第二十六話 やっべえぞ③
「黒炎魔法―――『エグ・ヤンデレア』!!!」
「大地魔法―――『ユカ・デトル』!!!」
降り注ぐ黒い炎弾を大きく反った土壁が遮る。
が、上からの攻撃を防御する為に無理矢理曲げられた土壁は脆く、相殺仕切れず爆散する。
「っくッ!! 鱗鎧魔法―――『ウロコヤン』!」
爆風から身を守る為、寸でのところで自身の魔法防御力を高める。
「―――ッ!!!」
しかし爆風に混ざる土のつぶてを躱しきれず、手や足に被弾する。
それほど大きなダメージでは無いが、土煙により視界を奪われてしまう。
魔王軍の中でも俺に次ぐ魔法使いであるサキュバスが相手。
本当なら全て魔障結界で防御したいところだが、それは既にピヨコ達に発動中。
ベルベルを守る盾を取り去る訳にもいかず、土の壁なんかで対応してみたワケだが。
これは本当に厄介なことになった。
いくらなんでも早すぎる。
五分間も続く神級魔法を食らった直後だぞ?
他の奴らが一向に追ってこないことからも分かる通り、普通なら激痛で起き上がることすら出来ないはずだ。
だが、この二人は魔法が切れた直後から行動を開始し、俺に逃げる暇を与えなかった。
さすがは四天王、といったところか。
二人の実力は理解していたつもりだが、これほど執念深いとは思わなかった。
サキュバスに頭の上を取られ、そしてもうすぐタウロスが到着する。
どうにか体勢を整え、迎撃しなくては!
まずはこの土煙だ。
どこから魔法が飛んでくるか分からない。
範囲が広い魔法で牽制しつつ、視界を晴らす!
風雷魔法―――
「―――『トン・デシモタ』!!!」
俺を中心に風の渦が巻き上がる。
土煙を霧散させ、上空のサキュバスに襲い掛かる。
が、サキュバスは両手を上げ、魔力を凝集させながら、
「そんな魔法効くかァ!!!!」
風の刃に身体を切りながらも、彼女は魔力の凝集を続ける。
その表情は殺意に満ち、まるで自身のケガなど気にも留めていない様子。
そして魔力を凝縮した両手を俺に向けて、
「『マージム・ヤンデレア』ァァァ!!!」
出し惜しみなく最大火力の黒炎魔法を放つ。
大扉前で受けた時よりもやや小さいが、それでも周囲を広範囲に渡って消し炭にする威力があろうことはすぐに理解出来た。
これは普通の盾じゃ防げないッ!
中級、いや上級の攻撃魔法で―――相殺する!
上級氷結魔法―――
「―――『バリサ・ブイヤンケ』!!!」
迫り来る黒炎の塊にかざした両手から、直線状に猛吹雪を詰め込んだような光線を放つ。
光線は黒炎の中心に着弾し、数秒の拮抗の後に徐々に押し返し始める。
このまま倒しらないと、タウロスとの挟み撃ちになる。
そう考えた俺は更に魔力を込め、吹雪の勢いを上昇させる。
「うおおおおおおおおおお!!!!」
「すごいピヨね~!」
「ブレイン頑張れー!」
魔障結界の中にいる二人は眼前で繰り広げられる魔国領最高峰の魔法戦に全く怯えていない様子。
顔を見る余裕なんて無いが、ピヨコは状況を何にも理解してないだろう。絶対アホの顔してる。
ベルベルは………多分悲壮感は無いな。必死の応援、というより黄色い声援って感じだ。
俺頑張るから見ててくれ二人とも!!
だが、応援される俺を見て、更に気分を害した様子のサキュバスが、
「死ねオラロリコンケモナァがァァ!!!!」
「っぐぅ………おおおおお誰がロリコンケモナーだああああああ!!!!」
怒りにより圧力を増した黒炎を、更に魔力を投入して押し返す。
だが、黒炎を返しきることは出来ておらず、時間を要してしまっているが為に、
「モ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!」
タウロスが城門の近くまで迫って来ており、手に持つ棍棒で俺の左の横っ腹をブン殴ろうとする構え。
サキュバスを倒すことはとうとう間に合わなかった。
しかし、このまま殴られてやるわけにはいかない!
俺は氷結魔法に当てていた両手のうち左手のみを外し、タウロスが踏み込む地面へ向けて、
大地魔法―――
「―――『ユカ・ヌメルデ』!!!」
タウロスがその巨躯で踏みしめていた地面が軟化し、タウロスは足を取られる。
よし。そのまま転ばせて―――!?
「………ンンンモオオオオオオオ!!!!」
タウロスは鍛え抜かれた体幹で姿勢を持ち直すと、棍棒の柄を地面に突き刺し、その上に飛び乗る。
その勢いのままに棍棒を踏み台にして飛び上がり、両手を組んで大槌のように振りかぶる。
牛魔人は魔国領の中では鬼魔人に次ぐ怪力を持つ一族。
例え素手であっても、防御魔法をしていない状態でマトモに食らえば即死する可能性だってある。
一人称と語尾が「モー」のクセに中々頭を使ったようだが、当然受けてやる道理は無い!
爆裂魔法―――
「―――『ブワア』!!!」
かざした左手から放った炎弾は中空のタウロスに着弾し、炸裂。
下級の為殺傷力こそないものの、踏ん張りの効かない状態ではタウロスでさえも吹き飛ばす力はある。
タウロスは軟化した地面に落ちた。
これで少しは動きを封じれるだろう。
だからサキュバスに集中して―――!
「くっ………ぎゃあああああああ!!!」
ようやく黒炎魔法を打ち消し、冷気の光線がサキュバスを襲う。
が、かなり黒炎に勢いを消されていたようで、倒しきれないどころかサキュバスを地面に落とすことも出来なかった。
魔法が直撃したサキュバスは乱れた髪をかき上げながら、
「一体、いくつの魔法を同時に使う気ですかア………?」
その言葉には呆れや驚愕が込められているが、険しい表情を見るに戦意は全く衰えていない様子。
もう本当にどちらかが死ぬまで終わらなさそうな気がしてきた。
俺は息を整え、額の汗を拭い、
「降りてきてくれたら教えてあげるよ」
サキュバスは俺の答えに鼻を鳴らして返す。
そして自身の首を二、三度鳴らし、「でも」と前置きしつつ、
「そんな調子で、いつまで魔力が持つのカシラアア!!?」
彼女はそのまま両手をそれぞれ振りかぶり、
「『ヤンデレア』!『ヤンデレア』!『ヤンデレア』!『ヤンデレア』!『ヤンデレア』!『ヤンデレア』!『ヤンデレア』!『ヤンデレア』ァアアア!!!」
黒い火球を連発する。
一つ一つの威力自体はそれほどではない。
が、こうも数が多いと厄介だ。
タウロスは―――まだ軟化した地面に足を取られている。
となると、今こそサキュバスを落とすチャンス!
多少の被弾は覚悟して―――!
重力魔法―――
「―――『オモス・ギンネン』!!!………っく!!!」
「―――ッギイ!??」
三発の火球をマトモに受け、地面に触れた火球が黒煙をあげる。
が、魔法防御を高めていたお陰か大きな負傷ではない。
サキュバスは強力な引力で地に叩きつけられ、小さく呻く。
それでもこちらに手を向けており、すぐにでも魔法を放ってやろうという根性が見える。
だが、タウロスもサキュバスも近くで行動を制限されている状況―――こここそ好機。
俺は地に伏した二人それぞれに手をかざし、
風雷魔法―――
「―――『シン・デシモタ』!!!」
両手から雷撃を放ち、二人を痺れさせる。
「―――!」
サキュバス、タウロス両名は一瞬白目を剥いたが、すぐに立ち直り痺れの回復を待つ構え。
本当はもっと高威力の魔法で倒してしまいたかったが、ここを抜けても暫くは逃走生活。
出来るだけ魔力は温存しておきたい。
しかし、魔力は既に六割以上消費してしまった。
残り四割強、といったところでどう立ち回るか?
じっくりと考えを練りたいところではあるが、今はそんな時間は無い。
とにかく今はこの場から一刻も早く逃げる!
「ピヨコ!ベルベル! お待たせ! 行こうか!」
「すごかったピヨね~!」
「「ね~!」」
「でもお腹空いちゃったねー?」
「「ね~!!」」
二人は顔を見合わせては同じように首を傾け、楽し気にしている。
なんか仲良くなってるな………。
まあ良いことか! 宜しくやってくれ!
俺達は城門を背にして向かって左側、半壊した城壁に沿って東へ向かう。
魔王城の周囲は、西側は森林地帯、そして東側はかつて俺がちょっとだけやらかしてハチャメチャになった石柱だらけの荒野、その後に人の住処との境を隔てる山々が続く。
かつての荒野は平坦だったが、今はかなり凹凸があり、魔王城から見ると岡のようになっている。
魔王城の外の魔人の間では、その見た目から「針山」なんて呼ばれているとかいないとか。
とにかく針山を超えさえすれば、針山が魔王城からの視界を遮ってくれるはず。
もう日が暮れてきてしまっているが、なんとか今日中に針山超えを目指そう。
ん?
前方から地鳴り。針山の裏からだ。
おそらく大勢が地を蹴る音―――魔獣か?
おそらく百も居ないだろうが………。
ここは魔国領。
そして俺は「魔王肛門吸込転送」の罪人。
となると、前方から来るのは間違いなく―――敵だ。
徐々に音が大きくなり、針山の頂上に正体を表す。
魔獣騎兵だ。
四足魔獣に跨り、槍をつがえた獣魔人武装兵の一団。
数は七~八十といったところか。
掲げる旗は赤い魔王軍の旗。
そしてもう一つ―――
「罪人ブレインを発見!!!! 捕らえよォオオオオオ!!!!」
ロン毛の獅子の紋章―――ライオネル騎兵隊のお出ましだ。
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