第4話 授業

 教室に入って席についてから直ぐに授業開始のチャイムがなった。それと同時に教室のドアが開き、魔法科学担当の先生が入ってきた。きちっと切り揃えられたショートボブの黒髪に黄色の瞳の凛とした女性で、銀縁の四角い眼鏡をかけている。黒いスーツに同じく黒いタイトスカートを着用しており、胸のふくらみは虚無といって差し支えなかった。


「はい、それでは授業を始めます」


学級委員長が起立、礼、と号令をかける。着席した後、隣からトントンと肩を叩かれた。夕樹が振り返ると秋夜が何やら真剣な面持ちで見つめていた。


 先生は黒板に向かっていて、こちらを見ていないのを確認する。何のようだ、と小声で尋ねると、彼は一度先生の方に目を向けてから、あの人は誰だ、と返した。先生に対して誰だ、とはなんと失礼だろうか。


「ヤガミアキ先生だよ。数字の八に神様の神、煌めく月で八神煌月。年は多分30代前半。なんだ、君あの先生に興味があるのか?」


そう言いつつ肘で彼をつつく。あわよくば彼が私に図々しくもべったりとくっつくのを止めさせられるかと思ったが、彼は軽蔑するかのような呆れたような顔でこちらを見た。


「そういった意図で聞いたんじゃない。へぇ……そう、八神煌月ね……」


もう一度彼は先生の方に目を向けてから、小さな声で

「いい名前だな?」

とまるで誰かに同意を求めるように呟いた。


 そこで先生は振り返った。先生と目が合い、一瞬血の気が引く。小声で会話していたのがバレたのだろうか。慌てて視線を逸らすと、黒板には白いチョークで前回までに習ったことが書いてあった。先生は少し辺りを見渡すと、やや顔を和らげた。


「はい。今回までに魔法基礎の内容は終わりましたね。皆さんきちんと復習して、内容はしっかり頭の中に入っていることと存じます。ですから、これからは実践的な内容にしていきたいと思います」


クラス中でワッと歓声が上がった。今まで机に向かって教科書とにらめっこしていた成果がようやっと出るのだ。

 先生が手を叩き、皆が口を閉じる。しかし未だに教室は興奮気味で、皆の期待で満ちていた。誰もが先生の次の言葉を聞き漏らさないよう気を張っていた。


「まず、次の授業では簡単な魔法の練習をします。具体的に言うと、風魔法です」


先生がそんなことだけを伝えるのにもいちいちどよめきが起こり、先生はこれからの方針を伝えるのに20分はかかった。


「ということで、まずは第三類魔法魔術から始めます。それから第二類魔法魔術。上手く行けば今年中に第三類は終わるでしょう。また、許可が降りれば来週の授業では魔法を使った模擬戦もしたいと考えています」


そこまで話してから先生は時計をちらりと見た。まだ授業は半分を過ぎたくらいだ。


「では魔法を使うために、個人用端末の設定をしましょう。皆さん、この銀色の端末を持ってきましたか」


皆がスカートやズボン、上着の内ポケットから端末を取り出す。夕樹も自分の端末を取り出した。そこで夕樹は初めて、幾何学模様は単色ではなく、様々な色に光っていることに気づいた。


「これから個人用設定を行います。まず個人認証をして、それから使うときのアンロックキーを設定してもらいますが……ちょっとチクッとします」


ちょっとチクッとする。このフレーズが指す行為は誰もが理解していた。一人の生徒が手を上げ、恐る恐る尋ねた。


「それはつまり……注射するんですか?」

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