第121話



 作戦を翌朝に控えた夜、拠点に集まったメンツで向かい合っていた。


「ムラタだって」

「あー、千聖連れてくりゃよかったか」

「そうなの?」

「こっちに来て最初にしばき倒した連中がいるところだな」


 告げられた合流地点はムラタだった。カワサキの南、開発中の平野の西側にある山中だ。

 以前俺と千聖が主人公や軍曹たちと襲撃を受けたのもムラタにある高速のジャンクションだった。因みに人がいるであろう市街地はジャンクションの南東部にある四方を山に囲まれた場所だ。

 センダイの平野部と一口に言ってもセンダイの軍が抑えている平野部はセンダイ東部、南隣のナトリ東部、さらに南のイワヌマの東部を海岸線まで抑えた広大な土地のことを指す。

 そしてイワヌマ南端を流れるアブクマ川と西部の山を境に警戒線をひいているのが現状だ。ムラタという土地はイワヌマから山を越えるか川に沿って続く国道で山間を抜けて回り込むか、高速道路で通過するかといった半陸の孤島状態の土地でもある。

 繋がっている道路はいくつもあるので孤島は言い過ぎだがそれでも隔離されている土地であるのは間違いではない。


「ちなみに名目はムラタにいるだろう民間人の避難誘導だって」

「無茶苦茶だな」

「ほんそれ」


 いろいろと突っ込みどころが多い。10年何やってたんだとか、平野開拓する人員避けるだろうとか、細かいことを言えばキリがない。


「どこで合流するって?」

「イワヌマから続く道路の先、ムラタの直前らしいけど」

「俺だったら監視を置くが」

「だよね。どうする?」

「狩るか」

「大丈夫? 軍の邪魔にならない?」

「スカベンジャーが勝手にやった、でいいんだろ」

「絶対荒れるじゃん」

「何故荒れないと思った?」


 うんざりとする小屋妹だが俺の雑な計画だけが原因じゃないだろう。

 最近剣に装備一式を装備するように言われて剣帯に鉈を吊るし所在なさげにしている苦手な大天使がいるというのもある。


「……ほんとに大丈夫?」

「俺はな」

「私は?」

「どうなんだ?」

「大丈夫」

「お姉ちゃああん!」

「うるさ」


 車内にはミニガンと小銃2丁。俺が持っている自前のハンドガンと合わせて計4丁。それならこいつはあとで大天使に渡しておいてやろう。


「朝に出るつもりだったが前乗りするか」

「朝駆け?」

「それよりちょい早く。まあ見張りを排除するなら早い方がいいからな」


 何より居場所が予想しやすい室内じゃない。魔法を使うには相手が油断する時間帯であり、探知の魔法を使う時に闇夜に紛れるにはいい時間だからな。




 人目を避けて山中をカワサキ方面からムラタの手前にあるスゴウまで走らせる。高速に沿って下道を進めばすぐに到達できる場所だ。

 そして俺は知らなかったが、スゴウにはサーキットがあった。実はスゴウという土地はモータースポーツのコースが有名な土地だったようだ。


「まあ私は知ってたけどね」

「何で?」

「後回しにされて優先順位がどんどん下がっていった忘れられた場所らしいからね」


 どうも立地的な意味合いからセンダイの人間はスカベンジャーしか行かないような場所だったらしい。車を整備する道具や、一部レンタル用のバイクはあったらしいがそれ以外にめぼしいものは少なく、敷地の広さに対して視界の悪い地形も相まって守りにくい土地であるということから今ではスカベンジャーも殆ど立ち入らない状態らしい。

 そんなわけでその周囲にもゾンビの影が多少ちらつくぐらいで時間を潰すも先に進むも容易な土地になっていたのだ。


 イワヌマからムラタに抜ける道にトンネルがあり、そのトンネルを抜けた先でスゴウのサーキットそばから繋がる道がある。

 合流視点は周囲を山に囲まれた場所で目に見える範囲に建物は見えない。だからこそ探知に反応するものが目立つはずなのだが。

 もう少し進んでみるか? いや、いいか。別行動するには範囲が広い。少しの間待ってみるか? いや、戻るか。ここで来ないのなら町の中になるんだろう。スゴウ側にもいないとなれば送り狼になるという可能性も低い。


 結局朝を待って防衛隊と合流。ムラタへ向かうまで何事も無かった。ムラタの市街地でしわくちゃな笑みを浮かべる一人の老婆と出会うまでは。




「で、なんだって?」

「今軍曹たちが話してる。今ここは限界集落化してるんだって」


 ムラタという土地はこれまでがせいぜいが普通の田舎。少し遠いが国道にアクセスでき、イワヌマを経由すれば空港もあるしセンダイまで高速で直行できる。交通の便はさほど悪くない。

 それが限界化しているのは若い人間がいなくなったからだ。


「スカベンジャーになってると思ったが」

「東部に移った人間の方が多いんだってさ」

「ここに残るとか言ってるのが年配者だけってことか」

「そうみたいだね」


 土地に縛られて、か。まあ何処で何をするかなんてのは個人の自由だ。それに何かを言うつもりはない。

 小屋姉は特に何も気にはしないだろうが、土地から離れた小瀬屋敷夫妻、その孫の大天使も思うところはあるだろう。

 いや、小屋姉は別の物が気になっているのだろう。俺と同じものだ。

 すなわち、この町のどこかから漂う濃い血臭。覆い隠せない程のそれが妙に鼻について仕方ない。


「準備しとけよ、お前ら」

「撤収かな?」

「引き金を引く準備だよ」


 さて、少しこの町を探ってくるとしよう。

 限界集落化しているこの町で、未だに残り続けている老人共がどんな食い扶持を持っているのか。

 近場にある学校のような丈夫で物資の備蓄がある場所ではなく古い作りの商店通りに住んでいるのは何故か。

 ただ死に場所を選んだというのなら何も問題は無いが、さて、これはどっちだろうな。




「軍曹、どうでした?」

「感触は悪くない、悪くないが」

「なんです?」


 トウキョウ防衛隊の面々、そのうち付き合いの長い者達がここにいた。

 最年長の軍曹に副官役の阿部、運転が得意な新沢、得意不得意が無く安定している武岡。彼らはセンダイの防衛隊からの転属工作を受けても効果なしと判断された人員でもある。

 それ故こういった危険度が高い、所謂きな臭い任務にあてられることが増えていた。

 他の人員はセンダイ防衛隊の隊員レベルでは仲がいいと思われており、転属の可能性ありとみられて現在南部の平野部開発指揮の補佐役として動いている。


「何とも言えん居心地の悪さがある」

「そうなんですか? 何かもらってましたよね?」

「自家製の濁酒どぶろくや梅干しだな」

「それでしょっ引けますよね」

「我らに警察権は与えられていない」

「これからどうするんですか?」

「ふむ……」


 時刻は既に昼前。ムラタに来てから人がいると思われる商店街を中心に回っていたのでこんな時間になってしまったが、どうやら代表者のようなものはいないようだ。

 一つ一つ回っているがどの家も高齢者で色よい返事はもらえていない。しかし対応は非常に温かく、こうしてお土産などをもらったりしていた。


「正直、頑固な老人がバリケード作って立てこもってるような印象でした」

「そうですね。自分はもっと攻撃的な対応を予想していましたが」

「歓迎されている気すらしますね」


 前情報と現地の実情が違うという事態が無かったわけではない。しかし情報より悪いことはあっても良いということは無かった。

 彼らの口調こそ軽いものであるがどこかうすら寒いものを感じていた。


「スカベンジャーのお嬢さんたちに意見を聞いてみますか」

「それがいいか」


 今は商店街の中にぽっかりと開いた神社の駐車場に置いたトラックに待機していた。その隣には武装化された比較的新しいSUVが待機している。

 運転席の小柄な女性が防衛隊が降車したのに気づきその窓を開けた。


「どうしました?」

「少し意見をもらおうかと思ってな」


 彼女たちは以前シカマのオウジョウジハラ演習場に行った際にサポート役となったスカベンジャーだ。元々はセンダイで活動していた部下が関りを持ち、彼女らが腕利きだという話からその後も関係を維持し続けた。トウキョウ防衛隊がセンダイの北にある自動車工場へ行った際にも物資の接収の補佐を申し出てきたという経緯もある。

 指揮下の隊員が世話になったことによりその伝手を頼ったが、恐らく彼女たちの上にはがいる。

 センダイに来る直前に守るものが守られるという結果になって忸怩たる思いをしていたがそれが杞憂であったというのは幸いだった。もちろん生きていたというのは良いことだが何故その存在を研究所に表明しないのかはわからない。

 そのあたりをこちらが告げたところで現状では作戦失敗に対する言い訳にしかならない。彼らがある種の特殊戦闘員だと言われても誰も信じないようなものだ。

 軍曹の心中は複雑ではあったが、現場において意見を聞くべき熟達者でもある。それ故こうして防衛隊の所属ではなくとも意見を聞くことに否は無いのだ。


「あーそのへんはうちのリーダー待ってもらってからでいいです?」

「ん? どっか行ったんですか?」

「はい。血の匂いのする方に」


 すっと首筋が冷えた気がした。あの老婆や好々爺に相対している間に気が緩んでいた。軍曹は一層表情を引き締めると、続きを促した。


「まずはこの辺に入ってくるときに感じた視線を辿るって言って北に」

「北? 神社?」

「いえ、その奥。こっちが確認したところ丘の上、周囲を林に囲まれた中に中学校の跡がありました」

「軍曹、我らも」

「あー、それはお勧めしません。本人も偵察するだけだと言っていたので」


 閉口する。ここにいる防衛隊の面々は誰が偵察をしているのか知っているのだ。そしてその実力も。


「彼が帰還したら一度情報をすり合わせよう」

「ええ。あ、あとこの辺は道が狭くて塞がれると面倒なんで待機所も別のところの方がいいかもしれませんね」

「新沢」

「了解」

「最初はこの辺りで人がいないところもあったのでそのへんの情報共有からしましょうか」


 曰く、古い生活を続ける農村である。ここはムラタの市街地でも北の方で南や大通り、国道に近いところでは比較的新しい建物が散見されたが人影は無く、生活していたであろう痕跡も既に無く後にして久しいということ。

 所々ある農地で田畑だけでは恐らく足りないであろうこと。この町の西に広がる広大な田園地帯は町に近いところだけで手が入っていた形跡があり、見た目ほどの実入りは無いであろうということ。

 それと気になることとして挙げられたのは彼らの反応だった。


「私達が会った人は敵意ゼロの人が多かったですね」

「そうだな。ゾンビという脅威を聞いたことも感じたことも無いと言わんばかりの反応だった」

「まあそれは無いんですけどね。どんなものでも受け入れる、そういう考えがあるみたいです」

「いや、それは……」

「福は内、鬼も内、だそうですよ」


 納得できない。明らかにそういった空気があった。告げた運転手の女性も苦笑いを浮かべている。


「これ、冗談みたいですけど高齢者の住人に確認してみたらどうも共通認識みたいなんですよね」

「福は内、鬼も内。だから人もゾンビもスカベンジャーでも皆来てねってことか?」

「それがわからないんで調べてるんですよね」

「いや、まあ気になる話ではあるがそんなのに時間割くくらいならこの辺りの住人に話をつけてさっさと戻った方がいいんじゃないのか?」

「それでもいいんですけど、多分この周辺に一泊すれば答えがわかると思うんですよね」

「一泊? 何故だ?」

「日帰りでここを調べに来た人はこの村を人畜無害の田舎町と言います。しかしこの周辺でいなくなった人間が多いのも事実。因みにムラタを拠点としているスカベンジャーは私の調べた限りはいませんでした」

「……つまり?」

「此処で消えても確証はありませんってことですね。まあその確証を得るための調査なんですけどね」


 手ごわい村だとは聞いていたがそんな話があったとは知らなかった。いや、こういった調査やスカベンジャーの事情などは防衛隊の業務範囲外の事柄だ。知らないというのも無理はない。

 軍曹たちが次の話に移る前に声がかかった。


「終わったぞ」


 突然だった。気配も足音も匂いも何もかも感じなかった。急にそこに現れたそのシルエット。見覚えのあるフードにマント。迷彩模様のそれの奥に見えるのは見覚えのあるゴーグル。


「よう、軍曹殿。先ほどぶりだ」

「……お久しぶりですな、先生」

「もう廃業した。今じゃ昔通りの家荒らしだよ」

「ご謙遜を」


 ここに現れた男性が意識しているのかいないのか、その空気は凍てついたものだ。

 良くも悪くも遊びが無い。いい意味で引き締まり、悪い意味で無駄を許さない、そんな厳格な印象がある。

 そこらの人間とはくぐった修羅場の数が違う、屠ってきた敵の数も段違い、殺しに飢えているわけでもなければ金の亡者という訳でもない。

 その芯となる確固とした独特の価値観と人間の生存能力の極致とさえ言われる運動能力を持ち合わせるその男。


「ま、今回は群れじゃなく単独だが、期待してくれていいぜ」


 群狼と呼ばれたトウキョウ西部の生存圏を大きく広げた無法者集団の頭領がそこにいた。




 昼を目安に探索してきたから時間は結構あった中学校に探索時間を割いたが時間は十分あったのでここより北は凡そ見ることが出来た。

 中学校の校舎は確かにある程度人がいたような痕跡があった。特に何の変哲もない校舎とやや手狭に感じる校舎。そしてその校舎を背後から監視するような位置にある一つの民家。

 小高い丘にある校舎にも確かに腐臭はあったが、血臭はその丘の奥から漂ってきていた。地図には介護施設がある。

 そう言えばカワサキでも奥まったところにある介護施設にやたらと人が押し込められていたっけな。そんなことを考えながら丘を回り込んでもうじき建物が見えるであろう場所まで来た時、思わずむせてしまうほどに濃い臭いが漂ってきた。

 血と肉と腐敗臭に満ちた二階建ての建物はいっそどこかで見たことのある屠殺場のような装いだった。

 中に人がいるのは探知の魔法でわかっている。ここで仕留めてもいいがあの施設についての情報は何もない。万一何かしらの方法で街の方に連絡がいって被害が出ても面倒だ。

 なにより今回は大天使もいる。相手の性質を知ることの方が今は重要だろう。

 ベランダ部分で干されている家畜にしては長い腕と小さい頭。建物前にある駐車場はアスファルトとは違った黒で彩られている。車両も改造未改造と色とりどりだがまともな状態で保存されているものは無い。

 なるほど、スカベンジャー共の処理場として利用されていたようだが、高齢者たちだけで警戒するスカベンジャー相手を嵌めるような何かがあると考えるべきか。

 まあ単純に考えるなら薬物。毒か眠り薬か、麻痺薬なんてものがあるのかはわからないがそれを相手に食わせる手法がある可能性も考慮しておくべきなのかもしれない。

 さすがにそれについて素直に教える訳もないだろうからどこかで調べる必要があるか。学校にあるだろう図書室、市民宅に蓄えてある食料、この村落の周囲に栽培されている植物あたりだろうか。


 ふと原作の状態異常効果が思い浮かんだ。原作登場キャラの一部のスキルにはゾンビ相手に状態異常効果のある行動をとることがある。分かる易いのは打撃や鈍器によるスタン効果だが、弓使いや薬剤、それこそ片平兄妹のスキルの一部には毒や麻痺に睡眠効果のあるアイテムを攻撃に利用する。

 回復効果を出すために必要な素材はハーブという名の謎草。どこにでも、それこそ町のプランターから無造作に生えていたりする。

 状態異常効果を出す素材は複数ある。化学薬品、腐肉、毒草、それと一部の花だ。ああ、なるほど。花なら確かにその辺にあっても気にはならないか。

 この国だとトリカブト、ドクウツギにドクゼリ。毒に関する知識が無ければ簡単に死ぬ可能性がある。特にトリカブトは知っていてもドクウツギは特に果実が、ドクゼリなんかはセンダイ平野部南部で盛んに生産されていたセリなんかと混ぜればわからないやつも多いだろう。

 もちろんそれらは見分けることが出来る特徴があるが、街で家漁りに励んでいた連中にはあまり親しみは無いだろう。特にトリカブト以外の二つに関してはそうだ。

 もちろんそれ以外の可能性もあるだろう。これに関して一番詳しいのは剣だ。俺もトウキョウで一時期利用していたから知ってこそいるがどうしても必要だと思うことは無かった。


 しばらく介護施設内の人員の動きを観察して構造を把握しつつ、中学校の図書室に寄ってから

合流すれば町を調査していた連中も一区切りついたようだ。

 軍曹は市街地北部の住人に、小屋姉妹と大天使は中央部から南部を当たっていたようだ。


「毒、ですか」

「可能性としてはそれが高い。もらいもんには手を付けないことをお勧めしよう」

「でもさ、それ持ち帰られて調べられたら一発じゃん」

「今貰ったやつじゃないな。それを口にして安心したところに夜の差し入れなんかをして仕留めるってやり方じゃねえかな」

「隙の生じぬ二段構え」

「滞在期間聞かれなかったか?」

「ええ、きかれました」

「北の中学校勧められませんでした?」

「……勧められましたな」

「中学校のある丘の裏側に屠殺場がありました。毒を盛ったあとにそこに運び込んで処理していたんじゃないですかね」


 沈黙。まあそうだろうな。村落ぐるみで外の人間を殺し尽くす殺人村なんだからな。

 これどうするんだろうな、軍曹。俺が考えていることは単純にのるかそるかだ。即ち全殺しか半殺しか。程度の話じゃなく数の話だ。


「どうします? 説得には応じないでしょうし、ここに留まればその本性を現すでしょうよ。銃口を突き付けてきて一秒後には引き金を引くような相手に、軍はどんな判断をするんすかね?」


 このまま帰っても任務失敗。村人全殺しでも恐らく叱責からの一般市民を害したと責任を追及される。中途半端なことを行えばそのうち部下を丸ごと殺すことになりかねない。

 苦い顔で思案しながら俺を見る。


「……群狼ならどうしましたか」

「もちろん全殺し」

「……それではどうしても責任の追及は免れません」

「なんで?」

「この村にいる人間は百はいなくとも数十は下らない。そんな数を殺したとなればその痕跡を隠すことは不可能です」

「アンタたちだけならな」


 目を剥く軍曹に一つの取引を申し出る。軍の人間が見過ごすには難しいはずの内容だが、軍曹は吞むだろう。


「アンタらは調査継続なり調査の深度を高めるために一回報告に戻るといい。その間に全部始末しといてやるさ、痕跡ごとな」


 要は事が起こったのが彼らのいない場所であったとすればいい。時間的に無理なもんは無理なんだから相手も押し通すには無理をする必要が出る。たった4人を始末するのに自らの信用や切り札を切る価値があるはずがない。


「ま、タイムリミットは今日の夕方までだ。そのタイミングで去るといいだろう。後は俺達がやっておく」

「私達はー?」

「南か中央部で車の充電しとけ。隠れてるやつ引っ張ってこい」

「はーい。普通充電じゃ大したことないんだよなあ」


 軍の連中が軍曹を囲み話し出すのを見送り大天使に向かい合う。

 こいつの勘は人一倍優れたものだ。当然この村の異様な雰囲気に気付いているはずだ。


「この村がお前の周りにいた大人たちとは違うってこと、わかってんだろ?」

「……はい」

「お前の両親がこの村に来ていた。そう言ったらお前はどうする?」

「……え? あの、嘘、ですよね?」

「ああ。嘘だ。だが誰もお前の両親の行き先を知らないし、こういう村が他にないとは言い切れない。実際に行った可能性があるんだよ」


 一気に顔を青くする大天使に追い打ちをかける。


「お前が両親探しを諦めるというなら夕方以降も小屋姉妹といろ。諦めないというのなら俺についてこい。これが最後だ。ここで越えなければお前と両親の距離、お前から縮めることはできないと思え」


 青い顔に涙目で目を回しそうな状態になったので小屋妹に預ける。少しだけ責めるような視線を寄越したのはやりすぎだという事ではなく、面倒を押し付けやがってということだろう、多分。

 小屋姉が一緒だから問題は無いだろう。この辺りの住人が本性を現すのは俺達が足を止めた後のことだろうしな。

 話し合う軍の連中を横目に、俺はもうひとっ走りこの町の周囲を調査することにした。


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