第59話
総合病院の地下は中途半端な形で探索を終えることになった。
吸血樹木のサンプルは取れなかった。というか、あんなんあるなんて予想できるか。それより私は隙あらば採取しようとするドクターを押さえるのに必死になっていたのだが。
リーダーに連絡後は一先ず吸血樹木の影響範囲外から探索を進めていた。比較的規模の大きい医療機材を見つけはしたが運搬するのに無理があるという事で、少なくともフロアの安全を確保したうえで吸血樹木に対する明確な対処法を発見してからという事になっていた。要するにリーダーに任せようという事だ。
錦は経過観察用に持ってきていた撮影機材を設置し、お姉ちゃんはチェーンソーがあればなんて言いながら鉄パイプを振り回し、千聖ちゃんに本田さんと一緒に採取を試していたが、吸血樹木の耐久力はそんな彼らであっても容易に切断できないどころか、打ち付けたり刃を引いた部分がへこむ程度で全く採取が出来なかった。
ドクター謹製の薬品も効果が無かった。反応を見るという事では確かに根が蠕動するという反応こそ見れたがそれ以上は変化がでなかった。弛緩薬、忌避薬、結晶の拒絶反応作用を用いたショック薬など、いろいろと試したが効果があったものは無し。
まあ役立たずな私が記録係になるのは当然の流れなので、とりあえずぶつぶつと独り言を唱えながら視線を泳がせるドクターの見張りをしていた。何かを思いつくたびにどしどしと吸血樹木に近づいてゆくドクターは、うん、控えめに言って頭おかしいと思う。
一度、目の前を鉈が通り過ぎた時は心臓が止まったかと思うくらいに驚いた。千聖ちゃんは舌打ちしていたけど、ドクターを狙ったわけじゃないよね? 私とドクターの奥にいた植物のつる見たいものを狙ったんだよね? というかすごいね。電気室を復旧する前のタイミングで、明かりが確保できていなかった時だ。私はライト無いと全然見えないんだけど。え、見えるんだ。そっかー。
本田さんも天井から垂れてる蔓に手を伸ばしたりしないで。急に巻き上げようとした蔓から手を引いて躱したのはすごいと思うけど、心臓に悪いです。ほお、じゃなくてですね。まあ、そうですよね。不思議な靭性? 剪断応力? 引張応力? 何かはわかりませんけど、刃物も衝撃も何なら銃弾も痕跡が見えなかったですし。めちゃくちゃ固くて柔らかいというか、丈夫ですよね、この木。いや、もう木という何か。
そんな話をしている間にもドクターは吸血樹木を観察しようとぐんぐん近づいて行くし。ドクターがこんな様子だから物資の探索なんかも全然進まないし。結局早めに切り上げることになって病院から離れることになった。
車内の雰囲気は千聖ちゃんだけ凍てつくような殺気を纏わせていて、時折ミラーから覗く彼女の視線はいつにもまして険しいものだった。それに対して錦は苦笑いを浮かべるのはいつものことだけど、本田さんもドクターも午前中と何ら変わらない平静であり続けるから、まあ怖い。私にとっては運転しているという事と、次の目標の場所がすぐそばであるという事もあって比較的マシ、なのかな? まあこういう空気になることは何でも屋に行けば日常茶飯事だし、慣れっこではあるんだけどね。
総合病院から通りを一つ戻り、大通り沿いにあるのがアウトレットモールだ。この区画は少々作りが複雑だ。
同じブロック内に高級ホテルが建っていて、同区画内南側にアウトレットモールがある。そしてアウトレットモールは裏通りに橋を架ける形で隣の区画までその敷地を増やしており、建物と広い駐車場が広がっているのだ。
おそらく区画に最初にあったホテルの日照権や景観を考慮して2階建ての建物にして、隣の区画に通じる橋を架けたのだろう。何というか不思議な建物だ。
ちなみにホテルの方は記号の括弧のように建っている。南向きに開いた亀甲括弧のように展開する建物で、最上階である中央の7階はあからさまに作りがいい。区分けに関しても窓を見れば広くとられているのがわかる。いや、あれラウンジか?
このホテルは本来探索対象ではなかった。だが千聖ちゃんがここに
このホテル、実は先ほどの総合病院に隣のアウトレットモール、大通り沿いを北上した先にある血液センター、道路を挟んで北側の区画には図書館と探索予定地を考えると一時拠点として好立地なのだ。
とはいえ既に時間は昼を過ぎて、太陽が沈むまで3、4時間しかない。地下と1階を制圧? このメンツで出来る?
一時的な集積地を用意しようとした理由はドクターの要求する物資が想像以上に多いためだ。祭りのためのスカベンジじゃないの? なんか要求がやたらでたらめになっている気がするんだけど。千聖ちゃんも恐らくそう感じてる。まあ元々嫌いって公言してるしそれは仕方ないのかもしれないけど。大丈夫だよね? いくら何でも殺さないよね? 千聖ちゃん気分屋だけどこんなに機嫌悪くて大丈夫? え、リーダー呼ぶ?
「ドローン飛ばすからどっか安全なとこ止めてくれ」
「えーっと、ちょっと待って」
割とどうでもいいことを考えつつ、私はドライバーとして必要な条件を上げてゆく。
地下に行くのは決まってるから少なくとも近場のほうがいい。この周辺は木々、いやいっそ森の中にあるようなものでそこかしこに鬱蒼とした
ナビにはホテルの北西にぽつんと店舗がある。視線を向ければ小高い丘になっているが大きな建物が無い。というかこれはほとんど平屋というか1階建ての建物ではないだろうか。
「そこの斜にある建物に行くよー」
ちらりとナビを見ればお店の名前が表示され、家具店の文字。お、丁度いいじゃん。車に乗ってる収容物は箱に入れてはいるが雑多になっている。小物入れでも拾ってこようか。
アクセルを踏み込み、滑らかな加速に身を預けハンドルを切る。右に左に坂を上り目の前の建物を視界にとらえる。
全体的に白く、平べったい倉庫。建物中央は焼いた木材を組み合わせたような模様の壁でどことなくオシャレ。建物の左右の端にはガラスのショーウィンドウに自動ドアが跡形もない状態で佇んでいた。
窓ガラスが割れている建物なんて珍しくないけど、せっかくなら綺麗な状態で見たかった。店の奥は薄暗いが、店のいたるところに窓があるからかあまり暗い印象はない。とはいえドアも脆弱で奥も見通せるという事は都合がいいだろう。
「ここでー。私はちょっと店の中見てきたいんだけど?」
「あーどうする?」
「……二手に分かれる。私が見てくるから愛美はその後で。それまでは車を守ってて」
言うなりさっさと降りて店内に入り込む千聖ちゃんを見送る。こうしてみるとなんというか、速いよりもすばしっこいという感想が出てくる千聖ちゃん。急停止と急加速を自然とやってるからか、動きに違和感しかないというか。
「イライラしてんなあ」
「そう見えるか?」
「おー。あの感じだと
「ふむ。飢えた狼のような気配を出しておるな」
「……そういうの、見て分かるんですか?」
「ああ。ナイフを抜いて常に攻撃できるようにしておるように見えるな」
まあそうだよね。イライラしてたのは見て分かっていたことだし。
程なくして車外に出ていたお姉ちゃんが千聖ちゃんの調査が終わったことを伝えてくれた。
家具店の探索は私と千聖ちゃんの二人きり。元々あった家具を移動させた形跡があり、少しの間、人がここで過ごしていた形跡を見ながら、私は小物入れを探して歩く。
ふとじゃらじゃらと金属が触れ合うような音に振り替えれば、千聖ちゃんが漁っていた。
「何かあったの?」
「……ステーキナイフ」
「え、それで戦うの?」
「投げる」
「ああ、投げナイフ」
カトラリーのコーナーであれば私の探すものもあるかもしれない。というかナイフあったんだ。
「包丁とかはなさそう?」
「……探してみる」
「私は小物を詰める用の箱かなー。やっぱ整理整頓できると便利だしねー」
「……車の上には乗らないの?」
「乗せるにしてもキャリアだけだしねー。ボックスは別に用意しないと」
そもそも装甲取り付けにルーフキャリアやバンパーガードはよく使うものだ。本来の用途で使うだけなので特に面倒はない。ただしボックスは現在品切れ。Xlitには現在キャリアだけが乗っている状態だ。それでもある程度大きなものなら問題なく載せられるのだが、車の上という事もあってどうしてもばらけないように箱に入れる必要がある。
「ここにあるのでいけるの?」
「カラーボックスでもいいんだけど、固定しようとしてカラーボックス壊すか、緩めにして中身壊すかの違いがある、かなあ」
「ダメじゃん」
「オシャレ家具なら面白いのあるかなって」
「アウトドアショップは?」
「みんなが求めるからね。多分貴金属、食料品の次くらいに狙われやすいところじゃない?」
「……たしかに」
千聖ちゃんも少しづつ落ち着いてきたみたい。息抜きってわけじゃないけど、普段話をするようなテンションまで戻せたかな? まあ千聖ちゃんも空気を読んでくれたとは思うけど。
家具屋というだけあってラグにテーブル、ソファとチェア、カーテンなどが見本のように配置されており、さらにそこで過ごしたと思われる跡を見つける。血痕が無い、というのも少し不思議だったけど明らかに品数が減っている以上誰かが持ち出しているのは間違いない。
ここにいた人間が持ち出したのか、その後も誰かが継続的に持ち出していたのかは定かではないが、ここにはちょっとだけオシャレなソファやテーブルにチェアが放置されている状態だ。うわあ。もっと早く来ていればと思わざるを得ない。トラックだったらここにあるモノを運ぶのにためらいなんてなかったのに。
「……欲しいの? それ」
「え、うん」
「アジトにいっぱいあるじゃん」
「あるけど使ってない部屋は掃除してないからなあ」
「掃除して使って」
まあ、元々がファッションホテルなだけあって、アジトにあるホテルの部屋はそれぞれコンセプトごとに設置されている家具が違う。なのでまあ、そういった家具類は余ってはいるのだ。
「ニッカワにも欲しいなあ」
「ニッカワ? 置くとこある?」
それが問題だ。というかニッカワにはもっと使える家があって、こういう風に使いたいなあなんて考えているのに、あまり近寄るタイミングがないせいでなかなかそういったことにやる気が出ないのだ。なんでまあ、これは選ぶ楽しみというやつで。
「リーダーが家建ててくれないかなあ」
「新築の家とか贅沢。でもマックスなら」
「ねー」
普段から割といい生活をしているのは自覚しているが、それでもやはり非日常感というのは素敵な響きである。別荘地の住宅の一つでも綺麗な状態で解放してくれたらこれに勝る喜びはない。いや、そんなことはないんだけど。
「そういえばポンプ設置したんだっけ」
「そう。でも外まで」
「結局家の中で使うにはタンクに移し替える必要がある、と」
「そう。あっちは水風呂が標準らしい」
「八木さんと石田ちゃんに申し訳ねえなあ……あれ? たしか電熱湯沸かし器あったよね?」
「温くはしてるらしい。石田の介助がてら一緒に入ってるっぽいし」
「なるほど」
こんなこと言ってたらお風呂入りたくなってきたなあ。元々ファッションホテルでお風呂は趣向を凝らしたものがあるので気が付かなかったが、アレが無かったら割と入浴欲は高かったのかも。
「そういえば温泉入れる場所探すとかリーダー言ってなかったっけ?」
「言ってた。そういえば言ってた」
「なぜ二回。千聖ちゃんも温泉入りたい?」
「別に」
「またまた~」
「温泉って飲めるの?」
あ、そっちの心配? まあ安全な水源はあって損はないものね。
「飲めるものもあるはずだけど、ニッカワ辺りの温泉が飲むのに適しているかはわかんない」
「マックスなら飲めるようにしてくれるはず」
いくらなんでも。そう言おうとして止まる。あの人食料生産事情をクローニングで解決しようとしてるんだっけ。それに比べたらなんか現実的な気がしないでもない。というか、飲み水用にフィルターとか濾過器とか調達して現地で調整するなら、もしかしなくても私の仕事なのでは?
「……リーダーならできそう」
「ね」
私は何も聞かなかった。私は何も聞くことはなかった。だって車の調整もあるんでしょ、私。無理無理、普通にキャパオーバーだから。自分で言いだしたことでもあるし投げ出したりするつもりはないけど、リーダーみたいに何でもできるわけではないのだ。私、戦闘能力皆無のくそ雑魚ですから。そのおかげでさっきも迷惑かけてますし。さっきだけじゃなくて、リーダーと出会ってから今までずっとなんだけど。
先ほどまでの不機嫌を吹き飛ばした千聖ちゃんと、少しだけばつの悪い私が戻るころには錦の偵察も凡そを終えていた状態だった。
北向きのエントランスの前には色違いのタイルで舗装された車止めがあり、そこを周回するように楕円形のロータリーが弧を描いていた。ロータリー奥には駐車場がありそれは敷地の北東方面を埋めている。北側正面玄関脇、ロータリーからくいっと脇にのびる道があり、そこが地下駐車場への入り口らしい。
エントランスにあるドアの周りには廃材が散らされており、ここで一時的な防衛が行われたことを示していた。車でも置けば簡単に防護柵代わりになるだろうに、それをしなかったのは我先にと逃げたのか、それともすでに回収されたのか。
スゥーっというモーター音に低速だからかあまり感じないロードノイズを鳴らしながら、私は地下駐車場入り口手前で車を停める。
「地下にいるのよね?」
「十数程度だけどな」
錦の偵察の結果、ホテル内にいるゾンビは各所に散らばっており、確認できただけで50を超えるらしい。地下に20前後、各フロアに数体。中庭に設置されているチャペルの周囲に十数のゾンビがたむろしているらしい。
「じゃ、行ってくる」
「いってらっしゃい」
「気を付けてな」
とはいえ、ここに来た目的は地下を一時拠点として利用するため。元を辿れば隣のアウトレットモールの探索を安全に行うためにホテルのゾンビを処理するという目的がある。
いつも通り千聖ちゃんが釣って、お姉ちゃんが処理役。今回はそれに本田さんも参加する。私は撤退支援、錦は見張り、ドクターは暇してる。
たったった、と足取りも軽く千聖ちゃんが地下へのスロープを下っていくのを尻目に、私は運転席の窓を開け戦闘準備をしている二人に声をかける。
「玄関前で処理していいの?」
「うん」
「ふむ。確かに、亡骸を放置しても後々邪魔になるのではないか?」
「地下への通行に邪魔にならなければいい。多少残しておけば、普通は迂回する」
「人避けにするという事か」
「そう」
普通の人は人っぽい何かが倒れていればゾンビか遺体かと距離を取るし、少なくとも近づいては来ない。玄関前で処理するのはホテル内にある宿泊客以外が利用できる飲食店への入り口などの比較的狭い入口に誘導することにある。こちらは最悪地下駐車場さえキープできればいいのでホテル内の物資自体は然程重要ではないのだ。
もちろんいらないとは言わないが、ホテルにあるであろう物資のなかに今必要なモノは特にない。アメニティ類があれば、くらいの考えだ。
ちなみにではあるが、地下駐車場入り口は地上部分にコインパーキングにあるようなバーがあるくらいで、出入りがしやすいうえ、この地下駐車場は出入り口が2カ所ある。それがロータリーの北側にあるのだ。もし地下入り口に侵入者がいたとしてももう一つの入り口を使って逃げることが出来るという仕組みである。地下なので雨風も凌げ、立体駐車場のように拡張性も然程ないので一時的に利用するのに手間が少ないのもこのホテルの地下を選んだ理由だ。
キンキンと甲高い音が地下から響いてくる。音が遠くなったり近くなったりを繰り返しながら、地下出入り口から千聖ちゃんが姿を現す。その背後から群れになったゾンビたちがノロノロと続いてきていた。スーツやドレスといった礼服を身にまとったゾンビたちが今まさにロータリーに差し掛かろうかというタイミングで、お姉ちゃんが飛び込んだ。
ぐねぐねにねじ曲がり捻り上った鉄パイプを振り回しゾンビをねじ切っていく姉に続くように千聖ちゃんと本田さんが切り込んでゆく。千聖ちゃんが血風を撒き散らすのはいつものことだが、本田さんもチン、という音を鳴らしながらゾンビの首を飛ばしてゆく。程なくゾンビを殲滅し終えて、地下駐車場前には誰の者とも言えない肉片と赤黒い池が出来上がる。既に蒸し暑さを感じる風に乗って鼻腔を刺激する腐敗臭と鉄の匂いに、もはや懐かしさすら感じる。
血と肉と臓物が散らばった地下駐車場の坂を、溶け始めるアイスのように血河をつくって赤が流れ落ちる。ゆっくりと坂を流れる赤は北側でホテルの建物の影というのも相まっていっそ黒く見える。
「もう終わり?」
「一応全部釣ったけど確認してくる」
「いってらー」
千聖ちゃんもおねえちゃんも何も気にしてない。なんなら後ろに座っている錦なんて見張り代わりのドローン用のモニターから顔を上げてすらいないのではないだろうか。
ふと運転席から顔を出してホテルの上層を見上げる。センダイイズミロイヤルホテル。ロイヤルと付いた名がそのありようを示している。日本の建物にありがちなビル状の建物ではなく、かといって和風の建築物でもない。あくまで洋風。お城や西洋建築の名残がある名前どおりのロイヤルなホテル。
トウキョウにいた時はもっぱらビジネスホテルからの物資回収で、こういったグレードの高いホテルというのはあまり記憶にない。ほんの少しの探索欲に警鐘を鳴らすかのように、先ほどのキンキンという金属音が鳴る。千聖ちゃんが隠れているかもしれないゾンビを探すように刃物をこすり合わせているのだろう。
ややあってその音もなくなり、千聖ちゃんが地下から上がってくる。あれだけ血風を撒き散らしたというのに、その身にわずかに赤い斑点を残すくらいでここにいる彼女に、少しだけ畏怖の念を抱く。
「地下にアレあった」
「アレ?」
「車のバッテリー?」
「バッテリー? 誰かが生活してたってこと?」
「間違った。車の充電器」
「はああああ?!」
私史上最高近くの大声をあげて目の前の少女からアイアンクローを喰らうまで、あと3秒。
「やったー! やったやったやったー!」
「小声で叫ぶとか器用なことしてんな」
「とはいえ地下は流石に響く」
地下駐車場の壁に面したスペースが一面すべて電気自動車用の充電スタンドとなっている光景を見て、欣喜雀躍せずにいられなかった。求めても手に入れるのは難しいと思っていたものが、今では余るくらい存在する。とはいえ持ち運びできるようなものでもなければ、今現在、地下は非常灯がぼんやりとその暗闇の空間を照らすのみ。残された車が片手で数えられるくらいしかないのが幸いか。車のヘッドライトで周囲を照らしながら見回っているがゾンビや生存者の反応もない。
「電気復旧させた方がいいかなあ?」
「バッテリー足りない?」
「いんや、全然余裕」
「ここの充電スタンド持ってくなら電気室往復することになるけど」
「……リーダーにお任せ!」
「ぶん投げやがった」
これだけあれば余裕をもって売り込める。解体するのは面倒だがこれで行政と軍両方に一度だけ無茶を通せるという事を考えれば、苦労した分は元を取れるだろう。最初だけ軍を通して渡した後は、間に他の連中を挟んだ方がいいだろう。付きまとわれるのは以前もあったが、わざわざ自分から引き寄せる必要もない。
それに自分は車の整備がある。それなら他の人にやってもらわないとね。自己正当化を完了させて、私は非常灯を順々に見やり、ホテル内へ続く入り口を見つける。方向的にも建物の下に繋がるであろう場所を指し、声を上げた。
「使えるかどうか試さないとね!」
「うるさ」
「何でこいつこんな五月蝿いの」
「元気だね」
お姉ちゃん以外は散々である。ドクターにも苦笑いされているが、本田さんの微笑ましいものを見るような目に、少しだけ居心地の悪さを感じた私は腕を振り上げて駆けだした。
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