異世界還りの勇者を追いかけてきたのは、ちょっぴり愛が重たいエルフでした〜影で始める新・英雄譚〜

ふぃるめる

第一話 別れと再会は誤差みたいな時間差でした

 「みんな……今までありがとう……!!」


 異世界ミットガルトに勇者として召喚された俺は魔王討伐まで仲間と二年の間、苦楽を共にし、そして別れを迎えようとしていた。

 という形で召喚される勇者は、事が終われば用済みとなり強制的に帰還させられるのだがその例に漏れず俺も帰還のときを迎えていた。

 親しい者たちだけでの送別会には、魔術師であるエルフのシャリスティア、東方出身の剣士シズカ、そして治癒師である聖女エレオノーラの三人が来てくれていた。


 「カナタのこと、絶対忘れないわ」


 エレオノーラが笑顔で


 「元の世界に戻っても剣の鍛錬は怠るなよ?」


 シズカは俺に彼女の刀を手渡し、


 「いつか、そっちに行けるようになったら必ず追いかけて行くから!!」


 シャリスティアは涙ぐみながら俺の手を握って離さない。


 「俺もみんなのことは忘れないし、この思い出は大切にするよ」


 そろそろ時間か……。

 流れそうになる涙を拭いながら、俺は落ちていく意識に身を任せた。

 身体にかけられた異世界転移の魔法が作動し始めていた。

 公務がありこの場にはいないけれど、俺を召喚した王女は送別会の時間を計算して時間差で発動するようにしてくれたのだろう。

 意識が明確に暗転した。


 ◆❖◇◇❖◆


 ピピピピピピッ――――――。

 聞き慣れた、けれども久しぶりに聞く音に目を覚ますとそこは自分のベッドの上だった。

 あぁ、ついに戻ってきたんだな……。

 鮮明になっていく視界と共にそんな感慨深い気持ちになると、一つの異変に気付いた。

 股の辺りが重いのだ。

 それこそ人が乗っかっているような重さだ。


 「おはよう、やっと起きたかしら?」


 いつも隣で聞いていた声に違和感は確信に変わって、視線を動かすとそこにはシャリスティアがいたのだ。


 「はぁぁぁんッ!?」


 おいおいここは地球だぞ?

 なんで異世界人のシャリスティアが俺の股上に、それこそ騎○位みたいな感じで腰下ろしちゃってるの!?


 「そんなに驚かなくてもいいと思うんだけど?」


 もういろいろ訊きたいことが山積みで理解が及ばなかった。

 

 「えっとシャリスティアさん……?」

 「どうしたの?改まっちゃって。ベッドの上ではシャリスって呼ぶって約束したよね?」

 「初耳なんだが?」

 

 魅力的な少女だとは思ったけれど、俺はいずれ地球に帰る身の上、手を出すのは無責任だと思いそれだけは自重してきたはずだった。


 「昨日の夜はあんなに激しかったのに?」

 「初耳なんだがッ!?」

 「地球こっちでもシャリスって呼んでよ」


 面白がるような表情から一転、いじらしい顔でシャリスはそう言った。


 「わかった……だからまずは、俺の上からどいてくれ」

 

 そう言うと「なんで?」と小首を傾げたが、やがて気付いたの俺の股の上で腰を動かし出した。


 「テント張っちゃってるけど?いいの〜?楽にしてあげてもイイんだよ?」


 蠱惑的な表情でシャリスはそう言うとズボンに指をかけた。


 「それは生理現象だっ!!」


 あまりの恥ずかしさに魔力を身にまとい、無理やりシャリスをどけた。

 というか地球でも魔術使えるのかよ……。

 ますます謎は深まるばかりだった。


 ◆❖◇◇❖◆


 「現状を整理しよう」


 ベッドの上で二人して向かい合う。


 「えっと、異世界転移は難しい魔法なんだよな……?」


 だからこその別れだった。


 「そうだったわよ。でも状況は変わっちゃったの」


 そう言うとシャリスの表情は翳った。


 「聞かせてくれないか?」

 「いいわ、貴方が転移したすぐ後のことよ、アレクシア王女は何者かによって殺されたの」


 アレクシア王女は、俺を召喚した張本人であり、名うての召喚魔法の使い手だった。

 送別会の時間を計算して転移魔法をかけてくれた人物でもあった。


 「なぜ……?」


 俺の問いにシャリスは「わからないわ」と、かぶりを横に振るばかりだった。


 「でも王宮内の誰かの陰謀でしょうね。そして代わりに妹のルイーゼ王女が召喚魔法で地球こっちから、新たなる勇者を召喚したの。その結果、空間接続の許容量を上回ってしまいミットガルトと日本とは繋がったままになってしまったわ」


 いつか聞かせてもらった話によれば、特撮作品で怪獣が日本にばかり現れるように勇者召喚も日本から行われることが多いのだという。


 「それで異世界転移の魔法が使えなくても来れるようになってしまったと……?」

 「そういうことよ。もちろん、限られた人しか知らないし向こう側に開いた扉は二十四時間単位で警備されているし滅多なことでは問題にはならない思うの」


 自由に行き来出来るようになってしまったということは、人以外に魔物もこちらに来れるようになってしまったということだった。


 「でも……勇者たちが召喚された理由が問題なのよ」


 シャリスは物憂げな眼差しを俺に向けた。


 「たしかに魔王を討伐をして平和になったのなら勇者は無用の長物だろ?」

 

 そこまで言ったところで俺はシャリスの言わんとしてることに気付いた。


 「人族同士の争いか……」


 諸々の人族共通の課題が片付いた瞬間始まる権力闘争という名の同士討ち。


 「だから私は貴方に頼みに来たのよ。このバカみたいな争いを止めてって。もちろん、貴方の傍にいて群がる女どもを追い払いたいっていうのもあるんだけど……」


 最後の方はよく聞こえなかったがシャリスが俺を追ってきた理由は何となくわかった。

 それと同時に脳裏に浮かぶ一つの疑問。


 「なぁ、俺の居場所、どうやって知ったんだ……?」 


 そう訊くとシャリスはあからさまに目を逸らした。


 「言いたくは無いけど一つだけ教えてあげる。貴方の居場所はいつどこにいてもリアルタイムでわかるようにしてあるの」


 どうやら異世界あっちにいても地球こっちにいてもシャリスがストーカー気質なのは変わらないらしかった。

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