靴磨きから始める金稼ぎ

 私は初めて、異世界の街に出た。

 大通り。行き交う馬車、中世っぽい町並み、海外旅行したことあるけどこんな感じだった気がする。


「ほわぁぁ~……」

「アリア、どこでやるんだ?」

「え? ああ、うん。えーっと……邪魔にならないところ」


 石畳の街道では、露店を開いてる人も多くいる。

 私とクロードは、人の通りが多い場所にシートを敷き、足を載せる台を置く。

 この台の上に足を置いてもらい、靴磨きをする。

 隣には、修理した靴を並べ、格安販売するのだ。

 と───ここで私は、重大なことに気が付いた。


「あぁぁ!? しし、しまったぁ!!」

「うわっ!? び、びっくりした……な、なんだよ一体。大声出すな」


 道行く人がチラチラ見ている。こんな目立ち方したくなかったわ。

 私はクロードにこっそり聞く。


「あのさ、お金。お金どうしよ。私、お金の単位とか相場、知らない」

「……なんだ、そんなことか」

「え」

「そうだな……靴は銅貨五枚、靴磨きは片足銅貨一枚、両足で二枚でいいだろう」

「え、え……クロード、お金わかるの?」

「まあ、いちおう」


 クロードから聞いた。

 お金は、金銀銅貸。その下に鉄貸がある。

 私風に換算すると、金貨は一万円、銀貨は千円、銅貨は百円、鉄貸は十円だ。端数は存在しない。

 なんとなくわかったかも。やっぱりここ、異世界なんだ。

 クロードは、ナイフで板に文字を掘る……って、異世界文字読めない。

 

「なんて掘ってるの?」

「靴磨き、片足銅貨一枚。靴は銅貨五枚……っと、できた」

「おお、クロードすっごぉい!!」

「ま、まあ……」


 文字とか読めるのも書けるのもすごい。アリアの記憶には文字のことなんてなかったしね。

 さて、今度こそ準備完了。


「じゃ、開店しよっか!!」


 ◇◇◇◇◇


「いらっしゃいませー!! 靴磨きまーすっ!!」

「……誰も来ないな。素通りしてくぞ」

「ほら、クロードも声出して!!」

「い、いや……」


 クロードは照れていた。

 大人たちがチラッと見ては素通りしていく。悪いけど、恥ずかしがっていられない。生きるためには何だってしなくちゃいけないのよ。

 と、初老の男性が立ち止まった。


「……靴を磨くのかね?」

「はい!! 片足銅貨一枚、両足で二枚です!!」

「ふふ、じゃあ頼もうかの」

「はーい!! クロード、椅子!!」

「あ、ああ」


 ゴミ山で拾って磨いた椅子をクロードが起き、お爺さんが足を台の上へ。

 私は綺麗な布で、丁寧に靴を磨く。


「ごしごし、ごしごし……クロード、マッサージ」

「え?」

「おじいさんの肩、揉んであげて!!」

「は? な、なんで?」

「サービスに決まってるでしょ!! ほらほら、美味しいお魚のために!!」

「わ、わかったよ。あの、失礼します」


 クロードはおじいさんの肩もみをする。


「おお、これは気持ちいい……ふふ、嬉しいねえ」

「サービスです!! ささ、綺麗になりましたよ!!」

「ああ、ありがとうね」


 おじいさんは、銅貨を五枚出してきた……え、多い。


「あ、あの、銅貨二枚です」

「気持ちだ。受け取ってくれ」

「……ありがとうございます。では「駄目」


 私は、おじいさんに銅貨をしっかり返す。

 可愛げないって思われるかもしれない。でも……周りには商売をしている人たちが多くいる。お気持ちはとてもありがたいけど。


「おじいさん、お気持ちだけもらいます。商売をする以上、それ以上の対価は必要ありません」

「…………ほう」

「えっと、もしよかったら……また来てください。そっちの方が嬉しいです!!」

「はっはっは。これは無粋な真似をしたなぁ。すまんねえ、お嬢さん」

「いえ。ありがとうございました。その、お気持ち……嬉しかったです」


 おじいさんは私の頭をポンポン撫で、行ってしまった。

 すると、クロードが言う。


「もったいない……もう来ないぞ、あの客」

「そうは思わないけどね」

「え?」

「ふふ、次はクロードが靴磨きで私が肩もみね!!」

「あ、ああ」


 この日、お客さんはもう来なかった。

 でも、一人来てくれた。それだけで、私とクロードは嬉しかった。


 ◇◇◇◇◇


 スラム街に戻る前、今日の稼ぎでパンを二つ買った。

 ベンチに座り、二人でパンを食べる。柔らかく甘酸っぱい味が素晴らしい!!


「パン、おいしい……!!」

「甘いな……」


 今日は銅貨二枚の稼ぎ。パンは鉄貨五枚、二個で銅貨一枚。

 なので、残りは銅貨一枚だ。


「ね、クロード」

「ん?」

「明日からガンガンお仕事して、いっぱい稼ごうね!!」

「ああ。それにしてもアリア、お前……八歳とは思えないな。なんというか、逞しい」

「そうかな……まぁ、いろいろあったしね」

「……聞いていいか?」

「そんな大したことじゃないわ。貧乏な農家の七女で、これ以上育てられないからって、口減らしとして捨てられたのよ。で、王都までの乗り合い馬車に忍び込んできたけど、御者に見つかってスラム街に捨てられたってわけ」

「…………」

「クロードは?」

「…………」


 クロードは俯いてしまった。聞いちゃいけないことだったかも。

 私はパンを全部食べ、ベンチから飛び降りた。


「ま、なんでもいいや」

「アリア……」

「そんなことより、明日もお仕事だから帰って寝よう!! ね、クロード!!」

「……ああ!! じゃあ、帰るか」

「うん!!」


 私はクロードの手を掴んだ。するとクロードが慌てた。


「お、おいアリア!?」

「え、なに?」

「いや、手……」

「あはは、恥ずかしい? ごめんごめん」

「べ、別に恥ずかしくは……ああもう、帰るぞ!!」


 私とクロードは手をつないで、スラム街まで戻るのだった。

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