第十一話 君の性癖な~に?
事件現場に残されたウンチを巡る答弁に降って湧いたガニマタの推理は、フェンリルの嗅覚を警戒しての隠蔽脱糞であることに気付いていたかにみえた。
が、結局真実とは異なるところに着地し、俺は九死に一生を得―――なかった。
俺が隠そうとしている「魔王のチ〇ポ叩き」。
それが露見したら魔王暗殺の罪で処刑されてしまうのでは?
そんな最悪を想定し、そうならない為に考えを巡らせていたのに。
脱糞は魔王の領土に突き立てた反逆の狼煙であると。
そしてこれは、「魔王殺害」を示唆する物的証拠であると。
―――俺が魔王を殺したんじゃないか、と。
想定し、回避すべきと考えていた最悪が、気付けばすぐ目の前にきてしまったのだ。
それもそこまで行き着くまでに必要なはずの道程を全て省略して、だ。
チ〇ポ叩きを隠すとか、脱糞の本当の意図を気付かせないとか、そんな場合では無くなってしまった。
「なんてことだ! ま、まさか参謀殿が………」
「魔王を殺して、その上に脱糞だと………ッ!? イ、イカれてるッ!! 」
「上司の部屋でニコニコ威嚇脱糞男兼反逆狼煙革命脱糞男………ッ!!!!」
「これが本当なら、ヤバいんじゃないか? 」
「あぁ……。魔国領のトップが二人とも………」
会議室はもはや弁明を聞く余地もなく、俺を処刑する空気が支配していた。
「違うっ! 俺は魔王を殺していないッ!」
俺はそんな雰囲気を取り払いたく、咄嗟に否定を口にする。
が、この事情聴取は「俺の処刑」をゴールと見据え、進行し始める。
「はっ…! トムは危なっかしいところはあるが、勘が鋭いと言えなくもないようなあるような、そうでもないようなところがあった! まさかトムは、参謀による魔王様暗殺に気付いていた……!? だから、この男はトムを殺した! き、貴様あああああッ!!!! 」
森林兵長:ムカンディが稚拙な推理を並べ立てて机に乗り出し、大顎を広げるムカデ魔人特有の戦闘態勢を見せる。
「だから殺してないって言ってるだろうが!! それにお前の部下が死んだのは」
「落ち着くモォ!」
四天王:牛魔人タウロスがその太い腕を机に叩きつけ、声を荒げる。
「魔王様を殺す!? そんなことが本当に出来ると思ってンのかモー!? 参謀は確かに強えが、モーの魔斧でも傷一つ付けらンねえ魔王様を殺せるなンて考えらンねえモー!モー」
タウロスの指摘に会議室が静まり返る。
実際、タウロスの言う通り、俺が魔王様に傷をつけたのは、未強化のチ〇ポに至近距離で爆裂魔法を使った時だけ。それもごく小さな火傷だ。
そう、そうだぞ皆! 魔王はバカだけどただ魔王なんじゃない! 強いから魔王なんだよ! 俺に魔王を殺す方法なんて無いんだよ!
タウロスありがとう! 魔斧は手入れして返すよ!
これで殺害の線は消え、俺は殺人容疑から解放されて魔王失踪の重要参考人に戻れる。
そうなればまだ俺に挽回の機会があるはず!
絶体絶命に一筋の光明が差した、そう考えた時だった。
「そ、そうか!! 繋がるッ!繋がるゾォ!!!」
それまで進行役に徹していたはずのライオネルが立ち上がる。
「肛門……肛門だったんだ!!! 肛門が凶器だったんだ!!!」
突然「コーモンコーモン」と言い出す異常行動に俺を含めた全員が面食らうが、何やら興奮状態のライオネルは全く意に介さない。
「魔王様は殺せない。それは皆の共通認識のはず。それは私も納得だ。それに現場に血痕などは無く、それゆえ失踪事件としていたのだ。だが殺すのではなく、この世界から魔王様という存在を消滅させる方法があるとしたら?」
そんな魔法あったらとっくに魔王を消滅させてるわ!
ていうかお前議長だろ!なに進行忘れて推理に参加してんだぁ!?
「存在を消滅? そんな魔法があるわけないだろう!!」
「いえブレイン様、あるんですよ。いや、あるに違いない、というべきか。この魔国領で唯一の人間であるあなたなら出来る方法が!」
人間なら出来る? 一体何を言ってる?
心当たりがない俺だけでなく、他の兵士達も困惑している様子。
当然だ。存在を消滅させる魔法など
「―――異世界召喚」
ぺギルがぽつりと呟く。
は? それがどうした?
「その通りだぺギル殿。異世界召喚―――我々魔人が人間の国への侵攻を中止せざるを得なくなった最大の理由にして人間の集団魔法技術の最高傑作。召喚された人間はどういうわけか膨大な魔力量と特殊な技能を持ち、その戦闘力は一人で数十の魔人を葬るほど」
おいおい、まさか………
「俺が異世界召喚者で、人を消滅させる魔法が使えるとでも?」
「その通りですブレイン様。 よくよく考えてみれば、これまでも怪しい点はたくさんありました。まず、人間である貴方が何故魔王軍にいる? この世界で人間として生まれたなら魔人はもれなく敵であり、憎み、恐れるように育てられたはずです。ましてや若き頃人間界を蹂躙されていた魔王様に与し、参謀となって魔人を率いるなど、正気の沙汰とは思えません」
「そんなものただの一般論だ! 事実、近年は人間界で生活する魔人も少なからず存在していると聞いている。魔人と人間が必ずしも敵対するなどというのは、老いぼれた価値観だ」
「ええ。一般論? 古い価値観? その通りですとも! ただこれが世界の常識なのです。では何故あなたが魔王軍にいるのか?『異世界召喚者は皆変わっている』からだ! 絵本にもなった異世界召喚者『我慢のテツヤ』にこんな逸話がある!ある淫魔人の攻撃を受けて血を流すテツヤは言った!『ンギモチイイイイイ!!!』と! 狂っている! 正気の沙汰ではない! 何故そんなことが出来るのか!? 『異世界召喚者は皆変わっている』からだ! この世界に住む我々の価値観を蹂躙するのが異世界召喚者であり、それは『人間でありながら魔王に与する』貴方も同じだ!」
え!? 攻撃食らって喘ぎ声出すヤツと同じ分類されてるの!?
じゃあキモイって思われてたってコト!?
あと俺異世界召喚者じゃないですぅ!
この世界の人間の間に産まれた普通の人間ですぅ!
「それはただ魔王様の武力と野望に感銘しただけのこと! 俺は異世界召喚者ではなく、この世界で産まれた人間だ!」
「では、何故魔王様の寝室で脱糞した!? フェンリルに見つかっても尚叫び声を上げ脱糞を続けた!? 何故貴方は人間でありながら―――何百年も生きている!?」
俺が人間なのに何百年も生きている理由。それは―――
「『神の矯正』、ですわね」
そう言ったのは少し疲れた様子で髪をかき上げるサキュバスだ。
俺がウンチをする生き物であったことに自失していたはずだが、
「知ってたのか?」
「ええ。淫魔人の性質上、そういった話はよく耳にしますから。私から説明しても宜しくて?」
正直なところ、死ぬまで隠していたかったが、こうなった以上止むを得ない。
それに、他の人間が言うほうが説得力があるだろう。
俺はサキュバスへ向けて頷く。
「承知致しましたわ。では、まず『神の矯正』についてお話致します。『神の矯正』とは、神々が『え!? こいつ異常性癖じゃんコワッ!』となった人を一般性癖に矯正する為に与える、人知を超えた性質のことです。若き頃のブレイン様はその性癖を神に咎められ、『身体が年齢を重ねなくなる』矯正を受けたのです」
サキュバスの語る内容を聞き入っていたライオネルは信じられない、といった様子で呻ったあと、
「仮にその話が真実だったとする。だが、ブレイン様が受けているのは言わば『不老不死』! 世の権力者が欲して止まないであろうソレを異常性癖の矯正の為に与える、というのがどうも納得がいかん。その『神に咎められるほどの異常性癖』の内容を聞けば理解できると?」
「その通りですわ。そして、ブレイン様の性癖は私の『癖読みの目』にて確認しております。『癖読みの目』の効果について説明を聞きたい方はいらっしゃるかしら?」
その場にいた者全員が首を猛烈に横に振る。
まあ無理もない。
サキュバスの「癖読み」は、見た人の最も強い性癖を見ることが出来る能力だからだ。
全員が性癖を握られており、「癖読み」を疑おうものならサキュバスに性癖を公開されてしまうからだ。
全員の強張った様子に微笑したあと、姿勢を正したサキュバスが口を開く。
「では、申し上げます。ブレイン様の性癖。それは―――
―――『自分』ですわ」
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