斯くして僕らは風となった

べっ紅飴

第1話

その時代の生き証人が居なくなったとき、人々は同じ歴史を繰り返す。


歴史は韻を踏むと、そういったのは誰だったか。


第三次世界大戦集結から僅か5年。


未だに人々の傷は癒えない。


平和と呼ばれた頃、戦争にはルールがあると殺し合いに人道を語った彼らは、きっともう戦場を枕に眠りについたのだろう。


誰も戦争について語ろうとはしない。


殺し合いが名前を変えたところで、その本質は全く変わらないのだ。ただただ惨く、ただただ恐ろしい。


時が過ぎるほどに、歴史というのは形を変える。

書き手の解釈を元に変わってしまう。

いずれ真実などなくなるのなら、この戦争の全てはまやかしとも言えるかもしれない。


しかし、ただ一つ真実があるとすれば、多くの人々が癒えない傷を負った中で、高笑いをしたくなるほどに金を儲けた人がいることだろう。


どれだけ平和を願ったところで、そんなものは存在せぬから、永遠に訪れない。


他者の命を対価にしたビジネス。それが戦争だ。


5年も過ぎたというべきか。まだ5年しか経っていないというべきか。嘆かわしくもこの国は、再び人々を死地へと導かんとしている。


誰もが密告を恐れ、自ら口をつぐむ時代の行き着く先は決まっているらしい。


みせしめを目にするのも既に慣れたことだった。


自ら命を絶つか、国に殺されるか、戦場で死ぬか。

弱者の選べる選択肢は結局のところ死だ。


結局死ぬのなら、歯向かっても見たくもあるが、果たして。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

斯くして僕らは風となった べっ紅飴 @nyaru_hotepu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る