第二話 家族になろうよ()

 「お兄ちゃん……誰その人……?」

 「あっ……やべ……」


 しまった、と思った頃にはもう遅かった。

 妹の心春にシャリスといるところを見られたのだ。

 シャリスには空間魔法で構築した異次元にでも隠れてもらおうとか考えていた腹案がおじゃんになった。


 「ねぇカナタ……あの女、だぁれ?」

 「げっ……やべ……」


 しまった、と思った頃にはもう遅かった(二回目)。


 「ふ、二人とも落ち着くんだ……」

 

 二人とも目が笑っていない。

 それどころか何か不穏なオーラを纏っているようにさえ錯覚させられてしまう。


 「そこの破廉恥な服装のエロ女、お兄ちゃんの横をどきなさい?」

 「私の身体に恥じるところなど少しもないわ。発言を撤回するなら今のうちよ?」

 「分からないというのなら、そのアホな頭脳に教えてあげますよ。その駄肉が恥じるべきところだってことをね?」

 「はん、言わせておけば小娘が。そのツルッツルペッタペタの身体を世間では貧相というのよ?」


 睨み合う二人の服装を見てみれば、心春はパジャマだが、シャリスは色々危ういネグリジェだった。


 「説明してください」

 「説明してくれるわよね?」


 二人が鋭い視線で俺をめつけた。

 説明する前に揉め出したのはお前らだろうが……と口からでかかった言葉を飲み込む。

 言ったら最後、命の保証は無いと本能がそう告げていた。


 「あぁ……だから、お願いだからいがみ合うのはやめてくれよ……?」


 互いに視線が合うとぷいっと顔を逸らした。


 ◆❖◇◇❖◆


 「―――――というわけなんだ」


 終始半信半疑で聞いていた心春は俺が話終えると口を開いた。


 「お兄ちゃんが異世界を救ったという話は信じます。お兄ちゃんは優しいからそれくらいはやりかねません。でも、シャリスティアさんが嫁だということ、私は認めませんよ?」

 「そんな事実は存在しないから安心してくれ」


 余計な口を挟んだシャリスを睨むとシャリスはニコッと微笑んだ。


 「さすがにお嫁さんは胡蝶がすぎたわ。言うなれば婚約者ってところかしら」


 おい、火に油を注ぐんじゃねぇよっ……!!

 せっかく鎮まりかけてた心春の怒りが元に戻っちまうだろうが!!


 「お兄ちゃん?本当なのですか?」

 「ないない、超ないから安心してくれ」


 目元の笑ってない笑顔の心春。

 頼むからもう余計なことは言ってくれるなよ……?


 「本当のところは彼女ってところかしら?」

 「お兄ちゃん?」


 火遊びはやめてくれよシャリス……。

 祈るような視線をシャリスに向けると、


 「これも嘘よ。せいぜいセフレってところね」

 「お兄ぃちゃん?」


 ドスの効いた心春の声。

 アカン……もうこれ、ガチのときの声じゃんッ!?


 「なぁ心春、お兄ちゃんは清らかなままだぞ?魔法使いになるつもりはないけど、そういうことは然るべき関係になってからって決めてるんだ」

 

 なぁおいシャリス、責任もって止めてくれよッ!!

 そんな願いは叶わず、地獄みたいな時間がしばらく続くのだった―――――。


 ◆❖◇◇❖◆


 「ねぇあなた、奏汰がお嫁さん連れて来ちゃったのぉぉぉぉぉぉッ」

 「でかしたぞ、奏汰!!早く孫の顔を拝ませてくれっ!!」


 しまったと思った頃には以下ry……。

 うちの両親は似た者夫婦、二人して早とちりな性格だったことを失念していた。


 「ダメよあなた、まだうちの子は16歳なんだから結婚は出来ないわ!!」

 「そ、そうだったな!!奏汰、お父さんは色々理解がある方だと思うんだ!!」

 「お、おう……」


 いきなり改まって親父は切り出した。


 「だからこれだけは注意してくれ。簡単にパパになるんじゃないぞ?お父さんとの約束だ」

 

 親父はそう言うと小指を立てた。

 

 「育児の経験あるから、困ったらお義母さんに何でも聞くのよ?備えあれば憂いなし、今から教えちゃうわっ!!」

 「ありがとうございます、お義母様ッ!!」


 あっちはあっちで意気投合しちゃってるし……。

 どうにか事態の収束を図らないとな……俺は仕方なく親父と指切りげんまんするのだった。

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