第4節 滅びの夢

 無邪気な笑顔は、信じている。

 世界が終わり、楽園が来るという希望を持って、死んでいく。

 無邪気な笑顔は、笑っている。

 純新無垢な、清廉たる、神に是認された唯一の教会だと言って、無自覚なカルヴァン式現代日本教育を受けた人々を騙す。

 無邪気な笑顔は、喜んでいる。

 地震や津波は、世界が滅びる予兆だから、仕事よりも奉仕に従事できるから。

 残酷な殺人鬼や戦争は、もうすぐこの世が終わって、楽園が来るのに予兆だから、むしろ起きて欲しいし、楽しみだ。

 これは全部本当のこと。全部聖書にある、キリストの帰ってくる終わりの様子。

 ガリガリガリ、ガリガリガリ。

 恐怖に引きっった死に顔に、やせほそって。

 かわいそうに、悪魔サタンに呼ばれて答えてしまったのね。

「なら会えないね。さようなら。」

 配慮され、隣同士ベッドの間で、つないだ手を振り払った時、突然真っ暗になって、音が聞こえなくなった。


「お二人は良かったんですか?」

「ああ、良かった。医者は病気を治すだけが仕事じゃない。」

「だって助けられた命ですよ?」

「お前もいずれわかるさ。生きる喜びより、滅びの夢を見たい患者は、この国の0.001パーセントいるんだよ。」

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