第01章 封印解除

01-01. スキル:哲学Lv.01


 さてドウしたものか、と考えてみる5歳誕生日の翌日。

 少しづつ分かったのは、このステータス画面は他人には見えないらしい。出しっぱなしで邸内を一周したが、誰も不思議がらない。まぁそもそも論として誰もフェリマを気にかけていないけど。

 おかげでゆっくりと中庭の東屋に陣取り、考える。

 ともかくこの「クラス:悪役令嬢」がおかしい。世界観の説明ないのに演じる役柄だけ確定って、どんなゴリ押し。前世の末路は覚えてないが、現世は幸せに生きたい、と願うのが人情。それなのに悪役令嬢って、どのマルチエンドでもバッド確定。しかも贅沢に甘やかされたワガママ放題でなく、苦境の末の惨敗予想なんて御免被る。

 でもねぇ、と周りを見る。このぼやけた世界が弱視故だと理解はしても、一歩先すら覚束ないのではアクティブな身体的手段で現状打破は難しい。なら知識を、と思いはするも図書室の本の文字は小さく見え辛く、意味が頭に入ってこない。この世界に眼鏡という概念はないみたいだし、窓灯りぐらいしかない室内では薄暗く、手元を照らす「ともしび」の火魔法ですら「なり損ない」には無理だし。

 ……うん、魔法。

 ステータスの魔力値は「1」でも、イチオウ属性は持っている。空間魔法、という活用方法がよくわからないが、まったく魔法の素養がない訳でもない。

 この世界の定説は「魔力増加はない」だが、小説など魔力値増量の定番は魔力の枯渇だった。が、そも「1」では使える魔法がない。ならば次の手は。

「魔力の感知と循環、かな」

 呟いて、溜息。独言が習い性になっている。傍から見ればイタイ子だが、外聞を取り繕っても現状は変わらない。

 諦めて、目を瞑る。体内の有るか無いかの魔力を探してみるが、さっぱり分からない。周囲の風や緑が揺れる音に心を落ち着かせながら、しばらく四苦八苦していた。


 そも、魔法って、魔力って何だろう?

 どうして身体に魔力が宿り、どのように魔法が外界に干渉するのだろう?

 属性って、得意分野とか相性もあるから(なんとなく)分かるけど、火属性なら「灯」や「火球」など「決まった魔法」しか使えないのは何故だろう?

 十歳まで子供達は魔法を使えない。神殿で神託を受け、ようやく属性の判明と訓練がされる、らしい。先々月に姉様がソレをやってた。姉は火属性で、覚えたばかりの「灯」を妹に近づけては熱がる素振りを笑っていたし。

 ふと思ったが、十歳で神託を受けるなら、生後3ヶ月で洗礼時に魔力値を計る意味ってあるのかな? ひょっとして魔法が何かを理解し、制御できる年齢になるまで魔術回路的なモノを意図的に閉じているのかも。

 ならば5歳のフェリマは、魔法値「1」で回路も閉じられているのなら、今現在はどうやっても魔法を使えないことになる。そして「なり損ない」ならば十歳の神託さえ受けられないかも知れない。

 つまり、魔力量を増やす意味もない?


 頭が吹っ飛ぶのではないかという勢いで首を振る。グラついて柱にぶつかりそうになって、手をついて止めた。

 危ない。思考がマイナスどつぼにハマりそうになった。後ろ向きスパイラルでパニくれば浮上できない自業自得。息を吸い込み、吐いて、深い深呼吸を繰り返して、声に出す。

「魔法がなくても、本が読めなくても、出来ることはある」

 選択肢は少ないけど、と呟きは追加。かすかに見える床もうっとうしく、目を閉じる。そうやって深呼吸を繰り返して――疑問。

 なんで柱が見えてるの?

 フェリマは弱視で、そも今は目を閉じていて、でも周囲の、東屋の輪郭がわかる。周りをぐるりと見まわして、線画だ、と思う。色彩はないが、暗闇の中に線で絵が描かれ、3Dみたいな立体感がわかる。階段を確認し、確かめながら庭に降りる。手前の刈り込まれた生け垣がわかり、振り返れば東屋の半分が消えている。

 ステータスオープン。

 今度は心の中で唱える。画面は瞼裏でも見えて、まず魔力値を確認するも1のまま。じゃあこの現象は、と探すと、画面には「スキル」という項目が増えていた。


 哲学Lv.01 感知Lv.01


 ……あぁー、スキルは生やす系なのね、と脱力。

 また考えることが増えて、嫌になってきた。


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