第三十二話 異常家族
「チン………モオオッ!? ふざけるなァ!!!!」
「ま、まさか龍を従えている、のか………ッ!?」
魔王城の西の空に座す最強の魔獣「龍」。
その鼻先に立つ「チ〇ポ」を名乗る老人に、タウロスは怒りを、ライオネルら他の者は困惑を向ける。
一騎打ちで決するはずだった戦場に再び混沌が訪れ、ぺギルやサキュバスでさえも表情を硬直させる。
ただ、この状況を創り出した張本人である俺は、内心飛び上がりたいほどの喜びと安堵に包まれていた。
良かったァアアアア!!!
本当に来たよ!!!
じわじわと首を締め付けられる劣勢を打破する為の起死回生の一手。
思いついた時は無謀かとも思えたが、成功した際のあまりにも大きな「見返り」を欲し、賭けに出た。
チ〇ポ―――俺の魔王チ〇ポ叩きにより蓄積された魔力が開花し、何故か人型となった魔王のチ〇ポ。
実際に戦っているところ見た訳ではない。
しかし、その人間同然の体躯に宿る常識外れな魔力量、魔王にも近しい武の気配が、最強生物であることを確信させる。
ヤツが近くにいるのではないか?
そう考えた理由はチ〇ポが魔王の寝室の壁を破壊して西へ飛ぶ前に言っていたことにある。
チ〇ポは西を指差して「武を感じる」と言っていた。
西―――つまり俺が魔法で空をはちゃめちゃにしてしまい、常に雷鳴が轟く危険地帯となった方角。
そんなところにいる何に「武を感じた」のか?
それはヤツが連れてきた「龍」だ。
龍はその体躯を清潔に保つ為、激しい雷雨を好むとされている。
そもそも別の場所にいた「龍」が魔国領にいるのは俺が「龍」が好む環境を作ってしまったからで、「西の武」と聞いてすぐにピンと来た。
だが、魔王城から「龍」の住処までは距離がある。
それなのに何故チ〇ポは龍の気配を感じ取れたのか?
それはおそらく、俺がチ〇ポをチ〇ポとするきっかけとなった魔法「オドッテマウ」が持つ「満足するまで踊り続ける」という効果がヤツの武人たる精神と相互作用し、武を求め「血が湧き、肉が躍って」いるからだ。
何を言っているのか俺も分からない。
が、「武を求める」というのがヤツの行動原理であり、それがヤツの異常な索敵能力に繋がっていると考える他ない。
遠方の龍を見つけることが出来た、とするならば、魔国領の最高戦力が集い、戦うこの戦場はどうだ?
龍と比べれば些末だったかもしれないが、俺の放った神級魔法「ユカ・オナスナ」―――地形を変えるほどの魔力には気付くのではないか?
武を求めるヤツは、近くに様子を身に来ているのではないか?
ヤツがこの戦場に参戦し、並みいる敵をうち滅ぼしてくれるのではないか?
と、俺は考えたのだ。
だが、一つ問題点があった。
あいつは俺を初め見た時、「魔力はそこそこだが、身体は貧弱」と評価していたのだ。
俺は魔国領屈指の魔力量を持つ。それなのに戦いたい相手ではない。
それはどうしてか?
おそらくヤツは魔力より、身体の力―――つまり魔王が好んでいた肉弾戦が出来るような相手を好んでいるのだ。
となるとこの戦場において、チ〇ポが求める肉弾戦の強者はタウロスが当てはまる。
しかし、魔王城で産まれたチ〇ポは、タウロスのことを気にかけていない様子だった。
つまり、タウロスは「好みの武」ではあるものの「求める武」には達していない、と評価されている可能性があった。
そこで、俺は思いついたのだ。
―――だったらタウロスをめちゃくちゃ強くすればいいじゃない!
俺はタウロスをチ〇ポが求めるであろう強さに至らせる為、二つの方法を考えた。
まず一つ目は、タウロスら牛魔人の「激情を力に変える」という性質を利用することだ。
一騎打ちに誘い、そして時期魔王になれ、とタウロスを鼓舞することで、俺に対する闘争心を高める。
そして、いざ戦闘になれば攻撃力の無い小規模魔法のみを使用し、タウロスの好まない小細工で挑発。
タウロスの激情による増強を最大限発揮させる。
そして二つ目が、強化魔法だ。
一騎打ちで小規模魔法を連発したのは挑発の為、というのが第一の理由であるが、限られた魔力を出来るだけ強化魔法に充てたいという狙いもあった。
強化魔法は対象の至近に寄らねば発動出来ないから、挑発して冷静さを欠かせ、俺の策に誘導して動きを止めたのだ。
そして発動したのが身体強化魔法―――「キレテルヤン」
一時的に筋力を増大させることが出来る魔法。
俺のようなか弱い人間が使えば身体が耐えきれないほどの強化が成されてしまう、いわゆる欠陥魔法だが、効果量としてはかなりのもの。
それを、節約によって二割近く残した魔力をほど全て使用し、タウロスに注ぎ込んだのだ。
これら二つの強化により、タウロスの体格は通常時の三倍近くにも達した。
そして、チ〇ポが来たということは、タウロスはヤツの「求める武」に達したということらしい。
正に思惑通り!
俺は賭けに勝った!
勝利にもたらしてくれるであろうチ〇ポを見上げながら、俺は静かに拳を握る。
「見てピヨちゃん! おっきいトカゲだぞー?」
「う゛っ………とか、げピヨ?」
まだ泣いてたらしいピヨコはベルベルに慰められながら、空を見上げる。
「ピヨ~! すごいピヨ~! 飛んでるピヨ~!」
「すごいねー!」
「ふふふ!」
「「ふふふふ!」」
おっきいトカゲをみて元気になったようだ。
良かったね。
だが、まだ戦いは終わっていないのだ。
こんなに悠長にしていられない。
戦の華である一騎打ちを台無しにした俺に、タウロスやライオネルは怒り狂うことだろう。
今はチ〇ポに気を取られているが、もしチ〇ポが居なくなれば俺はすぐに殺されてしまう。
よって、確実にチ〇ポに暴れてもらわなければならない!
「タウロス! やつを倒さない限り貴様に魔王を名乗る資格はないと思え!」
「グウウウウ!!! モ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!!」
タウロスは地面を棍棒で殴りつけ、西の空へ咆哮する。
それにしても凄い迫力だ。
あれなら魔王にケガを負わせることだって出来たかもしれない。
「ふん!!!」
チ〇ポは龍から飛ぶと、そのままタウロスの前に着地。
土を巻き上げ、烈風が周囲を襲う。
チ〇ポはタウロスの身体を見て鼻を鳴らした後、こちらに気付いたようで、
「父上よ。あの地から陰茎を勃起させる魔法から近くにはいるとは思っていたが、此奴に力を与えたのもウヌのようだな?」
「あ、あぁ。お前に用があって、ちょっと頭を使ったまでだ。あとアレは石の柱だ。陰茎じゃない」
周囲は「父上!?」や「筋肉老人と父子プレイ!?」、「イ、イカレてるッ!!!」などと騒がしい。
もうちょっと黙ってて?
これ以上俺を異常性癖者にしないで?
「ふむ………。我はまんまと誘い出された訳か。―――ムッ!?」
なにやら不機嫌そうに考え込むチ〇ポだったが、俺の背後―――ピヨコの背に掴まるベルベルを発見し、
「母上!」
「なっ―――!?」
憮然とした様子を一変させ、ベルベルの前で跪く。
「え!? 母上ー? 私がかー?」
当然面食らった様子のベルベルだが、
「そっか………! ブレインとの赤ちゃん………そ、そんなことまで………!」
ピヨコの羽毛に高潮させた顔をうずめると、何やら呟いている。
ちょっとどんどんベルベルの誤解が深まっていくような気がするが、怖いからそっとしておこう。
「お、おい聞いたか!?」
「あんな少女にう、産ませたってのか!? あの老人を!? わ、分からねえッ!」
「い、いや! そんな訳ねえだろ!? あれはプレイだッ! 老人と少女と行う家族プレイ………ッ!」
「イ、イカレてるッ!!!」
戦場はもはや龍やチ〇ポよりも俺の異常性癖に関する話題で持ち切りだ。
「こ、こどもッ………!? こ、ここっ! こど、こどどどっ! こっ――――――」
サキュバスは震えながら何かを呟き、泡を吹いて失神。
すごいな。サキュバスを一言で倒したぞ。
よくやったチ〇ポ。
周囲が騒然としているのを一切気に留めないチ〇ポは、
「我は御身より産み落とされし者。名をチ〇ポと申す。修羅に身を置く故二度とお目通り叶わぬものと考えていたが、よもや斯様な地で御逢い出来るとは恐悦の至り!」
ベルベルは少し動揺したようだったが、何やら納得したように頷くと、
「ポンちゃん!」
「ぽん………ちゃん?」
怪訝そうにベルベルを見上げるチ〇ポ。
それを見て「うん!」と頷いたベルベルが、
「お前は今日からポンちゃん! ママのことはママって呼ぶんだぞ~?」
「―――!」
チ〇ポは暫く俯き、肩を震わせていたが、ようやく向き直ると、
「まさか愛称まで授かるとはこのチ〇ポ! 母上………いやママ上の愛に打ち震えてならぬ! よもやこの喜び、如何様にして貴方に伝えれば宜しいか!? 言葉を幾千、いや幾万と並べようとその全容を伝えること叶わぬ!!」
すっごい喜んでるみたいだ。
「ママ上よ! 我を産み、更には大いなる愛まで受けたこの大恩、如何にして返せばよい!? 我に何を求むる!?」
ベルベルは「えー!?」と困っている様子だったが、「じゃあ」と前置きして俺を指差し、
「パパの言うこと聞いてあげなさい!」
「………承知!」
立ち上がったチ〇ポはこちらに歩み寄り、
「パパ上よ。ウヌに用があると言っていたな? 申せ。叶えてやろう」
パパ上って………お前見た目おっさんだぞ?
言われる身にもなってくれ、と言いたいところだが、この展開は願ったり叶ったりだ!
「ではチ〇ポよ。貴様に言い渡す―――」
俺は手を広げ、
「この場にいるヒヨコを除く全ての者を打ち倒し、その上で俺達をここから逃がすのだ」
「………よかろう!」
チ〇ポはそう言うと、まずタウロスの方へ歩み寄る。
「モ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!!」
タウロスがすぐさま反応。
気迫で軟化した土を吹き飛ばし、抉れた地面を蹴ってその巨躯を飛び上がらせ―――
「ン゛モ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!」
チ〇ポの脳天めがけて棍棒を振り下ろす。
が、
「モオッ!?」
チ〇ポの周囲を旋回していた玉の一つが割って入り、タウロスの一撃を受け止める。
衝撃に大地が捲り上がり、轟音を伴う爆風が吹き荒れ、その場にいる全員の身体を打つ。
が、当のチ〇ポはビクともせず、腕を組んだまま真っすぐとタウロスを見据え、
「中々やるではないか牛の者よ」
「………ギ!ギイィ―――ッ!」
タウロスは中空で更に身体を膨張させ、その一撃に力を込める。
だが中空に浮いているだけのはずの玉が、僅かも動かない。
そして、微動だにせず、ただ息を吸い込んだチ〇ポが、
「沈咆(ちんぽう)!!!!!」
と口にした刹那―――タウロスが消滅する。
否、消滅したのではない。そう錯覚させるほど高速で吹き飛んだのだ。
その様子を目で追うことが出来た訳ではない。
しかし、タウロスが消えた直後、チ〇ポの視線の先―――北にあったはずの城壁、そしてその奥にあったはずの魔王城が跡形も無くなっていて、さらにその奥にそびえる山が炸裂したのだ。
その山まで深く抉れた地面が直線上に伸びていることから、チ〇ポが何らかの攻撃によって遙か北の山までタウロスを吹き飛ばした、と考える他ない。
魔法か、それとも別の何かか?
その規格外過ぎるが故の「不可視の一撃」は、俺に推測の余地すら与えてくれない。
ただ一つ分かることといえば、急拵えの「武の結晶」が、意図せず生み出された十年物の「武の結晶」に敗北した、ということだ。
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