第32話 魔石の分類法

 僕が精霊の声を聴けるなんて話が、どこから出てきたのだろうか。


 でも、これはある意味渡りに船。

 意味不明ではあるが、それっぽく言ってみてもいいかもしれない。


「精霊の声ってのはよくわからないけど、見てるだけでなんとなく魔石の種類がわかっちゃうんだ」


 もはやカミングアウトと言ってもいいけど、誤魔化せそうな気がする。

 ヒューイは案外単純だし、下手に隠すよりも真実を告げた方が上手くいくと思うんだ。


 なんてことを考えていたけど、単なる僕の浅知恵でした。


「そうなんですね。ですが、精霊の声ではないとすると、殿下にはどのように見えているのでしょうか?」


 そうヒューイに尋ねられたことで、僕は返事に困ってしまったのだ。


「え……っとね、魔石からモヤッとした光が出ていて、それで見分けがつくというか。その赤い魔石からは炎の揺らめきを感じるし、こっちの土の魔石からは荒々しさっていうの。それからそっちの白魔石は吹きつける強風のイメージが伝わってくる、感じかな……」


 と、僕は漠然としたイメージを彼に伝える。

 これで勘違いしてくれれば儲けものって思ったけど、どうやら更なる勘違いを生んだらしい。


「やはり……、それはたぶん殿下に精霊が教えてくれているのですよ。もともと魔石には精霊が宿りやすいと言われていて、魔物の体内で生成された魔石は外に出ることで精霊を吸収すると考えられております」


「へえ、そうなんだ」


 ……って、いや何それ、怖い。

 そんなわけないよね。


 たぶん魔石はそれぞれの属性を持った魔物の体内で生成されるから、そこに宿る力もその属性になると考えた方が自然でしょう。


 それにさっき、レッドウルフから火の赤魔石強を手に入れたって言ってたし……。


 でも、ここは否定するより乗っかった方が楽かな。


「じゃあ、僕は精霊の姿がボンヤリ見えるんだね」


「はい、そうだと思います」


 よし! 勝った。


 これで彼の誘導に成功。まだ厄介なトムさんが残っているけど、先日の負い目があるから深く詮索してこないと思うんだよね。


 実際、彼らは仲間だけど、他人の情報を盗み見る鑑定なんて能力は、知られない方がいいと思うんだ。

 まあ、僕の見れる情報なんて野球ゲームのパラメーターのようなものだけど、ステータス画面を見れない人たちは信じてくれないだろうし、むしろ僕に恐れを抱くような気がする。

 たぶん、誰も僕に近づかなくなるのだろう。


 でも、それはイヤだ。


 だから、僕はこの秘密を誰にも打ち明けないつもりだ。

 死ぬまで墓まで持っていくなんて言葉があるけど、ほんとその通りだと思う。


 そのためにも僕は勘の鋭い人たちを上手く誤魔化さなきゃいけないのだけど、絶対に成し遂げてみせるぞ。


 そう、改めて誓うのだった。





 さて、本題に戻ろう。


 これでヒューイとゲイル、リティスにトムさんとその仲間たち、というチームができたのだ。

 魔石を使った武器の開発を進めて、少しでも戦闘を楽にして貰いたい。

 そして、少しでも早く野球道具一式を揃えて欲しいと思う。


「殿下、いかがなさいました?」


「あ、うん、ごめんなさい。ちょっと妄想してました」


 おっと、いけない。またいつもの癖が……。


 よし、今度こそ本題に戻ろう。


「それで、ヒューイ。この魔石は僕が貰ってもいいの?」


「はい、これらは全て殿下へ献上いたします」


「ほんと?」


「はい、研究の成果を期待しております」


「うん、わかった!」


 僕が大量の魔石を手に入れてホクホクしていると、そこへ今度はヒューイと入れ替わりにリティスが訪れる。


「マルクス殿下、ご要望の用紙を作成してまいりました。こちらで間違いないでしょうか?」


 彼女が持ってきたのは魔石を種類分けするするための分類表だ。

 赤系統の魔石や青系統の魔石、黄系統や白系統と分けた後、更に細かく分別するための表である。

 それぞれの効果を書き出し、名前までも決めてあるのだ。


 例えば、火の赤魔石、火の赤魔石強、熱の赤魔石、熱の赤魔石強のように、魔石はそれぞれ四種類に分けられる。

 今までは赤魔石に火の出るものと温度が高くなるものがある、みたいに曖昧な感じであったが、これで正確に分類できるのだ。

 決め手となるのはその名前。鑑定結果やテキスト欄に書かれていた物を参考にしたが、これが本来あるべき呼び方なのだろう。

 そのままリティスに伝えても、全く疑問を抱いていなかった。


「うん、ありがとう。今までにわかっている魔石はこれだけだね。これにヒューイから貰った魔石を割り当て、組み合わせを考えよう」


「はい、では仕訳けていきますね」


 こうして種類ごとに分類していけば、必要な魔石もすぐわかるというもの。


 僕が必要とする魔石の内、研磨の土魔石強と風の白魔石強、癒しの黄魔石強と水の青魔石、火の赤魔石がこの場にあるのだ。これでトムさんのところにあった風の白魔石強を使えば、目的だった魔法道具が作れることになる。


「うん、全部ありそうだね」


「はい。では私はこの五つの魔石をトムさんに届けますね」


「お願いします。でも、回復ポーションに関しては秘匿事項だから、情報漏洩には注意するんだよ」


「もちろんでございます。マルクス殿下の意にそぐわぬことは、いたしませんわ」


「ありがとう」


 これで僕の目的だった火炎杖と風刃剣、回復ポーションが作れる。

 あとはヒューイたちが戦いに生かしてくれれば、僕も安心して彼らを送り出せるというものだ。




 そして、僕の希望通りの結果が出た。


 これまで遠隔攻撃は弓が主体であったが、たった一本しかない火炎杖でもその効果は絶大だ。

 当然数には勝てず、弓での攻撃は必要だが、単体での強者に対してはその威力がものをいう。

 動物系の魔物などは炎を怖がるものも多く、また植物系の魔物には無双といっていいだろう。


 そして近接戦ではヒューイの持つ風刃剣が魔物を薙ぎ倒す。


 刀身から放たれる斬撃は強力で、敵を近づけさせることなく倒してしまうのだ。

 今までであれば届かなかった巨大な樹木の魔物に対しても有効で、苦戦したアロン樹でさえ簡単に仕留めたという。


「流石だね」


「いえ、それも全て殿下のお陰です。これまで無事戦ってこれたのも、殿下の考案された回復ポーションなるものがあったからでしょう」


「ああ、アレはすげえや。とりあえず、生きてりゃあ、どうにかなるからな」


「はい、流石に欠損部位までは再生できませんでしたが、切れた腕もくっつきましたからね。死者が出なかったのも、マルクス殿下のお陰でございます」


 そう僕を称賛するのは、大切な仲間たちだ。

 彼らはこんな子供である僕に対しても、敬意をもって接してくれる。


「こんなに恵まれ過ぎていても、いいのだろうか?」


「もちろんですじゃ。そのような坊っちゃんだからこそ、皆が付いていくのですぞ」


「ありがとう、トムさん」

 

 この日、僕の欲しかった野球道具一式が、ついに完成したのだった。

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