白魔法

 怪我人が大勢、訓練ってこんなに怪我するまでやるんだ。

 みんな痛そうに患部を摩ったり、血が足りないのか頭押さえてる人もいる……そうだよね、この世界に輸血なんてないし、自己治癒か魔法か薬のどれかで治療するしかないんだよね。

 医者がいるので手技を見てみたが、どうも古典的というか……葉っぱをすりつぶして患部に塗って包帯を巻くだけ。医療の素人だけど、もうちょっと患部を洗うとかすればいいのに。

 すると、先生が言う。


「さぁ、治療をお願いします」

「い、いきなり言われても……」

「大丈夫。魔法で治すだけですから」


 いや、『魔法で治すだけ』って。

 私、魔法なんてほとんど使ったことないし……リンゴやベリーの美味しい見分け方とかなら知ってるけど、ここじゃ絶対役に立たない。

 すると、メイリアス口元を押さえた。


「不潔な場所ね……」

「……!」


 嫌そうな顔に声。

 私は聞き逃さなかった。こいつ……私より実力あるくせに、全然動かない。

 私は決めた。やってやる。


「よし、じゃ「失礼する」


 と、動きだそうとしたら後ろのドアが開き……なんと、クロードが入って来た。

 そしてメイリアスが私を突き飛ばし、クロードの元へ。


「クロード様、どうされたのですか!?」

「いや、訓練で手を斬ってしまってな……」

「すぐに治療いたします!!」


 確かにクロードの右手の甲が切れ、血が出ていた。

 メイリアスが手をかざすと、怪我が淡く輝き始める。


「……ん? お前は」

「……ど、どうも」

「アリアさん。ぼーっとしていないで、治療を始めなさい。殿下の治療は私に任せて」

「……はーい」


 ま、いいや。

 私は、足に包帯を巻いている上級生の元へ。


「あの、大丈夫ですか?」

「ああ。はは、まさか、噂の聖女様に治してもらえるとはな」

「いやいや、習い始めなんで、上手くできなかったらごめんなさい」


 私は手をかざす。

 ただ、『治れ』とイメージするだけじゃない。消毒、洗浄、失った血も戻るようにイメージ……昔、何かの漫画で読んだ。魔法はイメージだって……まぁ、この世界の魔法に同じこと適応されるか知らないけどね。

 それから、五秒ほど。


「……うん、いい感じ。どうですか?」

「───ま、マジか」


 上級生は包帯を外し患部を見せる。

 うん、綺麗に治ってる。傷跡すら残っていない。


「すげえ……し、しかも」


 上級生は立ち上がり、その場でポンポン跳ねたり、床を軽く踏みしめた。


「まったく痛くねぇ!! ははっ、すごいな白魔法!! ありがとうございます、聖女様!!」

「いえいえ。よかったです」


 うん、綺麗に治せてよかった。


「じゃ、次は……」


 隣の上級生は腕、その隣も腕、頭、肩と……うん、いけそう。

 私は一人三十秒くらいで怪我の治療をすると、全員が綺麗に治った。

 ちょっとダルいけど、まだまだいけそう。そう思ってたけど、病室にいた二十名ほどは、あっという間に完治しちゃった……よかったぁ。

 とりあえず全員治したので先生の元へ。


「あの、終わりましたけど……って、あれ?」


 先生、クロード、メイリアス、医者の先生が愕然としていた。

 なになに、って……あれ、メイリアス?

 メイリアスはまだ、クロードの治療をしていた。


「あ、あなた……ど、どうやって」

「え?」

「アリアさん!! あなた、身体は大丈夫ですか!? まさか、こんな数分で、全員を……!?」

「し、しかも……見てください。怪我の跡も残っていない。か、完璧だ……」

「えーっと……い、いいんですよね?」

「いいもなにも、大丈夫なんですか!?」


 先生と医者の先生のが大丈夫?って聞きたい。

 先生は私の顔をジロジロ見た。


「聖女の白魔法は回復、つまり神の奇跡……歴代の聖女でも、一日三人程度の回復しかできなかったのですよ? それなのにあなた……ひ、一人で、こんな短時間で、二十名以上を」

「え? でも、ここに連れてきたのは先生ですよね」

「私は、この中から、治せそうな人を選んで治療しろ、という意味で連れてきたのです!!」

「す、すみません……」

「これは、とんでもないことです!!」


 すっごく興奮する先生。

 すると、ゾッとするような視線を感じた。


「…………」


 メイリアスが、私を殺しそうなくらい激しい目で睨んでいた。

 対照的に、クロードは興味深そうに私を見ていた。

 う……なんか、嫌な予感しかしないんだけど。

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