01-02. スキル:感知Lv.01
エルザ・オライン。
カナディア子爵家の調理師見習いで、ほぼ唯一フェリマに優しい家令である。侍女ではないので身近で世話はしないが、彼女のおかげで食事が劇的に改善した。それまではフェリマに見え辛い遠くにワザと皿を置き「姫はワガママですね」と取り上げられ、ようやく皿に手が届いても「見えないだけでしょ」中身はカラなコトが多く、まともな食事が難しかった。
あまりの飢えに裏庭の雑草をかじっていると、エルザが見つけて悲鳴を上げた。雑草でも時期では毒素を含む場合もあり、子爵令嬢が滅多なモノを口に含んではいけない、と怒られた。奉公に上がったばかりのエルザは、幼女がふざけて草を食っていた、と思ったらしい。
フェリマは何を言われているのか分からなかったが、エルザが子爵家の事情を知るのに時間はかからなかった。給料は少ないくせに仕事は多く、領地運営は他人任せなのに浪費に熱心な子爵への忠誠心は低く、家令達の鬱憤は「なり損ない」の末姫へ集まっていた。平民より魔力がないくせに身分だけは貴族として扱わなければならず、しかし子爵達は末娘に無関心で、どれだけゾンザイにしても構わない、という不文律。
そんな環境の中で、泣くこともしない末姫。
エルザは恐ろしくなって、料理の練習だと嘘をつき食材をクスね、貴族には程遠いが村の家族からは「おいしい」と喜ばれた食事を子供へそっと届けてくれた。エルザのおかげでフェリマが5歳まで生き延びられた、と言っても過言ではない。
だから今日はエルサはいない日なのだな、と、久々にカラの皿が綺麗に並べられただけの朝食テーブルを見て思う。給仕は皿だけ並べすぐに退出したので、今は誰もいない。においを嗅ぐと、家族達が先に食べたスープの残り香がした。
溜息をついて、高い椅子から降りる。この調子だと自室にエルザが隠してくれた非常食も荒らされてそう。今日は何を食べようか、と思いながら目指すのは裏庭。
昨日から「感知」のおかげか、周囲の様子がわかるようになっていた。弱視の瞳は明暗と色が判別でき、手を目の前まで持ってくれば見える、程度だった。そこへ線画が加わり淡い色合いに輪郭が付くと、印象画みたい、と呑気に思う。
もう目を閉じなくても「感知」ができ、感知できる範囲も広がってきている。昨日は東屋一棟分くらいだったが、常時発動しているせいか今は廊下の先や背後、床や天井までわかるようになった。ただ線画は単純な輪郭だけ。細かい装飾はわからず、壁の出っ張りは絵画か、天井からぶら下がっているのはシャンデリアか、と憶測するしかない。線画の精度って上げることが出来るのだろうか。
まぁ、屋敷内であれば構造を覚えているので、わりと自由に歩けるのだが。
裏庭について林を抜けると、そこに小さな畑がある。エルザが私的に作っている菜園。ろくな道具がないので充分に耕せず、実り豊かとはいえないが、給与の少ないエルザの空腹は慰めてくれる。貴族の邸内で、裏庭とはいえ使用人が畑を耕しているなどバレたらとんでもないので、見つからないような隅の、結果日当たりも悪い。せっせと育てても先輩達に横取りされることもあるのに、エルザはフェリマにも作物を分けて食事を作ってくれる。
本当は手伝いがしたい。でも4歳までのフェリマには方法が分からなかった。
今は?
畑をじっくりと見る。やはり線は畝や作物の単純な絵でしかない。しゃがんで手をつくと、土の不揃いな粒と草の水分の感触がし、見えるのは自分の手と何かのモヤ。両手の間だけでいい、集中して見る。モヤがゆっくりと形になり、作物の芽と雑草と畝のデコボコになった。色の曖昧な、相変わらずな線画だが、くっきりと見えた。かわりに見回すと、周囲の線画は消えてしまっている。
ステータスを見るに、まだ「魔力量1」に「感知Lv.01」で、まぁ目的は果たした。
フェリマはそのまま雑草抜きを始め、畑全部の雑草を片付けてから1つだけ葉野菜(小松菜っぽい?)を貰った。生でジャリジャリ齧りながら、夜は白湯が飲みたいなぁ、と思う。でもお湯の出る魔術装置はフェリマの部屋にはない。
まだまだ課題は山積みである。
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