Love Rose Story②【Pink Rose】ルシャント&ミエール
目を惹きながらも不思議と風景に溶け込み、優雅に羽ばたく青い蝶。
“彼”だとすぐに分かった。
それまで一緒に行動していたルーナと別れ、一人、駆け足で
人が行き交う道を外れ、暗く狭い路地裏に。
賑わう表通りから一転、誰もいない静かな場所。
曲がり角を進んだところで、強い力が私を引き寄せ、壁に体を押し付けられる。
「……あんたか」
やっぱり。ルシャントだった。
彼は呆れたように一歩二歩と背後に下がり、手にしていた剣をパッと消す。
「驚かしてごめんなさい。綺麗な青い蝶が見えたものですから、つい追いかけてしまいました」
「絶対僕だって分かってたよねあんた。……というか、いきなり剣向けられたことは驚かないの?」
「はい」
咄嗟に返してしまった。驚かなかったのは本当だが、これではまたすぐに飛び去ってしまう。
「やっぱり驚いたし怖かったので、気分転換として一緒に歩きませんか?」
「やっぱりって何」
ルシャントは私から顔を背けて息を吐く。
「……分かったよ。その代わり少しだけだから」
「はいっ。じゃあ早速行きましょう!」
「は、ちょっと引っ張るなよ」
膨れ顔さんの手を引き、太陽の光の下へ引っ張り出す。
「そういえば……ルシャントはどうして蝶の姿に?」
「あんたみたいな奴に絡まれたくないから」
「そうですか」
「……嫌味なんだけど」
「はい。理解してますよ」
私から顔を背き、溜め息を洩らす。
そんな横顔を見つめながら、さりげなく繋いだままの手をぎゅっと握る。
「あ、向こうで催し物をやっているようですね。見に行きませんか?」
「好きにしなよ」
呆れ半分の言葉に悪意は感じない。
嫌がりながらも、私とちゃんと向き合ってくれる。身分とかそんなの関係なしに。
「つまらなくたって知らないから」
真っ直ぐで、不器用で、強くて、そして。
「いいんですよ」
小さじ一杯ほどの優しさを持ってる人。
「貴方と二人で、素敵な思い出を作りたいのです」
こうしてそっぽ向いちゃうところも全部。
好き、って思えるところです。
気まぐれなお姫様の思い付きに付き合わされ、あっちにこっちにと連れ回される。
もともとは特に用も無く街を歩いていた。だが、人の多さが気になって離れようとしていたのだ。そこを、このお姫様に見つかった。
蝶になると視界が悪くなるのは不便だ。“こうなる”から。
でも、それももう終わり。「お花を摘みに行ってきます」とか言って、どこかに行ったミエールが戻って来たら帰ることになっている。
……花畑にでも行ったのか? 遅いようなら勝手に帰るけど。
花の事を考えていたら、近くで売られている花が目に留まる。
「お待たせしました」
それから少しして、ミエールが戻ってくる。
しかし、その手に花は無い。
「……花を摘みに行ったんじゃないの」
「え?」
何故か困惑された。なんで。
「まあいいや。帰るんでしょ」
「あ、はい。帰りましょ。向こうなら人も滅多に通りませんし、楽に帰れますよ」
「そう」
言われた道に向かい、先を歩く。
僕の後ろを歩く彼女は静かだった。
なんだと僕は思う。花を摘みに行ったわけじゃないのか。
……でも、僕には必要ないものだし。
「ルシャント?」
足を止めた僕に合わせて、向こうも立ち止まる。
僕はついさっき“拾った”花を差し出す。
「さっき拾ったから。……あげる」
どこからかともなく舞い降りた青い蝶が、ピンク色のバラに留まる。まるで、ルシャントの心を代弁するかのように。
いろいろと疑問はあるが、今は嬉しいって気持ちだけが心を満たしていった。
私はすぐにいつもの笑みを取り戻し、拾ったにしては“なぜか”棘が無いバラを受け取る。
「ありがとうございます。とても嬉しいです」
「別にあんたの為じゃないし」
「ふふっ。……っ」
幸福感に包まれていた最中。指先に鋭い痛みが走る。どうやら、バラに残っていた棘が刺さってしまったようだ。帰って抜かないと。
「なに。どうしたの」
「棘が刺さってしまって……」
「見せて」
ルシャントに手を取られたかと思えば、お得意の魔法で棘を抜いてくれた。少しだけ血が出ているが、少しだけだ。問題はない。
「ありがとうございま」
二度目のお礼が途中で止まる。
なぜなら、ルシャントが自然な動きで私の指を口に咥えたから。
「……なんでそんな顔赤いの」
指から口を離したルシャントが眉を顰める。
先程と同じぐらい、顔に熱が集まっているのを感じた。
「……ルシャントのせいです」
「は? 止血しただけなんだけど」
「分かってます」
「意味が分かんないんだけど……」
ほら行くよ、と歩き出すルシャントについていく。
今日は本当に素敵な思い出が出来ました。
……少しでも伝わってくれたらいいなぁ。
私の大好きな王子様。
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