二度目の再会

 カイセル先輩と会った翌日。

 さっそくというか……始まった。

 ケイムスと一緒に自分の席に行くと、机がめちゃくちゃに荒らされていた。


「なっ……」

「あー、やっぱりね」

「おま、これ……」

「イジメ、始まったみたい。ま、あんな目立てば当然か」

「な、なんで落ち着いてるんだよ」


 ケイムスがプルプル震えていた。

 あ、怒ってる。まぁ……かわいい妹の机にこんなことされれば当然か。

 教室を見渡すと、こっちを見てクスクス笑っている女子がいる。

 すると、レイラがこっちに来た。


「まぁまぁまぁ、これは酷い……アリアさん、これは一体?」

「いやぁ、昨日けっこう目立つことしちゃって。それが面白くない人が、オトモダチに命じてやらせたんだと思いますね」

「そうなのですか? それは酷い……大丈夫ですか?」

「ええ。こんな幼稚でガキ臭い、私に喧嘩売る度胸もない人のすることなんて気にしてませんから。ま、掃除が面倒ってことくらいですけどね」

「そ、そう……あなた、言いますわね」

「事実ですから。あのー……もしかして、心配してくれてるんですか?」

「そ、そんなはずないでしょう!!」


 まさか、レイラが犯人? と思ったけど……なんか反応がおかしいな。

 馬鹿にしたように近づいてきた。わざと挑発するようなセリフ言ってみたけど、怒り狂うというよりはドン引き……この反応も困るけど、まさかレイラじゃない?

 ま、レイラは私のこと敵認定というか、『どうでもいい子』みたいに思ってるし。

 え、まさか。いや……もしかして、本当に心配してる?

 すると、レイラは私に顔を近づけてきた。


「……あなた、メイリアスを怒らせたわね?」

「……」

「あの子、本気でクロード様を狙っているわ。フフ、あの子と私、どちらかがクロード様の婚約者になるかというところで、あなたみたいな子が現れて、焦っているのかもねぇ? まぁ、あの子の相手をあなたがしてくれれば、私はとっても楽なんだけど」


 あ、わかった。

 レイラ、私とメイリアスが争っている間に、クロードとの仲を深めるつもりだ。

 うわー……私に手を出さない理由、コレかあ。


「ま、せいぜい頑張ってちょうだいね」


 そう言い、レイラは私の席を離れていった。


 ◇◇◇◇◇


 その後も、嫌がらせは続いた。

 机のいたずら書き、道具の破壊、足を引っかけられたり、背中を押されたりと……まぁ、なんというか、正直なところ『カワイイ』レベルのイジメだ。

 私、アラサー間近のお姉さん精神よ? そりゃムカつくけど、それだけ。

 だてに社畜経験していない。早朝出社終電退勤に比べたらなんてことない。

 私のモットーに『死ぬよりマシ』って言葉がある。どんなにイジメられようと、死ぬよりはマシってやつ……だって、死んだら終わりでしょ?

 というわけで、ケイムスたちにすら気付かれることなく、私へのイジメは続いた。

 その間も、勉強やら魔法の授業は続いた。

 一番楽しかったのは、魔法の授業だった。


「はい、治りました」

「あ、ありがとうございます!!」


 学園の医務室での治療が、私とメイリアスの授業なんだけど……医務室には訓練で怪我した生徒以外にも、騎士っぽい人とかいっぱいいる。

 外傷治療ばかりだけど、魔法授業が始まって十日ほど経過し、初めて病人がやってきた。


「す、すみません……その、お腹が、痛いんですけど」

「おなか? どのへん?」

「こ、この辺りが……キリキリして」

「……あ」


 これ、盲腸かも。

 どうしよ。手術とか……いや無理か。魔法でできるのかな?

 メイリアスは……ああそっか。メイリアス、もう私を完全に無視して、騎士様だけを時間かけて治療している。

 とりあえず、私は騎士様のお腹に手を添え、『治れ治れ~』と念じてみた。


「……どう?」

「お、おぉ!! い、痛みが消えました!!」

「あー、よかったぁ」


 どうやら私の魔法、病気もイケるみたいです。

 と、ここでドアが開き……クロードが入って来た。


「すまない。治療を頼む」


 はいはい、どうせメイリアス……あれ?

 メイリアスがいない。


「聖女様なら、お手を洗いに行かれました」

「あ、そうなんだ……ちょっと待ってて」

「い、いけません!! 殿下の治療を優先してください!!」

「わわっ」


 クロードを待たせようとすると、たった今手を取った騎士様が慌てて手を引いた。

 メイリアスに騒がれそうで嫌だけど……ま、仕方ないか。

 私はクロードの元へ。


「はい、怪我はどこ?」

「…………」

「ん、なに?」

「いや……ああ、右手だ。マメが潰れて血が出てな。気にするなと言ったんだが、周りが医務室へ行けとうるさいんだ」

「そっかー……うわぁ、すっごいマメ。どんだけ剣を振ればこうなるのかな」


 クロードの手を掴み、治療をする。

 するとクロードは。


「俺は、強くならなきゃいけないんだ」

「え?」

「……約束だから」

「───え?」

「……ん? 今、俺は何と……?」

「あ、いや。まったく、真面目なんだから……はい、おしまい」

「ありがとう。あり───……ん? 今、なんと……すまん、お前の名は?」

「え? アリアだけど……って、みんなどうしたの?」


 周りのみんなが唖然としていた。

 で、ここで気付いた。

 私───めちゃくちゃ、昔のクロードに接したような言葉遣いだし!!

 青ざめると、クロードがクスっと笑った。


「ありがとう。アリア嬢……あなたの癒しの力、とても温かかった」

「……ッ、ど、どうも、アリガトウゴザイマス」


 そう言い、笑顔を振りまいてクロードは部屋を出た。

 私は、そこでようやく気付いた。


「…………」


 突き刺さるような氷の眼で、メイリアスが見ていることに。

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