温室の先輩
メイリアスがどんなに睨もうと、治した結果は変わらない。
クロードの怪我はまだ治っていないみたいだし、治してあげようか少し悩む……でも、ようやく傷が塞がり、血も止まったようだ。
「クロード様。治りました」
「あ、ああ……感謝する」
なんとなく医務室が微妙な空気になる……正直、さっさと帰りたい。
私は、先生に聞いてみた。
「あの、先生……次は、何をすれば」
「え、ええと……とりあえず、今日はここまで。メイリアスさん、アリアさん、教室へ戻りましょう」
「はい」
「……はい。ではクロード様、また」
メイリアスは部屋を出た。
私も、クロード……殿下に向けて頭を下げる。
「待て」
「……何か」
「…………キミは」
「え?」
クロードは、私に顔を近づける。
なになになに。近い、近いんだけど!!
「あ、あの」
「……どこかで、会ったことはないか?」
「え……」
「キミのことを、どこかで見た気がする」
「クロ「アリアさん、何をしてるんですか?」……あ」
「……すまない、引き留めて悪かった」
「い、いえ……失礼します」
医務室を出ると、メイリアスがいた。
教師を先に行かせ、私のことを待っていたようだ……ヤな予感しかない。
「調子に乗らないことね」
「はい?」
「あなた、何様? 自分のが優れた魔法使いだとでも言いたいの? あんな見せつけるように魔法を使って……あなたもしかして、クロード様の婚約者の地位を狙っているのかしら? メイヤード子爵家だったかしら……あなた、実家がどうなってもいいの?」
「なっ……実家は関係ありません。私は、『治せ』と言われたから治しただけです」
「……警告は一度。いい? クロード様の前で、目立つような真似はしないこと。あなたの実家がどうなってもいいのなら、ね」
「……ッ」
メイリアスはそれだけ言い、さっさと行ってしまった。
私、何か悪いことした? ただ治しただけなのに……貴族ってホント、めんどくさい!!
◇◇◇◇◇◇
教室に戻ると、授業を終えたクラスメイトたちが戻っていた。
私の席には、ロクサスとケイムスがいてお喋りしている。
無言で席につくと、ケイムスが言った。
「なんだ、ご機嫌斜めだな。嫌がらせでもされたか?」
「……別に」
「マジでどうした?」
「……別に」
イライラする。
ってか、婚約者の地位とかいらないし。そりゃ、クロードとお喋りしたい気持ちはあるけど、婚約者とか狙ってないし……ってか、王族なんでしょ? そんなの絶対イヤ。私は領地で果樹園とか畑を耕して暮らしたいんだから。
この日、私はイライラしっぱなし。マジでもうイヤ。
ケイムスたちとは帰らず、一人で校舎から出た。
「……散歩して帰ろ」
私が向かったのは、校舎から少し離れた場所にある、小さな温室。
意外に知られていない場所。私、こういう場所が好きで、学園の案内図で小さく載ってるの見つけて来てみたいと思ってたんだよね。
温室はガラス張りになっており、薔薇がたくさん咲いていた。
「わぁ~……すっごく綺麗。薔薇がいっぱい。こんなにいっぱいあるなら、いくつか摘んでもバレないかも……ふふふ、学生ならではの悪事を……」
「悪事はダメですよ、お嬢さん」
「ふえっ!?」
と、いきなり声をかけられ振り返ると……そこにいたのは、これまたイケメン。
クロードと同じ金髪だが、こっちは長髪。軽く結っている。
身長も高く、スタイルも抜群。やや垂れ目だが、雰囲気と相まって穏やかなイケメンだ。
学園の制服に、右手には分厚い本を持っていた。
が、私はすぐに頭を下げる。
「ご、ごめんなさい!! いや悪事なんてするつもりはなくて、ってか冗談で、そりゃ薔薇は綺麗だし欲しいと思ったけど。でも摘むつもりとかなくてですね」
「あははっ、大丈夫。冗談だからそんな怯えないで」
「す、スミマセン……」
うう、すっごく恥ずかしい。
男子をチラッと見る……上級生だ。制服の襟に『Ⅱ』のマークがある。
「あの、先輩……ですよね?」
「他にどう見える?」
「あ、あはは……では」
「待った」
と、先輩は綺麗な白いバラを一輪、風魔法で斬った。
棘や葉も風で落とし、その薔薇を私の髪にそっと刺す。
「プレゼント。綺麗な銀髪には、白いバラが合う」
「えっ……」
「キミ、話題の聖女二号だろ? 元庶民で、『靴磨きの聖女』」
「え……」
それ、今朝レイラが言ったやつ……なんで知ってるの?
「噂ってのは、広まるのが早い。ま、オレは気にしないけど」
「…………」
「オレはさ、傲慢で高飛車に振舞い、決まってもいないクロードの婚約者面する女より……キミみたいな子の方が聖女に相応しいと思うよ」
「いや、聖女とかちょっと……私、さっさと卒業して領地に帰りたいので」
「え? 王族と結婚したくないの? 白属性の使い手で『聖女』なら選ばれるかも」
「いやいや、聖女とか王妃とか勘弁です。私、果樹園とか畑とか耕したいし。ほら、元平民なんで分相応といいますか」
「───……っぷ、ははは!! いや、面白いねアリアちゃん」
「あ、名前……」
「ああ、失礼。アリアちゃんって呼んでいい?」
「ど、どうぞ」
ちょっと軽薄そうな上級生かも。
ケイムスとかに似てる気もする。
「気に入ったよ。ああ、オレはカイセル。カイセル先輩でいいよ」
「ぷっ、自分で『先輩でいいよ』なんて言うの、ちょっと面白いです」
「そう? ああ、この温室は自由に出入りしていいからさ、また来てよ」
「なにそれ。まるでここ、先輩の温室みたいじゃないですか」
「……ぷ、あっはっは!! やっぱ面白いね、アリアちゃん」
私は時間を忘れ、カイセル先輩とお喋りするのだった。
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