第三十五話 やっべえぞ④
「うおおおおおお!!!!」
「ピエエエエエエ!!!!」
「すごーい!」
ケツタニア王国王都:オシリアナ。
その中心にあるオシリアナ城最上階の国王の寝室に着弾した俺達は、魔法障壁に守られて無傷だった。
が、チ〇ポの驚異的な加速魔法によって無敵の砲弾と化していた為、寝室を中心とした衝撃が王城全体を襲う。
そして王城の厚い壁と衝突して速度が落ちたものの、未だ健在の推進力はそのまま衝撃波を伴って直進。
オシリアナ王国東の壁を粉々にして森に侵入、多くの木々をなぎ倒し、地面を捲り上げる。
そして森を二分ほど進んだ後、少し開けたところに立つ巨木を根本からひっくり返したところでようやく推進力が死ぬ。
「と、とまった………」
「ちょっと怖かったピヨ………」
「はははっ! すごかったねー!」
涙目の俺とピヨコを他所に、ベルベルは俺を強く抱きしめて笑う。
ホント精神力強すぎない?
もしかして「ナカヘン」の魔法使ってる?
心臓に毛どころかチ〇ポ生えてる?
が、メンタル最強のベルベルちゃんだが身体はか弱い亜人の女の子だ。
ピヨコから降りてベルベルを地面に下ろして、
「ベルベルケガしてない? バンザイしながら回ってくれる?」
「はーい!」
ケガが無いかどうか目視。
どうやら大丈夫そうだ。
「ピヨコは………大丈夫みたいだな」
うつ伏せで倒れるピヨコに手を貸し、起き上がらせる。
すると、顔やお腹が土まみれで汚れているものの、特に外傷は無いと見える。
起き上がったピヨコの腹からずり落ちたフェンリルも、問題ない。
あの勢いで数分間あらゆる障害物を破壊しながらも、中の俺達に一切傷が無いとは、さすがチ〇ポの魔法だ。
とはいえ、
「ヤバいことになった」
鬱蒼と生い茂っていたはずの木々、そしてその奥にあったはずの壁が無くなり、すっかり見晴らしが良くなった西を振り返る。
すると、ちょうど荘厳だったはずのオシリアナ城居館が倒壊したところだった。
すぐに大きな土煙に隠れてしまった見るも無残な王の城に、俺は呆然としながら呟いた。
しかし、こうしちゃいられない。
城は土煙に埋もれたとは言え、城から続く破壊の跡は、城の兵士達を易々とここへ導いてしまうだろう。
ここにいてはまた「重要参考人」に、そしてなんやかんやで処刑されること確実だ。
魔王城の一件で学んだのだ。
逃げるが勝ち。
その場に居座るのはただのリスク。
謀略を企てる前に逃げてしまえばいいのだ。
「ピヨコ!フェンリルをおぶってやってくれ!行くぞ!」
「分かったピヨー!」
「どこ行くの?」
「街だ! このまま森に入ってぐるっと進んで、南の門からオシリアナに入るぞ!」
魔人はほとんど住んでいないだろうが、聞いたところによると王都で暮らす魔人もいるそうだし、魔人を連れてるだけで怪しまれることはないだろう。
それにピヨコはなんかアホで無害そうだし、フェンリルも記憶が無いはずだから適当に誤魔化してやればいい。
こんな規模の破壊、魔王や龍などの規格外の仕業だと考えるだろうし、こんなことが出来るヤツが街に入ってくる訳がない、と思うはずだ。
つまり、オシリアナの中に普通に入ることが、俺達が疑われない最善の手!
「この人はどうするピヨ?」
「ん? この人って………なッ!?」
ピヨコの泥だらけになった腹の羽毛の中から、白髭を蓄えた人間の男が顔を出していた。
意識を失っているようだが、俺はこの顔をどこかで見たことがある。
あれは………そうだ!
数年前、戦争がしたいとのたまう魔王に言われて渋々他国の情勢を調べていた時に見た。
確か、貧富の差を是正しスラム街を無くしたとか、身分制を廃止したとかで、所謂弱者の救済を積極的に行い、圧倒的な支持を得ていた歴代屈指の「善王」と呼ばれていた男―――第二十四代ケツタニア国王:オケッツァ・オシリアナだ!
「なんでいるの!?」
「なんかあのおっきな建物に当たった時に寝てたから連れてきたピヨ」
こいつ寝室を破壊した時にいたから捕まえてきたってのか!?
あの一瞬で!?凄いね!?凄いけども!!
「なんで連れてきちゃうの!!? 捨ててきなさい!!」
「でも……おひげカッコいいし……」
「そんな虫捕まえたみたいな理由!? 勝手に他所の人捕まえちゃダメだよ!? いい!? これから人の街で暮らすんだから、カッコよくても捕まえちゃダメなの! わかった!?」
「………ピヨ~」
ピヨコは露骨に落ち込んだ様子を見せるが、善王を放そうとしない。
ダメだこれは。
これから一緒に暮らす以上、この聞かん坊の赤ちゃんを教育してやらないといけない。
一発強めに叱ってやろう。
「コラ!!! 捨てなさい!! 言うこと聞かないともう口聞かないよ!?」
「ピ……ピィ……ピヨ………」
目を潤ませながらも善王を手放さないピヨコ。
「もういい!! 俺が捨ててくるから、ホラ!渡しなさい!」
「ピヨォ~! イヤ!イヤピヨォ~!」
俺は善王の頭を引っ張って羽毛から引き抜くが、ピヨコが善王の脚を抱きしめて離さない。
「この! ホントに怒るよ!? 早く離しなさい!!」
「イヤイヤ!! ピええええええん!!!」
とうとう泣き出してしまったピヨコ。
しかし善王を離そうとしない。
もう魔法で無理矢理引き剥がすか………
「こら~! ケンカしたらダメ! ちゃんと仲良くして! ピヨちゃんはワガママダメ! ブレインもピヨコに優しくしなきゃダメ!」
とうとう業を煮やしたベルベルが割って入り、しかめっ面で俺達を叱りつける。
が、ベルベルのそれは「ぷんぷん」という表現が正しい程度の怒り方で、正直怖くもなんとも無いし逆に少し可愛らしいくらいだ。
関係ない。少々手荒な手段を取ってでも―――
「ふぉっふぉっふぉ! 仲が良いのぉ!」
その時、俺達が取り合っていた善王が口を開く。
ピヨコに脚を、そして俺に頭を掴まれたまま、善王は言葉を続ける。
「人は皆、いつからか誰かが生み出した尺で自分や他の者を比べるようになってしまった。そして差を見つけ、その差に名前を付けた。人種、思想、身分………といったようにの。名前が付けられてしまった差は、この世界で暮らす仲間であるはずのワシらの間に仕切りを作り、細かく分け隔ててしまった。ワシはのぉ、それを無くしたいと思っておるんじゃ。じゃから、お主らがそうやって互いに口喧嘩しながらも行動を共にしているのが本当に嬉しいのじゃ。あーすまんのう。続けておくれ。ワシはお主らが話しているのを見ているだけで」
「ブレイン・インパクトォ!!!」
「―――ギッ」
ブレイン・インパクト―――召喚した魔導書の角に魔力を込め、対象の頭に渾身の力で振りぬく俺のオリジナル魔法だ。
これを受けた者は脳細胞がはちゃめちゃになり、大半の記憶を失う。
「あ~! おじいちゃん殴った~! ダメなのに~!」
「なんかぐったりしちゃったピヨな~」
「すまん。なんか喋ってたけど、見られちゃマズイからやっちゃった」
やっちゃった。本当に。
これから住もうっていう国のトップ、それも歴代屈指の善王と呼ばれる御人の記憶ぶっ壊しちゃった。
これはもうケツタニア王国史上最大の事件に違いない。
でも仕方ない。だってこのまま帰すワケにも行かないし。
それに殺したわけじゃないし、この人は善王だろ?
俺達みたいな身寄り無い弱者を記憶失うだけで助けられるんだったら、善王冥利に尽きるってもんなんじゃない?知らんけど。
うん。さっさとズラかるとしよう。
「ピヨコ。あとでプリンいっぱい買ってあげるから、この髭の人はここに置いていくよ?」
「えっ!プリン!? 分かったピヨ~!」
初めからこれを言っておけば、とも思ったが、おそらく善王はかなり早い段階で意識があり、俺らの話に聞き耳を立てていたのだろう。
善王の記憶を奪えたことは、ピヨコとの一悶着があってのこと。意図せず目撃者の口を封じることが出来たのは僥倖だ。
「じゃあ行こうか!」
ものの数分で世界で最も安全な国の王城と国王の記憶を破壊した俺達は、その安全な国で暮らす為、南の門へ向かって歩き出した。
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