SSシリーズ
魔法、ときどき、アナログ
「……?」
違和感にも似た悪い予感を察し、扉を開けるのが躊躇われる。
それでもルシャントはゆっくりとドアノブを捻る。今日のお留守番はアステルだし。そう思いながら扉を引いた直後。
飛来する
咄嗟に掴んだ為負傷することはなく。
「ルシャント!」
アステルの叫び声が響くと同時、襲来する虫型モンスター(コードネーム:G)。反射的に棍棒を振り落とせば、クリティカルヒットで撃沈。敢えなく床に落ちていった。
「ありがとな。助かった……」
そうお礼を言うアステルだったが、洗剤やら小麦やら何やらを身体中に被っているし、部屋も酷い有様だ。流石のルシャントも顔を歪める。
「別にいいけどさ……どうすんの、これ」
「うわぁマジだ。どうしよ……」
改めて部屋を見渡すが、あまりにも酷すぎるので何処から手をつければ良いか分からない。
「……とりあえず先に着替えてきなよ。そのままじゃ綺麗にしても汚すだけだし」
「それもそうだな。ルシャントは部屋に行っててくれ」
悪いなと一声かけてこの場を後にする。
ルシャントは一人その場に留まり、小さく息を吐く。
それから数分後。
「え……?」
着替えたアステルが戻るとそこは、なんて事はない普通の空間。自分達が見慣れた綺麗な広間だ。
思わず目を擦るが景色は変わらず。あの汚いのは何処へ行ったのやら。辺りを見渡すと、ソファーにルシャントのローブを見つけた。部屋が綺麗なのはルシャントのおかげなのだろう。きっと魔法を使ったに違いない。……なのだが。
(なんでローブがあるんだ……?)
加えてローブ下に着用しているベストまである。滅多に脱ぐことはない服がここに置かれているのは不思議だ。アステルはルシャントの姿を探しに外へ。建物沿いに歩くとすぐに見つけた。
「ルシャント」
シャツの袖をまくり、しゃがんで何かをするルシャント。彼の前に置かれた桶には水が張られ、泡立っている。
「それ……どうしたんだ?」
板を使って洗濯しているルシャントに戸惑う。“確かに昔はそれだったけど今は洗濯機があるし……”と考えるアステルに、別にと返してから。
「汚れてたから洗おう……って」
「で、でも今は洗濯機があるし、わざわざ洗わなくていいんだぞ」
「……知ってるよ。だけどこっちの方が慣れてるから」
溜め息混じりに答える。本人にとっては、あまり思い出したくない記憶のようだ。
アステルはルシャントの隣にしゃがむ。
「俺も手伝わせてくれよ。もともと俺のせいだし」
なっ? と笑うアステルに自然と頬が緩む。
「うん」
「……なあ、これ洗濯機使った方が楽じゃね? 使い方知らないなら教えるけど……」
「使えたら使えたで洗濯任されそうだからいい」
「そういう理由があったのか……」
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