知恵と生命

幕間 モヒート

 

「マスター、モヒートを一つ」


その少年は店に入るや否やカウンターに座ってそう言った。


「はいよ。ここんとこ毎日これだね。なんかアレンジする?」


「――そうだね、アレンジしてみてよ。たまにはいいかもしれない」


辺りも静まり返り、街灯と夜空の星が煌めく夜。橙色に仄暗く照らされた店内で笑う少年は、不思議と不釣り合いには見えなかった。


「よし、じゃあちょっと待っててよ」


少年は頷き、マスターの動きをジッと見つめる。そんな視線は気にすることなく、マスターはグラスを取り出し、氷やらミントやらライムやらを迷うことなく放り込む。暫くは氷がグラスの中で揺れる音や、液体が静かに流し込まれる音のみが店内のBGMとなった。


「はい、モヒートレモンティー。挿してあるライムは食べても食べなくてもいいよ」


「ん、ありがとう」


謝礼もそこそこに、少年はグラスに手を伸ばし、そのまま一口煽った。やがて少年は首を傾げながらマスターに尋ねた。


「……これ、ノンアル?」


「そう。最近自販機で見かけてね、真似してみたんだ。お気に召さなかった?」


「うーん、まあ……今日は酔いたい気分だったから、ちょっと物足りないかな」


「あらら。じゃあバーテンダーとしては大失敗だ。そうか物足りないか、まだまだ改良の余地はあるね」


「いや、酒だと思うから物足りないんだろうね。ソフトドリンクとしてなら結構好きだよ、僕」


「はいはい、お世辞ありがとう」


「どういたしまして。最近はお世辞も言えない人が多くて困ったもんだよ」


軽く談笑を交わし、少年はグラスを傾ける。その様子を見て、マスターは今日のことを思い出した。


「そういえば、今日は夕方にも来たな。しかも女の子連れて」


「そういう関係じゃないよ」


「ああ、しかしどうなんだい実際は。まだだとしても、あの子狙ってるのか?」


「うーん……」


少年はグラスを少し傾け、レモンティーを喉に流し込む。それから唇を舐め、少し思案した後にため息をついた。


「いや、そうはならないだろうな。彼女とは上からの命令で接触してるに過ぎないんだ。それに、多分そろそろ彼女も僕の上司になる」


「そうか。君も大変だな。どんなに功績上げても、待遇は変わらないんだろう?」


「そりゃ道具の成果は持ち主の成果だからね」


そう笑ってから、少年は一気にグラスを飲み干した。


「うん、美味しかったよ。ありがとう」


「もっと飲んで行くかい?」


「勿論。次はちゃんとアルコールのあるもので頼むよ」

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