楽しいお仕事

 靴磨きを始めて、十日が経過した。

 稼ぎは大したことがない。靴が一足だけ売れて、靴磨きも一日に三人くらい。

 でもでも、それでもお客さんは来てくれる。

 この十日で、五回も来てくれる人もいた。


「今日も頼むよ」

「はい、おじいさん!! ささ、座って座って。クロード、靴磨き!!」

「ああ」

「おじいさん、今日も凝ってるねぇ」

「おお~……気持ちいいのぉ」


 私は、おじいさんの肩を揉む。

 ガチガチに硬い。うろ覚えの指圧で背中のツボを押し、肩甲骨辺りをグリグリすると、おじいさんは「あいたたた……き、効くぅ」と言って喜ぶ。ふふん、おじいさんのツボ、もう覚えちゃった。

 靴磨きが終わると、おじいさんは銅貨を二枚と、靴を一足買う。合計七枚の銅貨をクロードへ渡した。


「うんうん。今日も気持ちよく散歩できそうじゃ。ありがとうな」

「「ありがとうございました!!」」


 ペコっと頭を下げ、おじいさんを見送る。

 私とクロードはハイタッチ。


「さ、もっとお金稼ごうね」

「ああ」


 私とクロードは、この仕事にやりがいを感じていた。


 ◇◇◇◇◇


 最近は、パンを買ってスラム街に戻っている。

 魚を捕まえて焼き、パンに挟んで食べるのが美味しいのだ。お金も少しずつ貯金して、いつかスラム街を出て、町で生活できたらいいなって思ってる。

 私は、焼き魚パンを食べながらクロードに言う。


「ね、クロード。今は靴磨きしかできないけどさ、もっと大人になったら町でお仕事探して、いっぱいお金稼いで、やりたいことやろう」

「やりたいこと?」

「うん。私は~……お店とかやりたいな。靴屋とか、服屋とか」

「……お前ならできるよ」

「うん!! えへへ……ね、クロードは?」

「…………」


 たまに、クロードは遠くを見ることがあった。

 異世界に来て二週間くらい。未だに、クロードのこと何も知らない。

 

「……俺は、知りたい」

「え?」

「……なんでもない」


 クロードは、焼き魚パンをパクッと食べた。


「あ、そうだ。これからも一緒に暮らすしさ、好きな人とかできたら言ってね」

「……は?」

「好きな人よ。私たち、まだ子供だけどさ、大人になったら恋をすることもあると思う。そんな時、私がいたら邪魔でしょ? まぁその時は『妹です』って紹介すればいいけどさ」

「…………それ、本気か?」

「え? うん。だってクロードは絶対カッコよくなるからさ、女の子が放っておかないよ~?」

「…………お、お前は」

「ん?」

「お前は、どうなんだよ」

「私? 私もあるかもね。そうだなぁ~……」

 

 ちょっと考える。

 せっかくの異世界だし、夢くらい見てもいいよね。

 町でいろんな人が通り過ぎるのも見てるし、なんとなーくわかったことがある。


「ん~、カッコいいのは最低条件。で、剣術とかスパパパパッとやっちゃうような人。あとお金持ちっ!!」

「ぷっ……なんだ、それ。つまり、剣技がすごくて、お金持ちな、カッコいい人か?」

「うん。強くて、優しくて、カッコよくて、お金持ち。あはは、夢見すぎだよね」

「…………はは」


 クロードは、曖昧に笑った……うう、どうせ無理な夢ですよーだ。

 笑ったクロードは床に手を突き、「いてっ」と言った。


「あれ、どうしたの?」

「いや、ちょっと尖った石で切っただけ」

「え、どれ……見せて」


 私はクロードの人差し指を掴み、ペロッと舐めた。


「!?」

「知ってる? 唾液には消毒効果あるって……子供のころ、お母さんが良くやってくれたっけ」

「こここ、子供って、今も子供だろ!? なななな」

「はい。えーっと、綺麗な布で縛って……っと」


 ちょっと血がにじんでる……痛そう。

 私は、クロードの手を掴んで言う。


「痛いの痛いの、とんでけ~っ!!」

「……なんだ、それ」

「痛くなくなる魔法の呪文だよ。はい、痛いの痛いの、とんでけ~っ!!」


 次の瞬間、私の手が淡く輝き、クロードの手を包み込んだ。


「へ?」

「───ッな」


 白い一瞬の光。

 クロードは、布を取ると……なんと、怪我が消えていた。


「お、おお~……え、何今の」

「……ま、まさか、アリアがやったのか?」

「……じょ、状況的に、たぶん、はい」


 カクカク頷く私……あ、これもしかして!!


「ち、チートスキル!! 私に隠された能力が覚醒したとか!?」

「……驚いた。アリアは『白』属性の素質があるんだ」

「え?」

「魔法だよ。赤青黄緑、黒白紫の七属性で、最も珍しい白属性……と、俺もよく知らないけど」

「ま、魔法? 私、魔法使いなの?」

「……たぶん」

「え、え、クロードは? クロードは?」

「……知らない」

「ね、もっと魔法のこと教えてよ!!」

「い、いや……俺も、習ってた途中だったから、よく」

「そっかー……」


 魔法。

 どうやら私には、『白魔法』の素質があるようです!! 

 魔法少女かぁ……なんか、異世界っぽいかも!!

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