第二章 王都新生活編
第三十四話 転生したら攻城兵器だった件
「あっ! 見てピヨ! おっきな火山があるピヨ~!あっちにも!」
「ホントだー!夜だと光ってて綺麗だなー!ブレインも見て!」
「うん。見てるよ。あの二つの火山はオティクビブラザーマウンテンって言うんだ。ここイーヤラシ大陸はМ字開脚した人間みたいな形をしているから、ちょうど胸のあたりにある火山がそう呼ばれているんだ」
「「へー!」」
「ちなみに俺達がさっきまでいた魔国領はちょうど頭の部分。もっと高度があれば分かりやすいんだけどな」
魔国領を飛び立って、というかぶん投げられてから二時間ほど経過しただろうか。
魔王軍参謀であるこの俺ブレインが魔王のチ〇ポをタコ殴りしていたことを発端とし、どういうワケかチ〇ポが最強老人に、そして魔王が角の生えた金髪少女になってしまった。
それからなんやかんやでひよこ魔人のピヨコ、狼魔人のフェンリル、そして元魔王の少女ベルベルを連れ、元魔王のチ〇ポである最強老人「チ〇ポ」の力を借りて魔王城を脱走したワケだが………。
チ〇ポの魔法でケツから火を吹き、推進力を得たピヨコの背に乗り、俺達は「イーヤラシ大陸」の最西に位置する魔国領から真っすぐ東へ向かう空の旅を満喫していた。
いつもより近い月に照らされながら、遠方に大陸の広大な自然を見据え、遙か下の地面にポツポツと見える街の光を見下ろす。
ピヨコは「燃えてて飛ぶ」フェニックスになれたと上機嫌で、意味もなく小さな羽を羽ばたかせながら、空から見る景色を楽しんでいる。
俺の記憶破壊魔法「ブレイン・インパクト」を受けたフェンリルは眠ったまま。
息をしているか不安になったが、どうやら生きてはいるらしい。時期に目を覚ますだろう。
ベルベルはというとあぐらをかいた俺の上に座り、ニコニコと会話を楽しんでいるようだ。
魔法に守られていると言えども、本来飛べないヒヨコに乗って高速で空を飛ぶという状況に全く動揺していないのは、やはりこの少女が元魔王だからということなのだろう。
それにしても、加速魔法が切れる気配が全く無い。
チ〇ポの魔力が規格外であることは理解しているが、二時間も飛び続けるとは思いもしなかった。
このまま飛べばここ「イーヤラシ大陸」のちょうどお腹の部分にある亜人の国「ヘソポタミア」あたりまで行ける。
あそこまで行けば魔国領の残党が俺を見つけることなど不可能。
もはや俺の逃走は完全に成功したと言えるだろう。
「ふふふ」
「ブレイン嬉しそう!よかったね!」
「ん? ああ!」
勝ちを確信し思わず笑みを溢した俺に反応し、ベルベルはくしゃりと笑う。
魔王の面影が一切無いあどけない笑みに歯を見せて返し、しばらくの空の旅を続けるのだ。
それから更に三時間ほど経っただろうか。
「これいつまで飛ぶんだ?」
着陸の目標地点であった「ヘソポタミア」を一時間前に超え、イーヤラシ最東の空を飛翔していた。
が、一向に速度が落ちない。
このままでは大陸を飛び越え、大海に落ちるのでは?
危機を乗り越え安住の地に導く空の旅のはずが、溺死まっしぐらの空飛ぶ棺桶に搭乗していた可能性が浮上し、背中を冷たい汗が伝う。
「ピヨコ! 魔法が切れそうな感覚はあるか!?」
「え? 魔法………うーん。分かんないピヨ~」
ダメだ。明らかに魔法適正のないデカいヒヨコに魔法の効力を肌で感じることなんて出来る訳が無かった。
魔法は術者と被術者しか効果を感じることが出来ず、魔法に卓越した俺でも効果の消失を前もって知ることは叶わない。
かくなる上は、どうにかして加速の向きを変え、無理矢理着陸するしかないか?
「大丈夫?」
ベルベルは俺の表情に敏感なようで、考え込んでいた俺を見上げる。
正直大丈夫ではない。が、なんとかしなければならない。
彼女らは俺の命の恩人であり、この逃非行についてきてくれたのだ。
上司のチ〇ポをタコ殴りにした上、長年務めた魔王城を破壊した俺でも、自分の為に勇敢に行動したか弱い彼女らに義理を果たしたい。
なんとかして、無事着陸しなければ! という決意を込めて、
「大丈夫大丈夫!よーし!これから着陸するからな!」
と目いっぱい平気な様子を繕って答える。
「「は~い」」
豪胆な少女とアホヒヨコは高速入水自殺の危機に瀕したこの状況に全く似合わない元気な返事。
慌てたりしないのは良いところなのだろうが、いつも俺ばっかり悩んでいてバカみたいだ。
そんなモヤモヤしたキモチを抱えながら、
「ベルベル。ちゃんと掴まってて」
「分かった!」
ベルベルが俺の首に手を回して胸元にガッチリとしがみつくのを確認すると、俺は立ち上がって空に両手をかざす。
五時間以上も作用し続け、人三人を大陸の端から端まで飛ばすほどの異常な力を発揮するチ〇ポの加速魔法。
その全容を測りかねるほどの強大な力の方向を変えて着陸する為には、地面に向けた強い推進力が必要。
時間も経って魔力もそれなりに回復しているし、大袈裟かもしれないが神級魔法を使ったほうがいいだろう。
神級火炎魔法―――
「―――ヒカラ・ビルカ・オモタワ!!!」
詠唱を終えると、空へかざした両手の前に四重の魔法陣が現れると、極太の熱線が放たれる。
大地すら溶け、あたり一帯が灼熱のマグマと化すほどの熱線の圧力が、支えの無い中空のピヨコを押さえつける。
「ピヨ!? 」
「―――どうだピヨコッ!? 」
魔法にいっぱいいっぱいながらピヨコに尋ねる。
「真っすぐじゃなくなったピヨ! あっこのピカピカしてるとこに向かってるピヨ!」
横目でピヨコが指しているであろう「ピカピカ」を見やると、そこはこれまで空から見てきた光の中で最も輝く場所だった。
どうやら上手く行ったらしい。
鋭角なものの地面へ向かい始めた。
俺は役目を完遂した魔法を止め、強くしがみついたベルベルの背中を優しく叩きながら、
「ベルベル見て。あれが、俺達が暮らす国だ」
「ん? ………おぉー! 夜なのにすっごい明るいなー! なんていう国?」
イーヤラシ大陸最東―――魔人が住む魔国領から最も離れた場所。
人間や亜人達にとって最も安全と言える地であり、そこにはイーヤラシ大陸で最も繁栄している国がある。
広大な国土の三分の一を占める肥沃な農地は大陸中の人間の食生活を支え、大海に隣するイーヤラシ大陸の貿易の要。
異世界の知識を積極的に取り入れ、極めて高い生活水準をほぼ全ての国民が享受する、まさに人間社会の中心。
その名も―――
「―――ケツタニア王国。俺が産まれた国だ」
まさかここに戻ってくることになるとは。
最後に来たのはもう百年以上も前。
本当に色んなことがあった場所だ。
なんて考えて思い出に耽る俺と対照的に、ベルベルは特に感動はないらしく、
「へんな名前ー」
と一蹴する。
そのまま高度を落としながらも、高速で飛行するピヨコ号はケツタニア領内に入り、そしてどんどん中心に向かう。
ケツタニアの中心―――そこには高い壁で周囲を円形に囲った王都がある。
そしてその王都のさらに中心。
高速に身を委ねながら、「そこ」がどうやら着陸、もとい着弾点だろうことが判明し、乾いたはずの俺の背中がまたもやびちゃびちゃになる。
「あの前のおっきい建物は何ピヨ? あそこに降りるピヨか?」
「うん。そうなるみたいだ。あそこは………ちょっと偉い人が住んでる場所かな? ピヨコ。着陸したらすぐに逃げる準備だ」
「え? また逃げるピヨ? どうしてピヨ?」
「ベルベルはちゃんと掴まっててね。腕は辛くないか?」
「大丈夫! ふふっ!ブレインは優しいなっ」
「優しいっていうか、これからまたちょっと大変だから」
俺は姿勢を下げ、ベルベルをピヨコの背と挟むようにし、フェンリルを抱き寄せて衝撃に備える。
衝撃、というのはピヨコの言う「おっきな建物」にぶつかることだけでなく、それが俺達が暮らすこの国にどんな影響を及ぼしてしまうのか、という衝撃に近しいほどの強い不安のことでもある。
俺達が着弾するのは、ケツタニア王国の王都―――『オシリアナ』
その中心にそびえるのが、異世界召喚魔法を生み出した魔法使いを祖に持つ王家:オシリアナ家が暮らす「オシリアナ城」
「ほんと、どうしよう」
オシリアナ城のさらに中心:居館の最上階「ケツタニア王国国王の寝室」が、俺達の衝突によって爆散した。
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