第3話 平和的な手段で(白目)

 シャリスが家族になった次の日の夜、


 「ねぇカナタ、私も学校行ってみたいな」


 絶賛サザエさんシンドロームを罹患していると、俺の肩に頭を預けていたシャリスが言った。


 「編入試験があると思うんだが……どうするんだ?」


 シャリスは異世界人、奇跡的に転移魔法の副産物である言語最適化によって言葉は通じるが、学問ともなればその範囲外だろう。


 「ふふっ、そんなこと朝飯前よ!!何しろ私には魔法が使えるんだから!!」


 その言葉だけでもう全てを察した。


 「洗脳かぁ?感心しないなぁ」

 「失礼ね。常識改変と刷り込みよ?」

 「同じだろ……」

 「大丈夫、もう練習はしたからバッチリよ!むしろ平和的に解決できるのだから感謝して欲しいわね」


 シャリスは勇者に同行するために選ばれた魔術師でもあったから、洗脳くらいは造作もないことなのだろう。


 「ちなみにその練習は、何でやったんだ?」


 蟻とか蝶とかだったら対して害はなさそうだが、人様の家のペットとか言ったら大問題だ。


 「ふふふっ」


 シャリスは有無も言わさぬ笑顔を浮かべた。


 「なぁ……俺で試しましたとか言わないよな?」

 「ふふふふっ」

 

 何その笑顔、超怖いんですけど……。


 「昨晩、カナタのベッドに潜り込んで試しただけよ?カナタは、シャリスのことが好き。好きすぎて食べてしまいたくなる(性的な意味で)。願わくば今すぐ結合コネクト・オン(意味深)したいって」


 何それ、怖っわ……ッ


 「これほど勇者スキルの【洗脳耐性】を有難いと思ったことは無かったよ……」

 「心外ね……二人が結ばれるために一押ししただけなのに?」

 「その一歩を踏み出したら最後なんだよなぁ……」


 あとはずっぷり堕ちていくだけなのは目に見えている。


 「安心してくれていいわ。私一人でも生計を立てれるようにいろいろ計画してるんだから!!」


 またろくでもないことを考えそうだな……そう思った俺は今度は聞かないでおくことにした。

 そんなときだった――――――


 「誰なんですかぁぁッ!?」


 二階から小春の叫び声が聞こえてきた。

 そして勢いよく階段を降りてくる足音の主

は俺たちのいるリビングのドアの前に止まると、勢いよく開け放った。


 「お嫁さんが増えちゃったのぉぉぉぉぉぉぉッ!?」

 「ふ、二股ッ!?」


 まるで手本のように盛大に仰け反る両親。

 てか、驚くポイントはそこなのかよ……。

 扉を開け放ってこちらへと向かってきた少女を俺はよく知っていた。


 「アルマ、久しぶりね!!」

 「シャリス様がこちらに来られる直前まで一緒にいたと思うのですが?」

 「一日以上一緒にいなかったらそれは久しぶりって言うのよ」


 アルマと呼ばれたエルフの少女は、シャリスの世話係兼護衛だった。

 魔法もさることながら近接戦闘を得意とする腕っぷしの少女でもある。

 

 「私のことが寂しくなって追いかけて来たの?」

 「いえ、それは無いのでご安心ください。一大事が起きたので伝えに来ました」


 即効で否定されてるし……。


 「うんうんって、主人の私に対して辛辣すぎじゃないかしら?」

 「これくらいが丁度いいと心得ていますが?」

 「あらそう……で、一大事って?」


 アルマは、ちょっぴり毒舌な少女だった。

 きっとM男が土下座をして頼み込めば、それはもう格別な言葉を貰えるに違いない。


 「我らエルフの里が人族の軍隊による侵攻を受けています。姫様には是非、ご参陣願いたいと長老会議で話が出ましたので私が来ました」


 昨日、シャリスの言っていた新たな勇者召喚の目的はどうやら本当らしかった。


 「もう異世界に永住することを決めたとはいえ、私もエルフの里の生まれ。守らないわけには行かないわ。というわけでダーリン、行くわよ?」


 もう色々ツッコミどころが満載だったが正直言って疲れたのでもうツッコミを入れるのはやめにした。

 てか、明日学校じゃん……異世界と地球こっちとじゃ時間の流れに驚くくらいに差はあるんだけど、戻ってきたところで疲労は消えないんだよな。

 土曜日戻って来ねぇかな……。

 サザエさんシンドロームが重篤化した瞬間だった―――――。


 

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