00-03. 回収と知識


 子供が何でこんな所にいるんだ!


 解析すると、こんなコトを叫んでいたらしい。

 施設に突っ込んできたのは「ぼうけんしゃ」と呼ばれる人間?らしく「けんし」と「たんく」?の役割を負っていた。森に残って逃げてしまったのは「ゆみつかい」と「まほうつかい」と「しさい」??らしい。「けんし」を解析したシステムの試算では、生き残り3人だけでは「樹海」を抜けて「街」まで引き返せる確率は2割りを切るとか。

 僕は「ふぅん」呟きながら腕を組む。

 医療室で。


 まだ活動中だった医療室で「ぼうけんしゃ」、冒険者の剣士、という個体の頭部を解析した。運よく施設内へ転がってきてくれたからいいが、運ぶのが大変だった。

 剣士の記憶によれば「森の中で動く影」は「魔物」で、大型種と戦闘中に「だんじょん(施設のこと?)」へ突っ込んでいき、その先で「子供」を見つけ、救助しようと同じく駆け込んだ、という。


 今回は運が良くて、ヒドイ目にあった。

 魔物はシステムの保護範囲に入るなり真っ二つになったが、普段の施設周辺をうろつく魔物を除去するのと違い、勢いのままに外壁(の、あったはずの場所)直前で焼き裂かれて、間際にいた僕はもろに魔物の体液を浴びた。浴びただけなら洗浄すればいいのだが、魔物の汚染濃度が酷過ぎた。危うく僕自身がシステムから弾かれそうになったのは笑い話で済まされない。ともかくシステムの誤認を解除し、幼体に鞭打ってなんとか剣士の頭部を医療室へ持ち込んだ。

 システムが「医療室を廃棄しとかなくてよかったでしょ(ドヤ顔)」的なことを言ってきたが、無視する。医療室が一番エネルギー消費していたのだから、あの段階での判断は間違ってない。

 間違ってない。

 ともかく、現代人の知識と魔物のおかげで、汚染とエネルギー問題に目処がつきそう。

 魔物の体内に結晶があり、結晶を冒険者は魔石と呼んでおり、魔石に魔力を込め様々な目的で使うと知識が提示した。

 魔石の成分は、ただのタンパク質だった。ただし分子構造はきわめて複雑で、おそらく汚染環境で耐える為の進化か適応か、マジウムを浸透し一定量を保持できる機能を持っていた。

 タンパク質にこんな使い方があるとはね、と適応の神秘を感じつつ、方陣と組み合わせて簡易的な汚染除去に仕立て、いざ施設外へ。

 目的は3つ。外壁の穴外に散らばる、おそらく魔物の残骸から魔石を集め、そして「たんく」の、出来れば頭部を回収する。剣士ほどの鮮度は期待できないが、それでも知識のストックと、遺伝子のデータサンプルは欲しい。

 知識量で言えば「まほうつかい」か「さいし」あたりが、特に「さいし」祭司は珍しいと思ったが、まぁ後回し。

 何しろ時間がない。


 危惧しているのは、冒険者たちが「依頼」によって森へ、ダンジョンと呼称されている施設へ来ていること。

 休眠状態だったダンジョンが活動を再開させたので、その調査、が依頼内容。

 施設の再稼働をどう知れたのか、そして生き残った3人の冒険者が生還してもしなくても「依頼」が存在していれば次が来るのは必然だろう。

 僕は剣士の胴体を探り「地図」を取り出す。これが目的の3こ目。何しろ施設のあった首都が森に化けているので、システムの周辺マップは役に立たない。定期的に偵察の子機を飛ばして記録していれば面白そうだったのに、エネルギーと資材問題が云々。

 しかし地図を広げて、がっかりした。絵本の付属品のような雑な地図で、辛うじて方角や集落の名前が分かる程度の、子供の手書きのようだ。

 僕も今は子供体形だが(自虐)。

 剣士の記憶を信じるならば、冒険者たちが拠点にしている街から森までは十日程度。森中で数日迷っていたようで、物資の在庫は心許なかったようだ。しかし近隣に村があり、救助を求めれば時間制約の予想は難しい。


 ただ、と腕の方陣を見る。汚染除去、というか周囲の汚染吸収の機能は果たしているようで、無色だった結晶はうっすら赤味がかっている。魔石を使った汚染対策は何とかなりそうで、かなりのエネルギーが省略できる。それに、と方陣を切り替えてタンクの頭部を浮かせる。これも実験の一環で、基盤となる方陣を切り替えるだけで汚染の注入から放出へ変換できる。あとは魔石自体から汚染の漏洩が確認されなければ、携帯用として万能間違いなしの便利アイテムだ。今までの方法だと一定以上の汚染物質にしか方陣を反応させられなかったが、魔石の媒介や活用次第で幾通りも方法がある。

 この魔石は、システムに解析させたが、素材や分子構成はわかるも再構築は不可能、と言われた。恒久的に不可能、ではないらしいが、施設程度の規模では無理らしい。

 進化の神秘だ。この素晴らしい傑作を僕たちの技術で作り上げたかった。

 でも、僕の文明は滅んだ。

 原因は知らないが、この汚染に瀕した土地を見れば、なんとなく想像はつく。


 タンクの頭部の他、剣士とタンクの肉体の方と、真っ二つになっている魔物の体も医療室へ持ってこい、とシステムに命令されている。

 方策は立ててやるから、解析と構築の間は外に散らばる魔石と魔物のアイテムを拾い集めとけ、とも。

 システムのくせに人使いが荒い。


 彼等の知識と生体がどれほど使い物になるか、で今後の方針が決まるだろう。

 決定しているのは。今夜の食事もあのまずいレーションだ、だけ、

 剣士の記憶にあった「焼き立てのパン」っての、食べてみたいなぁ




余計なマメ知識:コラーゲン

 コラーゲンを食べると肌の保湿が保たれる、というが、実際の効能(?)は確認されていない。

 そーではなく、コラーゲンはタンパク質をかなり特殊に組み上げた物質である。

 進化の歴史で、単細胞生物が多細胞生物になり、コラーゲンを作り出す機能を持つことで大きな体を持つことが出来た。

 コラーゲンは軟骨や眼球の角膜などにも変化しているが、その組上げは大変に複雑で、現代科学においても再現は不可能である。

 ファンタジーによく登場する「魔石」は、このコラーゲンから出来ている爪や軟骨をさらに2段階ほど進化させた結晶、とコジつけてみる。


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