第8話 第二回戦
次の対戦相手は夕樹と同じように女子だった。サンディブロンドのショートカットに聴色の目、自分と違って健康的に日焼けた肌。名前は確か、美樹本日向。初戦では辛くも勝てたらしい。良かったね、と呟いた声が、夕樹自身にも酷く抑揚のないものに感ぜられた。
「星倉さんは、例の転校生と対戦したんだよね」
「『例の』って……どんだけ噂になってるの」
「結構聞くよ。星倉さんと神崎さんは付き合ってるとか、八神先生は彼の元カノだったとか」
「うげッえっ、ごほ」
夕樹は変な咳を出した。一体どうしたら先生と生徒が恋人同士だったなんて噂が流れるんだ。
「彼、前に廊下で先生と言い争いになってたんだって。あんなに取り乱してる先生見るの初めてだ〜、って話題になったの。ねえ、本当なの?」
「何が? 私は彼の恋人じゃないし……八神先生は知らないけど」
「そうなんだ、残念」
何が残念なのかわからなかったが、それでいいことにしよう。パン、と手を叩いてから夕樹は端末を構えた。
「雑談はここまで。さあ、対戦よろしくお願いします」
「あっ、そうだね。よろしくお願いします」
端末を互いに向け合う。やがてどちらともなく風魔法を撃ち合った。結っていない髪の毛を揉みくちゃにされながら、夕樹は先程の秋夜の技を回想した。
最初に手に伝わった衝撃は、空魔法だろう。その時同時に熱も感じたから、魔力を熱力に変換したのか。
無茶が過ぎる。どうやって端末から離れた状態で魔力を変換するんだ。……プログラムしたのか? n秒後に、熱力になれと。ならば相手に当たるまでの時間も考えなければならない。そして、計算とプログラムを一瞬で組み上げた……
違う。一瞬じゃない。あいつには、15秒あった。
「なるほどね、ハンデじゃなかったわけだ」
「え? 星倉さん? 今なんて」
美樹本の声を脳から押し出して、夕樹は意識を集中させた。一度間違えたら、プログラムを書き直す時間はない。
距離を保ったまま、正確に、相手に空魔法を。
――蛍光ペンを引くように、まっすぐ、同じ強さで。
「
青い閃光が彼女の端末を持つ手に飛ぶ。それに気づいた時にはもう遅い。
「
青い光はそのまま火花となって彼女の手を刺した。一瞬顔を歪め、美樹本は端末を取り落とした。端末はカツン、と乾いた音を出して地面で跳ねた。美樹本が慌てて手を伸ばす。
「
秋夜にされたように風で押し込めてやれば、美樹本は縮こまりながら強風に揉まれていた。美樹本の端末を拾い、夕樹ははっきりと言った。
「膝をついたね。……私の勝ち」
夕樹は魔法を解いて、美樹本を覗き込んだ。秋夜の技を流用して勝つのは如何なものかとは思ったが、勝ちは勝ちだ。折角負けたのだから啜れるだけ旨味を吸わなければ勿体ない。
尚も立ち上がらずにいる美樹本をおいて、夕樹は次の対戦に向かった。
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