悪役令嬢はお呼びでない

千早丸

序章 残念な転生


 何のゲームかは覚えていないし、わからない。

 確かに生前?前世?の記憶の中ではゲーム好きで、色々やってた。特にRPG系が好きで、要はチマチマ御一人様が性に合っていた。

 流行りの転生モノも好きでよく読んでいて、それでも陥った状況に気が付くのは5歳になっていた。幼児に形式だった思考するのは無理だと思う。

 5歳誕生日の朝、珍しく薄暗い時間に起きて、なぜか唐突に腕を伸ばして、一言。

「ステータスオープン」

 言ったのは無意識。目の前のプレート画面をながめるコトしばらく。

 なんだろこれ。ゲーム仕様みたい。ゲーム? 魔法値:1、属性:空間魔法、クラス:悪役令嬢。


 ……………………悪役令嬢?


 しばらく考えて、そのまま二度寝したのは自分でもバカだったと思う。

 その後にいつも通りに起こされ、朝の挨拶で両親兄姉から言葉を頂き、夕刻からささやかな誕生日会。プレゼントはなく少し豪華なだけの夕食を1人で食べ、むしろいつもの夜会に出かける両親の方が贅沢な服装だったが。

 そして寝室に戻り、もう一度言ってみる。

「ステータスオープン」

 再び現れるプレート画面に「あー、やっぱゲーム」と呟く。侍女に聞かれたら卒倒されそうな口調だが、夜の寝室には誰もいない。

 一日かけ、ゆっくりと思い出していた「前世」。しかしコレがなんともアヤフヤで、異世界転生とか悪役令嬢とかキーワードはわかるのだが、「前世」の自分が誰で、コレが何のゲームか小説か、欠片も思い出せない。

 ただ自分の思考力と知識量が「5歳児」ではないな、と自覚する。

 私はフェリマ・カナディア。カナディア子爵家の末娘で、兄2人と姉がいる。いるが、両親は社交に忙しく、兄姉達も勉強や遊興に励み、家族誰に対しても関心なし。そして家令達の態度も義務的で、堂々と「貴族のなり損ない」と呼ぶ侍女もいた。

 貴族のなり損ないとは、魔力のない(少ない)貴族のこと。生後3ヶ月の洗礼で神官に判定してもらい、平民なら洗礼で一生が決まるそう。この国では魔力の有無が身分に直結し、産まれてからの魔力量は変わらない。フェリマは、と見れば、魔力値は「1」と表示されている。

 ほぼ「無い」とイコール。

 それに、と窓を見る。夜景に室内が反射し、小柄な幼女が映されているのだろう。幼くアンバランスな四肢は妙に細く、暗がりでもわかる白髪の頭。きつめの瞳は赤色と言われた。前世の記憶でアルビノと知る。先天性色素欠乏症、メラニン色素の欠乏による白化。単なる体質異常なのだが、色素とかの知識のない世界では、一族誰にも生まれながらの白髪や赤目などいない上に「なり損ない」で、母は不義の子を産んだとして蔑まれた。

 だから母は、父も、フェリマの存在を無視した。父にとっては優秀な兄姉を授かったのは母とで間違いはないし、母は謂れのない汚名の元である子など憎いだけ。兄姉も名前を呼んだだけで睨み返す妹は面倒。

 ただ、目つきはしょうがないと思う。窓辺によって、ようやく自分の顔が見える。先天性色素欠乏症の症状の1つ、弱視。つまり見え辛いから眉間に力が入り、基がつり目気味の結果が目つきの悪さである。

 子爵家令嬢なのに「なり損ない」で、不義の白子で、家族からは無視され、家令ですら馬鹿にする、目つきの悪い子供。


 うん、悪役令嬢一直線。


 無理ゲーなんじゃなかろうか、とげんなりしたのが5歳誕生日の夜だった。


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