トマトスープは命の味
アルフレッドはそのすべて理解していた。
信じられない。そんな事があるのか?
理解して、乾いた笑みが浮かび上がる。
だってそれは夢のような能力だった。
男の知識は非常に曖昧で偏っているが、特殊な言語『日本語』の理解だけはあったので遊べるゲームの幅は広い。
ただ、今の死にかけのアルフレッドにとってゲームで遊ぶ余裕はない。
「あ、これ。野菜を育ててスープにして飲ませるゲームなんだ」
が、才能に記されたスキルの理解によって、欲望がむくむくと湧き上がる。
「スープなら、丁度いいかも」
飢えて喉も渇いてる。
そして野菜の育成。廃嫡される前に少し興味が湧いた項目だ。
侯爵家は宝石の鉱脈の稼ぎが主流で自給自足ができるようになればいいなと思っていた。
父ナリアガルは他者を信用せず、身内だけでの経営をよしとするが、アルフレッドは幼いながらに自分が家督を継いだら一度追い出した職人さんたちに声掛けして戻ってきてもらおうと思っていた。
しかし己は廃嫡された身。
だからもう侯爵家の事は忘れた方がいい。
なんにせよ食べないことには明日の朝日も拝めない。
「と、ゲームを始める前にアバターを作らないといけないのか」
男の知識で本名は住所を特定される恐れがあるという偏った認識を真に受けるアルフレッド。
そして選択した名前は……
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ネーム :アル
生まれ :貴族/侯爵家【SR】
才能 :ゲームサイト【UR】
サイトレベル:1
PCスペック:1
<所持金>
¥0
<スキル>
遊ぶ :選択可能ゲームを遊べる
取り出す:ゲーム内アイテムを取り出せる
持ち込む:取り出したものを他のゲーム内に持ち込める
課金 :ゲーム内マネーを¥に替える
<選択可能ゲーム:1/1>
◆ハッピーベジタブル
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
<アルの農園>
農園 :LV1
スープ :LV1
シェフ :LV1
フレンド: 1人
畑 :4/4
<まほう :10/10>
▼農園内時間加速
30分【1】
2時間【3】
4時間【5】
12時間【10】
24時間【15】
<所持品>
なし
<スープ:0/4>
◎ーーー
◎ーーー
◎ーーー
◎ーーー
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
<購入可能アイテム/所持金:100G>
開墾 10G
カブ 10G
ニンジン 30G
トマト 50G
タマネギ 50G
ナス 50G
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
<課金アイテム/所持金:¥0>
豊穣のシャベル _¥300(収穫量二倍7日)
祝福のジョウロ _¥300(グレード+1/7日)
自動お世話チケット _¥500(7日)
まほう回復チケット _¥500(+300)
ようせい像(銀) _¥500(まほう全体化30分)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
<ベジタブルガチャ:0/100P>
まわした回数 0回
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
このゲームの遊び方は単純だ。
畑を開墾し、いつでも野菜を植えられるように整える。
そしてショップで購入した野菜を育てる。
ショップには堂々と課金アイテムが並ぶが、まだ課金できる手段を確立してないので、今は無視一択。
野菜によってお世話する回数が違うが、タイミングに合わせてお世話を完璧にこなすと収穫量が増えるという寸法だ。
ただ面倒なのが、グレードによってはスープに出来ないという縛り。基本的に購入時の作物のグレードはCに固定されている。
これをAランクにアップさせるとようやくスープに出来るのだ。
このランクアップがまた手間なのだが、このお世話をきちんとやり遂げることでグレードダウンかグレード維持、グレードアップに関わってくる。
お世話0回ならグレードダウン
お世話1回でグレード維持
お世話2回で収穫量二倍
お世話3回ならグレードアップで収穫量3倍
とお世話すればするだけお得なのだ。
野菜によってお世話させるタイミングは全く異なる為、課金で選べるチケット(まほう回復、自動お世話)やシャベルやジョウロ(収穫量二倍、グレード+効果)で一気に収穫する手もあるが、
今は課金用のマネーを持ち合わせてないのでアルフレッドには高嶺の花であった。
少し手間だが野菜の成長を見守る必要があった。
その上で、スープにできなくても生でも食べられそうな野菜をピックアップする。
それがトマトである。
一つ50Gと所持金の半分を持っていかれるが、更に10G使用して畑を開墾後、三回のお世話で数を三倍に増やした。
グレードは上がって美味しくなってるはず。
生で丸齧りしようと噛みつくが……
「硬い」
涙が出た。
己はそこまで弱り切っているのかという自覚。
そして折れそうになる歯を労わりながら噛みちぎると、強い酸味が下の上で踊る。
酸っぱい。男の知識でもまだ身が熟してないトマトのようだ。
処理次第では食べられないこともないが、当然アルフレッドは料理のなんたるかも知らないのである。
今できることといえば、ゲームにログインし、畑の野菜を育てることだ。
先ほどの酸っぱいだけのトマトがどう変わるのか興味があった。
その先にあるスープにも無限大の興味が湧く。
気がつけば開墾地をLV1で行える最大の二つに増やしていた。
そして3回のお世話で増やしたトマトをAランクにした。
そしてスープにしようとした瞬間、躓いた。
「え、嘘でしょ。スープにするのにそんなにトマト使うの?」
手元にあるのは二つの畑で三回お世話した6つのトマト。
しかしジュースにするのに3個、スープにするのに5つ要求されたのである。
解放されるレシピは素材によって様々だ。
トマトにできるスープは複数あったが、どれも違う作物を要求され現状出来上がる飲み物はこの二つだけであった。
ずっとスープだけを目標にしてきたアルフレッド。
手持ちのほとんどを消費するか、妥協して半分のトマトを選んでジュースに行くかの葛藤の末。
「男なら最初の選択は変えるべきではない。お父様ならきっとそう言う筈」
アルフレッドは手持ちのトマトを5つ投入し、スープバーに一つのスープを誕生させた。
それを取り出して口に含む。
「熱っつ」
そして舌を火傷した。
食べかけの酸っぱいトマトでクールダウンし、熱々のトマトスープを攻略して行く。
熱い。熱いけど美味しい。
やがて完食し、気がつけば涙を流していることを自覚した。
「あれ、僕はなんで泣いてるんだろう?」
感動するほどの味だったかと言われたら断じてそのようなことはない。
実家のシェフが作ってくれた料理の方が断然美味しい。
でもそれはふんだんに油や香辛料、素材を使った贅沢な味。
たった5個のトマトで作ったスープと比較するのもおかしな話だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます