。

 もしかしたら、目の前の勇者は「レーヴァテインを奪えば、正式に勇者として認められる」とかを王宮の官僚に言われたのかもしれないな。


 「うるさい、お前を倒して俺は、そこの女も俺のものにしてやる!!」


 図星みたいな顔して否定してるし、ほぼ当たりだなコレ。


 「ねぇカナタ、あの身の程知らず共を纏めて駆逐してもいいかしら?」


 こめかみに青筋を浮かべてブチ切れモードのシャリスは、瞳が深紅に爛々と輝いていた。

 長い付き合いだから分かるが、これは荒ぶってるときの証左だ。

 シャリスは今、魔力の制御が上手くできておらず身体から溢れている状態なのだ。


 「好きにすればいいんじゃないか?でも先手は相手に打たせることと、映像を記録しといてくれよ?」


 今更、対話でどうにかなりそうな雰囲気じゃないからどの道、衝突は避けられない。

 だがこちらから手を出したとなれば聞こえが悪い、ここは相手が先に手を出したという状況で戦闘に持ち込みたい。


 「任せなさいな」


 シャリスは頷きながらそう言うと今代の勇者パーティへと向き直った。


 「私のことが欲しければ力ずくで奪いに来なさいな。それとも自信がないのかしら?」


 用意周到に魔力を練り上げ、シャリスは勇者を煽るのだった。

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