共同農園
アルフレッドが農園を手伝わせる際、プレイヤー化した新規メンバー各自に畑を増やせたのは嬉しい誤算だった。
実際に世話をして欲しい野菜は光って教えてくれる。
ゲームの画面では見えない仕組みを自分で教えながら落とし込んでいく。
まずは簡単な野菜から。
子供達はどんな野菜でどんな料理が食べられるかを気にしてるようだった。
アルフレッドは畑を買えるだけ買ってウィーステラの宿屋の裏で統合する。
「ミーアさんだったかな?」
「はい、アル様」
「貴女は子供たちの自慢の野菜を美味しいスープやフードにする役目を与える」
「私にできるでしょうか?」
「大丈夫、僕にも出来た。作れば作るほど美味しくなるから、後は数をこなすだけだよ。まずはこのスープ鍋。ここに目を通すと手持ちの野菜で出来るスープの組み合わせで出来上がるスープが見えてくる。一回手本を見せるね?」
アルフレッドはミーアの見える場所で野菜を手際よく皮を剥いたり切ったりして野菜を茹でた。
鍋は水を入れてもいない、火を焚べてないのに沸き立ち。
そして物の数分もせずスープとして出来上がる。
アルフレッドがすごいのではなく、素材さえあれば出来上がるこのスープバーがすごいのだとミーアも理解する。
「すぐに僕に追いつけるとは思わないでくれよ? こう見えて20人のフレンドに絶賛されてきた腕前だ。今は冒険の方に興味が向いてるが、まだまだ新人に負けるつもりはないよ?」
「精進いたします」
ミーアはカイトと同じく従順で殊勝な態度で頭を下げる。
亜人と聞いてもっと野蛮な子なのだろうと思っていたが、これはカイトと付き合った数日で払拭されている。
獣の特徴があるだけで人と変わらぬ子供だ。
ミーアも同じくそうだと思えたからこそ仕事を任せたのである。
「スープの作り方がわかったなら子供達の世話を頼むよ? 皆やる気を見せているが、ずっとお世話ばかりじゃ疲れてしまうよね? あまりつまみ食いばかりされても困るけど、売り上げに応じて君達の暮らしにも貢献していこうと思う。何か欲しいものがあったら申告してくれ。可能な限り要望に応えるよ」
「ありがとうございますアル様。ですが今は受けたご恩を返させてください。あまりに貰い過ぎで返しきれなくなってしまいます」
「そっか、あまり無理はしないでくれよ? 僕もカイトも君たちが宝物なんだ」
「ありがとうございます。こんなに良くしてくれて、生きてきて初めて良かったと思えた程です」
ああ、もう涙脆いんだから。
カイトもミーアも。
この歳で一体どれほど辛い目に会ってきたんだろう。
貴族生まれのアルフレッドでは思いもしない世界なのだろう事は分かる。一目でわかるボロい服。
きっと買い物すら満足に出来ず、足蹴にされてきたのだろう。
ミーアをあやし、畑でジャガイモの世話にはしゃぐ子供達に声をかけ、今日はジャガイモづくしとした。
カイトは一人ポードックの森で四つ葉のクローバーを探してきてくれた。
アルフレッドのお気に入りのフードであるフルーツポンチ用のブルーコアも忘れずに仕入れてきてくれている。
ここら辺は頼んでないのに言われずともって感じだ。
「おとーさん! ロナンの作ったジャーモ! 食べて!」
「おお、上手に出来たな。アル様、早速手ほどきしていただいたんですね」
「こちらも助かるからね。みんなジャガイモ料理が好きだろう? だったら好物から作らせてあげたいからね。僕の農園は、どうしても売り上げ重視になりやすい。でも君たちは自由に作ってもらって構わない。慣れるまではね。慣れたらお手伝いしてくれたら嬉しいね」
「ありがとうございます。ほら、ロナン。アル様にお礼をしなさい」
「アウしゃま、あーがと!」
「どういたしまして。ロナンも自分で作ったジャガイモを食べて僕の作ったやつと食べ比べしてみたらいい。きっと違いに気がつくはずだ」
「ちあい〜?」
「まだわからないかな。でもわかるようになったらきっともっと面白くなるよ」
「あい!」
よくわかってないなりに元気の良い返事のロナン。
こんな子を放っとけない二人の気持ちがよくわかる。
アルフレッドもまた、人懐っこいロナンと接して守ってあげたいと思うようになっていた。
食事を終えたら宿や居住区の案内だ。
住めるだけでありがたいと言ってくれるが、ここからは住んで仕事を手伝ってもらうつもりでいる。
ログアウト後、どこで何をしてるかはわからぬアルフレッド。
流石にそこまで面倒は見切れぬが、ログイン中くらいの世話はしてあげたいと思ってる。
その為にもアルフレッドは自分の『才能』を広げることを使命とした。今までは自分を中心に回っていた世界が、カイトとの出会いで他者を気遣う世界に変わりつつある。
その考えが、後にあんな出会いを生み出すことになろうとは、当時のアルフレッドには思いもよらぬほど。
スープバーの出会いは、アルフレッドに新しい人生を歩かせた。
人間と亜人、そして闇の者との出会い。
貴族として生きていたら、そのどちらとも心を開く機会はなかっただろう。
その数奇な運命を絡め取り、やがて発展していく未来を見据えることになる。
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