第9話 閑話休題
「ねえ」
勝敗の結果が貼り出されたリーグ戦の紙を夕樹が書き込んでいると、秋夜は呼びかけてきた。
「さっきのやつ、僕の真似?」
夕樹はたじろいだ。まさか見られているとは。ひょっとして、技をパクったと言われて糾弾されるだろうか。しかし、予想に反して秋夜は笑った。
「凄いじゃないか。まさかたった一回見せただけであそこまで再現されるとは思ってもみなかった。天才って怖いねぇ」
パチパチと拍手をしながら、夕樹のことを褒めちぎる。夕樹はほっと息をつき、先程の疑問を投げかけた。
「私に15秒くれたのって、プログラミングの為だったの?」
「ああ、ええとね、逆。君に15秒あげてて暇だったから、あれを組んだだけ」
「怖いなぁ、暇つぶしであそこまで組むかな、普通」
「一度見ただけで即実践に移す君に言われたくないかな」
「プログラミングのコピペは楽だよ」
そう言いつつ先程組んだプログラムを夕樹は見直す。秋夜が見たそうにしていたので彼の端末に情報を送った。
(from:YuukiHoshijura0924@ac.youran.hs
https://kakuyomu.jp/users/kanzakishuya/news/16818023212412087086 )
「えっ、n秒のとこ、手書き?」
「だって距離にあわせて秒数決めるプログラムまで手が回らなかったもの」
「いや撃つ直前に打ち込む方が難しい気が……というか、」
秋夜が微笑を浮かべている。何かしてしまったか、と夕樹がプログラムを見、そして固まる。
「君のアンロックキーは『Twilight』なんだね」
「……ああ、そうだよ。満足したか?」
迂闊だった。覗き込まれるのが嫌で何も考えずに送ってしまった。まあ秋夜に知られたから何だという話ではあるが、何となく手の内を見せてしまったようで良い気がしなかった。
「君が教えてくれたし、僕のも教えようか」
別にいい、と断ろうとした夕樹を遮り秋夜は空中に指で書きながら言った。
「Ars magna......これが僕のキー」
アルス・マグナ。夕樹は自分の脳にあるラテン語の辞書を引いた。
「偉大なる術……魔法のことか。安直だな」
「“夕樹”だからTwilightな人に言われたくないね」
「それもそうだな。さあ、こんな雑談はさておき、早く次の人の所へ行けよ」
「ああ。僕の次の相手は美樹本さんか」
先程戦った人か、可哀想にと夕樹は思った。秋夜は絶対に手を抜かないだろう。夕樹でさえ15秒のプログラムでいなしてみせた奴だ、結果は知れている。
「私の相手は……濡羽碧。ミドリくん、だっけ?」
「アオくんだろ」
何故、転校して一週間のやつにクラスメイトの名前を教えてもらっているのだろうか。
「じゃあまた」
そう言って秋夜は去っていく。彼は「さようなら」でも「バイバイ」でもなく、いつも「また」と言うな、と夕樹は朧げに思った。
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