ホーラ・エト・コロル

陽炎立ち大輪始咲

 「令和ちゃん」なる女神のおかげで、日本では去年梅雨と秋が来なかったらしい。今年も暑いからか、菖蒲あやめではなく向日葵が咲いてしまった。

「こらまた、綺麗に咲いてるなぁ。」

 最近教会に来始めた娘に誘われ、向日葵畑にやってきた。クレヨンのような黄色と、大輪の花が、陽射しの奥の瞳のように見下ろしてくる。

「神父さま、ここの花、900本以上あるんですって。」

「ほー。」

「少し入って見ませんか? 写真撮影OKなんですよ。」

 頬を赤らめながら言う娘の首には、叩くと冷える襟巻が巻かれている。伊達に1700年、人を見てはいない。人の想いのように感じることは出来なくても、察して考え、対処すべき方法も分かる。

「そうか、じゃあ入ろう。向日葵の背が高いから、逸れるなよ。」

「あ、そしたら、裾、裾持たせてください。」

「おいおい、力が出ていっちまうぞ。」

「そうしたら、私の生理痛軽くなりますか?」

「いや、『長血』ってそういうんじゃないから。」

 孤独な年頃の子どもは、傷ついた心を癒してくれたその人を愛する。

 一面の向日葵畑に連れてきたのは、娘なりの「999本の花言葉あなたを永遠に愛します」なのだろう。

 ただ、彼女は「大輪の向日葵の花言葉その愛は偽り」を知らなかったようだ。

 

     


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る