第十三話 俺を愛する君の為に
「『自分』―――つまりご自身のみを性愛し、自身へ向け精を放つ性癖。それを良しとしなかった神は『歳を取らない』という悠久の時を与え、自ら見つめなおすよう強いた。それが、ブレイン様が若い姿を保ったまま永き時を生きる理由。合っておりますかしら?」
「………ああ」
サキュバスの問いかけに同意する。
「『自分が性癖』だってぇ!? イ、イカれてるッ!!」
「ッ!? じ、自分を、性的な目で見、見ているってのか!?」
「上司の部屋でニコニコ威嚇脱糞男兼反逆狼煙革命脱糞男、兼不老不死自分射精男………ッ!!!!」
サキュバスの暴露は、会議室の空気を大きく跳ね上げた。
ある者は困惑、またある者は驚愕の表情をしているが、皆もれなく興奮していた。
それもそのはず。魔王軍の参謀を務める謎の人間の正体が明かされ、それが極めて予想外だったからだ。
俺にとっては性癖を暴露されて大きな精神的ダメージを受けたが、頭がおかしくて脅威の力を持つ異世界召喚者―――魔王を消滅させることが出来る人間という誤解を防ぐ為の尊い犠牲と考えれば安いものだ。
これで流れが変わる。いや変わってくれ。頼むから。
ライオネルは「え、自分が性癖………そう。いやしかし」としばしボソボソと自問自答していたが、ようやく向き直る。
そして「話は分かった」と前置きし、
「だがしかしっ! あなたが異世界召喚者ではないと裏付ける証拠とはならない! サキュバス殿の『癖読み』はあくまで性癖を確認できるだけであって、それと『神の矯正』とやらを結びつけただけの推論に過ぎん!ブレイン様はその都合の良い事実に乗っただけのこと! その異常性癖も不老不死も、あらゆる異常行動さえも!あなたが『異世界召喚者だから』と考えれば全ての辻褄が合う!」
こいつ、完全に俺を異世界召喚者だと決め打ちしてやがる!
何か言わなければまた折角変わりつつある流れを引き戻される!
「それも貴様の推論だろう! サキュバスの言った通り、俺は二十歳の時に神と会い、『神の矯正』を受け取った!」
「では証拠はありますか!? あなたが異世界召喚者ではなく、ただの人間であると! そして『神の矯正』を受けた身であると!?」
ライオネルは勢いを増し、俺を問い詰める。
「神の矯正」を受けたのは間違いない事実、しかしそれを裏付ける証拠は無い。
俺は不老不死でありながら「異世界召喚者」という代表的な異端者が存在することによって、神の干渉を受けたことを信じてもらえないのだ。
まさかこれほど異世界召喚者を恨む日が来ようとは想像もしていなかった。だが―――
「証拠は無い! だが俺が異世界召喚者だという証拠も無いはずだ! 貴様こそ、俺に提示して見せろ! 俺が『頭のおかしな異世界召喚者』だという証拠を!」
証拠は無いはずだ。だってライオネルが並べ立てた見当違いの推理だからだ。
これで横一線。この議論は膠着し、ひとまず結論を出すことが出来なくなるに違いない。
そう確信した時、会議室のドアが開かれる。
入室したのは、普段ぺギルが連れていた梟の魔人だった。
俺はぺギルが小さく笑ったのを見逃さなかった。
「失礼致しますッ!」
「おっ? 待ってましたよぉ~。それで? どうでした? 皆さんに教えてあげてくださ~い」
嫌な予感がする。
何だ?何か証拠でも見つかったか?何を報告する気だ?
―――ぺギルは一体何を考えている!?
梟の魔人は出口の前で直立し、
「はっ! 私はぺギル様の命により、事件現場に残された『ウンチ』の調査を実施し、結果報告に参りました! そして―――『ウンチ』に大量の魔力が含まれていることを確認しましたっ!!!」
ウンチの調査!? 魔力!?
そうか!
ウンチは脱糞魔法「クソデルフィア」によって魔力から生み出したものだ。魔力が残っていても不思議では無い。
だが、もはや俺が脱糞した理由は威嚇とマーキングとされている状況、魔力が見つかったところで何の影響もないはずだが?
「………証拠、見つかったようですねぇ?」
薄ら笑いを浮かべるぺギルがそう言われ、なにやら確信した様子のライオネルが俺に向き直る。
「―――オシリアナ一族。ブレイン様は勿論ご存じですよね?」
オシリアナ一族―――異世界召喚魔法を編み出した魔法使いを祖とする一族だ。
「それが一体どうした?」
「オシリアナ一族の祖である魔法使いは元々別の家名を名乗っていたが、召喚者が度々『あること』を口にしたことが由来でオシリアナという家名にした、というのはあまりにも有名な話」
「あぁ。確か異世界召喚者は召喚される直前、『謎の男のお尻の穴に吸い込まれた』と全員が証言して―――!?」
そういえば、ライオネルはこの推理を始める時、確かこう言っていた―――「肛門が凶器だったんだ」と。
もしや、いやまさか。こいつの推理の着地はそこか!?
「仰る通り! 異世界召喚の仕組みは、異世界の謎の男の肛門とこの世界を繋ぎ、男が肛門から吸い込んだ人間をこの世界に転送するというもの! このことから、異世界には肛門から人を吸い込む力を持った者がいると分かる。そして、ブレイン様のウンチから魔力が検出―――つまりブレイン様の肛門には、ウンチに大量にこびりつくほどの魔力が存在していた、ということ」
「待て待て! 待ってくれ」
「思えば至極当然だったんです。あちらから転送出来るなら、こちらからも転送させることだって出来るはず!つまり! ブレイン様、あなたは肛門と異世界を繋ぐ能力を持った異世界召喚者であり、魔王様を肛門から異世界に転送した!」
「ち、ちがう! それなら壁の穴はどう説明する!? 」
ライオネルは机を強く叩いた後、俺に指を差して、
「そんなものは捜査を攪乱する為の偽装に決まっている! ………もういいでしょう? 魔王様失踪事件、いや魔王様消滅事件の犯人は―――ブレイン様、あなただぁ!」
おいおい何でだ!? 何を間違えた!?
俺は自分の性癖を暴露されてまで、召喚者ではないと示したのに!?
それをこんな、偶然ハマっただけの推理で押し切られるって言うのか!?
「これは、決まりだな」
「あんなに大柄な魔王様を肛門から吸い込むなんて……ッ!! イ、イカレてるッ!!!」
「上司の部屋でニコニコ威嚇脱糞男兼反逆狼煙革命脱糞男兼不老不死自分射精男且つ大柄魔王吸込肛門男………ッ!!!!」」
俺の犯行で完全決着、という雰囲気が会議室に充満。
既にほとんどの者が、その眼に「俺の処刑」というゴールを捉えていた。
「えー。では、魔王殺害の犯人はブレイン様、ということで進めて宜しいか? 何か意見のある者は?」
「違う!違う違う!! 俺は異世界召喚者じゃないし、魔王を転送なんてしていない!!!」
ライオネルの進行を妨げるように、俺は必死の釈明を続ける。
「信じてくれ! なあ? 俺はこれまで参謀として、宰相として! お前ら魔族の為に働いてきたんだ! それなのに、それなのにあんまりだ!!」
が、皆の目には、俺は死ぬ間際に許しを乞う情けない男としか映っていないようで、擁護の声どころか目を伏せるばかり。
このままでは処刑されてしまう!何か言わないと!考えろ考えろ!!
いっその事逃げるか!?
いや魔力が回復していないし、それにこの距離はタウロスの間合い。
部屋を出る前に確実に殺される。
なら真実を話すか!?
真実を話したとしても、犯行の内容が「魔法による異世界転送」から「チ〇ポ叩きによるチ〇ポの人間化と魔王の少女化」になるだけで、処刑は免れないだろう。
何か無いか。どうすれば生きられるのか。
俺は逆転の芽を探す。
だが、見つからない。
完全に八方塞がりで、どこへ向かっても同じ結末。
―――俺は、もう殺されるのか。
ライオネルは呆然とする俺に哀れみの目を向けて頭を振る。
「では、何も無いようなので、魔王様殺害の罪によりブレイン様、いえ魔王軍参謀:ブレインを処け」
「待ってください!」
ライオネルの宣告を前に、サキュバスが立ち上がる。
「まだ、まだですわ! 今の話ではまだ分かっていないことがありますっ! 少女、報告にあった謎の少女のことがまだ何も分かっておりませんわっ! それにっ!何か、何かありますわよね? ね? ブレイン様?」
サキュバスの意図は明白だった。
彼女は少女の話題でこの展開をひっくり返せるとは思っていない。
だが、彼女は俺が無罪だと、俺がこの展開をひっくり返せると信じてくれているのだ。
だから、俺にもう一度真実を話す時間をもたらそうとしているのだ。
だが、それではダメなんだ。
サキュバスは俺のことをウンチもしないようなキレイな生き物だと思っていたみたいだが、実際は夜な夜な魔王のチ〇ポタコ殴りにしてストレス解消していたクソまみれ野郎なんだ。
ごめんサキュバス。
優しい君のことを裏切ってしまい、本当に心が痛いよ。
ありがとうサキュバス。
君のアプローチはとても嬉しかったし、愛おしかった。
ただ、チ〇ポが全く反応しなかったんだ。ごめんね。
でも、こんなことになるなら、もっと君と話したかった。君に触れたかった。
―――君を愛してやりたかった。
あぁ。君の夢を壊さない為に、チ〇ポ叩きは墓まで持っていこう。
せめて君の中でだけ、清いままの俺でいさせてくれ。
俺を愛してくれて、ありがとう。
「何も………ありま」
「あぁ~! そういうことならぁ、処刑する前に『拷問』しましょうよぉ! このまま何も喋らずに死なれちゃ大損ですよぉ」
「実は俺は毎晩魔王の寝室に忍びこんで魔王のチ〇ポを魔法とか武器でタコ殴りにするっていうストレス発散をしていたんだたしか十年くらい前からかな?あっ、一回魔王の顔にウンチついてたことあったでしょ?アレ俺。ちなみに忍び込む方法は転送魔法の魔札。ベッドの裏に貼ってあるから見てみて!それで、爆裂魔法をチ〇ポに打った時に魔王のチ〇ポ火傷させちゃってさ!? ビックリだよね?あっ!魔王ってケガするんだってあの時は本当に驚いたよ。それで俺はケガして魔王が起きたりしないようにチ〇ポに強化魔法をかけることにしたんだ!それからは色んな強化魔法をかけたり色んな武器で叩いたりしてどの組み合わせが一番ストレス解消になるかを試していたんだ!あっ武器ならタウロスの魔斧が一番良かったから何回も使ってボロボロになっちゃったごめんね? で!これが昨日の夜のことだけどいつものように強化魔法かけててなんかつまんないな~って思って『オドッテマウ』の魔法掛けてみたんだ。そしたらチ〇ポがもの凄い早さで回りだしてさ?そしたらチ〇ポが魔王から分離しちゃって光りだした!と思ったらチ〇ポが『我が名はチ〇ポ』とか言うおっさんになったの!それでそいつが壁を破壊して出て行っちゃったもんだから大焦りしてとりあえず魔王様起こそうと思って見たら女の子になっててもうビックリにビックリ重ねすぎてもうビックリしないっていうかまあビックリしたんだけどね!?それで逃げようとしたんだけどフェンリルが来たら臭い嗅がれて色々バレる!って思ったからフェンリルの嗅覚破壊する為に脱糞魔法でウンチしたけど間に合わなくって見つかっちゃったってワケ!!!! どう?」
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