Love Rose Story①【Blue Rose】リアム&ルーナ

 ある日の昼下がり。

 珍しく僕一人しかいない拠点に、チャイム音が響き渡る。

 はーい、と返事をしながら玄関に向かう。


「お届け物です。判子かサインお願いします」


 え、誰の名前を? と困惑したのも一瞬。宛先は僕だったので、何の問題もなく受け取る。

 部屋に戻りながら、“そういえばマティアスに荷物送ってほしいって言ったっけ”と思い出す。

 封を切り、中を覗く。

 真っ先に飛び込んで来たのは、頼んでいた荷物ではなく青い薔薇。育ててる薔薇が上手く咲いたらしく、送ってくれたようだ。希少なだけあって綺麗だなぁ。

 ……あっ、そうだ! せっかくだしリビングに飾ろっと。花瓶、花瓶……。


「……そうじゃん」


 花を飾るという行為をする人は僕らの中に居ないし、飾っても何だかんだで灰になりそうじゃん。

 あと棘どうにかしないと。刺さって怪我したら痛いもんね。

 机の引き出しからハサミを取り出し、一つ一つ慎重に切っ──


「痛っ」


 早速刺さった。わりと深めに。

 棘は指に残っていなかったけど、血が出てきた。あっ意識したらジンジンする。絆創膏絆創膏っと、……よし。

 残りの棘も切り落としたタイミングで、誰かが帰って来た。


「お帰りー」

「た、ただいま」


 帰って来たのはルーナだった。あれでもなんか反応が微妙なような……? もしかしてお帰りっていうの馴染みないかな。


「お、お帰りなさいませ⁇」

「急にどうしたんだ」

「特に意味はなくなりました」


 今ので無くなったのでそんな顔しないで……。


「ミエールは一緒じゃないんだね」

「途中までは一緒だったんだが……急用が出来たと別れたんだ」

「そうだったんだ」


 ルーナは、僕の指に巻かれた絆創膏を見て目を丸くする。


「紙で切ったのか?」

「ううん、棘」

「棘?」

「ちょっと待ってて」


 そう言ってルーナを残し、部屋にある青薔薇を取りに行く。


「これこれ。これの棘を抜いてて刺しちゃったの」

「青バラなんて珍しいな」

「マティアスが送ってくれたんだ」

「そうなのか。綺麗だな」

「でしょ?」


 僕はそのままルーナに差し出した。


「ルーナにあげる」

「えっ」

「え?」


 まさかそんな反応されると思わなくて。

 ルーナの顔が、ほんのり赤く見える。


「あ、ありがとう」

「う、うん」


 釣られて僕の体温も上がっていく。

 でも喜んでもらえるのは嬉しいな。


「やっぱりルーナみたいな女性に薔薇は似合うね」

「恥ずかしいことを言うな‼︎」


 何故か叩かれた。いたい。




 突然過ぎて、心の準備が出来なかった。


「ルーナにあげる」


 その笑顔はずるい。

 きっとこちらの気持ちなんて分かっていないんだろうな。

 ……今なら言葉に出来るか?

 ええい、なるようになれ! 3数えたら言うぞ!

 3……2……い。


「やっぱりルーナみたいな女性に薔薇は似合うね」

「恥ずかしいことを言うな‼︎」


 ──ハッ! また手が出てしまった。いつもこんな風に叩いてしまう。

 ……はぁ。先ずはこの癖を直さないことには始まらないな。


「痛いよルーナ……」

「す、すまない」


 頭を摩りながらリアムが顔を上げる。


「いいよ。ルーやリーヴに比べたら全然だし」

「あの二人と比べるな」


 彼らはリアムに対する扱いに問題がある。私も普段から注意しているが、それだけでは補えないのが残念だ。


「あっそうだ。ルーナ、ちょっとこっち来て」


 リアムは私を鏡の前に立たせた後、「ちょっと貸してくれる?」と青い薔薇を手に取り、私の上着に付けた。


「こうするともっといいね! 薔薇って騎士のイメージ強いし、ルーナにぴったりだよ!」


 ……本当に君は、私が求めている言葉をくれるな。


 初めて出会った時も、挫けそうだった私を奮い立たせてくれた。

 女としてでも、王女としてでもなく、一人の騎士として。ちゃんと場を弁えながら、同じ目線で接してくれる。

 男としては頼りないが、戦いに全力で挑む姿を。私は、カッコいいと思っている。

 だから……好き、なんだ。


「黙ったりしてどうしたの? あ、もしかして嫌だった……⁉︎」

「いや、そうじゃない」


 青い薔薇にそっと触れる。


「ありがとう、リアム。大事にするよ」

「うんっ。きっとその薔薇も喜んでるよ」


 いつの日か、君に貰ったものを返せる日がきますように。


「マティアスも喜んでくれるよ! あ、ミエールにも見せてみたらどうかな?」

「……そうだな」


 少しはこちらの思いに気付いてくれてもいいと思うのだがな。

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