00-04. 出発しましょう


 エネルギー問題はほぼ解決したが、問題も増えた。


 魔石を用いてマジウムをエネルギー変換する方法は確立し(効率は悪い)、周囲の地形を変形させて施設をカモフラージュすることもある程度できた。

 しかし周囲の汚染を消費するというコトは、レベル7の汚染された森の中に中和された清浄地帯が出来上がるという不自然で、まぁ目に見て分かるほどの変化は数年かかるだろうが、それでも目立つことこの上ない。

 施設は僕の覚醒に向けて74日前から準備を始め、どの段階で「活性化」の情報が察知されたのが謎だから、対策としては活動状況を抑えるしかなく、休眠かそれに近い状態がいいだろう。

 つまり、僕は施設を出て行くしかない。

 休眠では生活レベルを維持できず、そも補給もないので食糧が尽きる。

 魔物を食う気はゼンゼンない。


 次に問題になるのが、現在の世界情勢だ。

 剣士とダンクの知識によれば、人間と亜人がそれぞれの文化圏を持ち、交流したり敵対したりして村や町を形成して生活している、らしい。

 亜人ってなんだ、と思いつつ、生活そのものは施設のそれと格差がある。ただ野外キャンプだとでも思えば順応できないコトもない。

 そも、休眠状態の施設から遠く離れればシステムのサポートは期待できないし。


 要するに、千年前と前代では文化レベルが劣化しているよう。

 うまい例えが出てこないが、千年前に巷で流行っていた中世を舞台にした冒険小説のような、剣と魔法の世界、みたいな?

 マジか。魔法を使えない5歳児にはサバイバルむずくねぇ?


 システムには休眠と、低活動でも出来うる範囲で施設の撤収を命じた。

 本音を言えば、汚染は地上より地下へ根深く浸透しており、逆説では汚染源が地下にある可能性が高い。同じく、地上部分は植物や風化の浸食によって都市建造物は消失しているが、地下にはまだ施設が、使用可能な資材が残っている、かも知れない。

 これらの調査を本格的に行いたいが、しかし最初の問題へ返り、活動を広範囲化させれば休眠の意味がなく、感知された理屈が分からない以上、余計な注目は避けたい。

 どっちみち、調査をやりたがっているのはシステムで、僕はどうでもいい。

 知りたいけど、面倒覚悟で実行するほどの興味はない。


 システムの報告によると、冒険者2名の鮮度が悪くなく、体組織の加味や複製で(ある程度)自由に個体を製作できる、とのこと。

 職業は剣士とタンク。素材の経験を反映させれば楽だし、現代での魔術知識がないし、司祭なんて意味不明でわからない。

 知識は「冒険者」から抽出したモノと自分達の基礎知識程度のモノを入れる。

「冒険者」のモノの精度かわからないし、僕も学習したが理論のよくわからない事柄が多いし、ド辺境の田舎から初めて出てきました、みたいな設定にしておこう。


 他にも細々あったし、まだ不明点も多いけれど。

 けれど、もう時間切れの知識不足で資材がない。

 僕はもう一度、医療室へ来た。

 相変わらず部屋に入るには苦労するし、部屋中央に落ち込んでいるというか根を這わせている大樹がある。医療室としてはもう滅菌性など瓦解している空間だが、システムはこの部屋を残す決断をした。

 医療としてはもう機能せず、いくら施設を隠匿しても上空からは丸見えで、でもシステムは残すことを最後まで譲らなかった。

 残しても、意味はないのに。


 部屋中央にはポットが幾つか並んでいるが、僕の使っていた治療用以外のほとんどは大樹の根が覆い、潰され飲まれた部品を寝床に草花が咲いている。

 栄養になるかは、知らんが。

 大樹へ頭を下げ、右手を胸に当てる。

「行って参ります」

 一言、感傷で呟いて、部屋を出る。


 さてさて、出発しましょうか。


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