第2話 魔法科学演習 1
今や教室中がただならぬ高揚感で満ちていた。携帯端末を落ち着きなくクルクルと回す者、教科書を開いて一生懸命読み込む者、友達と気持ちの昂ぶりを共有する者と様々だったが、皆が皆楽しみにしていたのは間違いない。
夕樹は教科書を読み込むタイプだったが、何せ座学1位なので早々に確認することはなくなり、かと言って昂った気持ちを何処へやるでもなく、暇を持て余していた。
「準備はできた?」
だからこそ、秋夜が話しかけて来てくれたことに、夕樹は安堵さえ覚えた。
秋夜は上下どちらも揺籃高校指定の、半袖の紺色ジャージで、その下に黒色のインナーを着用していた。左手はジャージのポケットに突っ込み、右手をこちらに振っている。白い手袋は外していた。端末は生体認証だからだろう。
「心の準備はまだちょっと足りないかな。でも魔法科学理論はしっかり覚えたよ。確認だって5回もした」
「そりゃいいね、楽しみにしてるよ。あ、でも」
秋夜はにいっと笑って言った。
「僕は絶対負けないから」
自分の成績を誇りにしていた夕樹は、この挑発にやや不快感を覚えた。しかしすぐに思い直す。
「そりゃ、御国の仕事で魔法扱っている人には負けるだろうね。張り合う気はないよ」
「他人事じゃ困るよ? 君だって今日から“国のお仕事で魔法扱っている人”になるんだから。まあ僕と違って君はまだ協力者という立場だとは思うけれどね。せいぜい全力で張り合ってくれよ」
そういえばそうだったな、と夕樹はため息をついた。しかしこれから親と同じ仕事ができるのだろうと思うと胸が高鳴った。
「それじゃ、お互い頑張ろうね」
そう言い合って手を振って別れた。
――はずだった。
授業開始の鐘が鳴って尚、教室の熱気は収まることを知らなかった。先生が静めた後もざわざわとした高揚感が皆から溢れ出していて落ち着きがなかった。
先生によると、座学の成績である程度コース分けし、各人のレベルになるべくあった指導をしていく方針だという。そうはいっても大まかに2コースに分けるだけで、大多数は普通授業コース、もう1つは成績上位者を対象とした実践魔術演習コースだった。夕樹は座学でトップだったので、実践魔術演習コースになった。他にも何名かは夕樹と同じコースに振り分けられていた。風魔法の練習なので、グラウンドでの練習だ。普通コースが扱う風魔法と、実践コースが扱うのとでは、風力が違うらしい。
「1つ納得がいかないんだよなぁ」
「何が?」
「お前が
秋夜もハイレベル側のコースにいる。夕樹は彼がそれに足る魔法使いであると知っているが、他の生徒からしたら意味不明だろう。
「僕がいるのはそんなに嫌か?」
「別に……つい昨日までは嫌だったが。お前は私の目付け役、ってところだろうし、これもどうせ仕組まれているんだろうからね」
「よくおわかりで」
それでも尚唇を尖らせている夕樹を見かねてか、秋夜は付け足した。
「まあ気にすることないさ。どうやら、ここにいる奴は全員もれなくQwerty機関の関係者みたいだからな」
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